『あなたがしてくれなくても』ドラマと異なるゴールへ。「夫婦とは」を問いかける原作マンガの最新刊は、愛する人と生きたい者の希望

マンガ

PR 公開日:2023/11/25

あなたがしてくれなくても
あなたがしてくれなくても』(ハルノ晴/双葉社)

 セックスレスが苦しいのは、性欲が満たされないことではなく、自分の欲望をないがしろにされて、真正面から向き合ってもらえないことなんじゃないかと思う。ドラマ化でも話題となったマンガ『あなたがしてくれなくても』で主人公・みちの心を折ったのは、結婚5年目にしてセックスレス2年という事実以上に、解消しようとする彼女に夫・陽一が放った「性欲強くない?」という言葉。その後、みちは同僚の新名――出版社で働くバリキャリの妻・楓に対して同じ苦しみを抱えている彼と、傷を慰め合ううちに惹かれるようになってしまう。

 夫の心移りに気づいた楓は、みちを呼び出し、やり場のない怒りをぶつける。けれど、たかがセックスしなかったくらいで、と罵る楓に、みちは言うのだ。体の関係がないことだけが辛いんじゃない。自分に魅力がないのではないかと自信を失い、友達の幸せを心から喜べなくなり、一生この生活が続いていくのかと想像して絶望する。その孤独が何よりも苦しいのだ、と。

 もちろん、だからといって浮気していいわけじゃない。だけど、一生この人だけと決めて契約をかわした相手が、自分のことを見てくれない。求めてくれない。その痛みを切々と、みちと新名の視点で描くだけでなく、陽一と楓の心情も丁寧に掬いあげているところが、本作に多くの読者が惹かれる理由だろう。

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 正直、どこまでいっても甘ったれで、その場をやりすごせればいいという意識が抜けない陽一には共感よりも苛立ちのほうが強い。だが物語が進むにつれて、これまで絶対に見せないようにしてきた情けない部分も曝け出してまで、みちを失うまいとあがく彼の姿には心打たれるものがあった。

 楓に対しても、同様である。嫌悪していたはずの“男にすがる感情的な女”になって、必死につかみとってきたキャリアと天秤にかけてまでも、新名を繋ぎ止めておこうとする彼女の葛藤にも、共感する読者は多いだろう。

 みちと陽一の関係に亀裂を入れた決定打は、みちが子どもを欲しがっていたことを知りながら、子どもをつくる気がないことを隠していた陽一の不誠実さだが、欲しくない、という感情自体は決して責められるものではない。仕事を優先したい、という楓の願いもまた。それがただ、みちや新名の望む未来と合致しなかっただけで。

 夫婦とはなんだろう、と本作を通じてつくづく考える。なんでも本音を話せばいい、というものではない。けれど納得できない事象を積み重ねていけば、それがどんなに些細なものでも、いつか破綻が訪れる。でも――どうしたってお互いに納得できる着地点が見いだせないとき、それでも別れたくないとき、いったいどうするべきなのか。

 正解は、ない。だが、大切な人との未来を守るため、自分自身の弱さにもいかに向き合っていくべきかということが、本作では問われ続けていた気がする。2組がたどりついた、ドラマとは異なる結論と、大切な人と共倒れにならないために手に入れる自分だけの強さ。それは、愛する人と生きていきたいすべての人の希望になると思う。

文=立花もも