本好きなら共感する内容ばかり…新たに5編が追加された、本や書店にまつわる脱力エッセイ『ちょっと本屋に行ってくる。NEW EDITION』

文芸・カルチャー

PR 公開日:2023/12/1

ちょっと本屋に行ってくる。NEW EDITION
ちょっと本屋に行ってくる。NEW EDITION』(藤田雅史/issuance)

 私の生活の傍らには、いつも本がある。子どもの頃から現在に至るまで、“本”という存在に幾度となく救われてきた。そんな私にとって、藤田雅史氏のエッセイ集『ちょっと本屋に行ってくる。NEW EDITION』(issuance)は、タイトルを一目見ただけで惹かれずにはいられなかった。

「ちょっと本屋に行ってくる」

 本書のタイトルであるこの台詞を、日常的に発している。何かに行き詰まった時、心が疲れている時、自然と本屋に足が向く。

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“「読みたい」は「会いたい」に近い。”

 本書のまえがきに記されたこの一文に、深い共感を覚えた。2022年に刊行された『ちょっと本屋に行ってくる。』に新たに5編のエピソードが追加された本書は、本好きにとって共感の嵐であろうエピソードが多数綴られている。SNS上でも、「本好きなら共感する内容ばかり」「“脱力エッセイ”と称されているだけあり、どの話もクスッと笑えて気軽に読める」などの声が多く聞かれる。

 町の小さな本屋さんをめぐる1日、文庫本への愛着など、エッセイの内容は多岐にわたる。中でも印象深かったのは、「子どもを放置する場所」の章だ。子連れで本屋に行く際の「あるある」エピソードが満載で、二人の息子を持つ私は、「そうそう、本当にこれなのよ」と頷くばかりであった。子どもが本以外の玩具やガチャガチャに誘惑される場面、未精算の本を持った状態で子どもに「トイレ」と言われた時の葛藤、自分の本を吟味する余裕など欠片もないバタバタ加減。“本好き”が子どもを連れて本屋に行くとこうなります、という内容を読みながら、息子たちの幼い頃を懐かしく思い返した。

 この章では、著者のお子さんたちが小学生になり、成長と共に親の手を離れていく様子もあわせて綴られている。子どもが小さいうちは、本は子どもにとって「出会うもの」ではなく「与えられるもの」だ。しかし、自分で好きな本を選べるようになってからは、それが主体的な「出会い」へと変わる。自分の好みを我が子に押し付ける親も中にはいるが、著者は「子ども自身に好きな本を選んでほしい」と願っている。

“本は自分で選ぶものだ。自分の好きなことをもっと楽しむために、もっと知るために。それができるところに、本屋の自由がある。”

 著者の息子さんは、歴史が好きで日本史の棚の前で立ち読みをしていることが多い。娘さんは未だ親のそばから離れない様子だが、やがて息子さんのように好き勝手に本屋内を闊歩する未来を著者は心待ちにしている。親も子も自由に歩き、自由に選び、自由に楽しめる。それが本屋という場所で、その懐の深さゆえ、著者は「子どもを放置したい」と願うのだろう。ちなみに、現在私の息子たちは二人とも大きくなり、自分が読みたい本を自分で選べるようになった。そのぶん、私自身にも本を選ぶ余裕が生まれ、子連れで行く本屋は修行の場ではなくなった。当時の気忙しさを懐かしく思うことはあれど、「あの頃に戻りたい」とは思わない。互いに読みたい本を選べるようになった今、親子共々すこぶる快適である。

 また、「本が本屋さんでしか買えなかった頃」の章も、個人的に深く共感した。ネット通販が主流の現代において、本は自宅にいながらスマホ一つで買える時代になった。Amazonや楽天ブックスなど、大手のサービスを利用すれば翌日には読みたい本が届く。実に便利な時代である。しかし、そのようなサービスが普及する以前、欲しい本をその日のうちに手に入れるためには、本屋をハシゴするよりほかなかった。

“だって今すぐ読みたい。これを読まなきゃ先に進めない。悶々とする。そういうときがある。”

 本好きならば、おそらく誰もが陥ったことのある感覚だろう。本屋で発注すればいずれ手元には届くが、それにはやはり時間がかかる。著者が言うように「今すぐ読みたい」本がある場合、私は令和の現代であっても、やはり本屋をハシゴしてしまう。Amazonの「翌日配達」さえも待てない。基本の性格がせっかちなわけではない。ただ、本に関してだけは、何らかのバグが発生する。

「本が本屋さんでしか買えなかった頃」の章の終わりには、「ネットで買えないもの」が記されている。それが何なのかは、ぜひ本書を手に取ってじっくり味わっていただきたい。ちなみに私は、本書の中でこの一節がもっとも深く心に残った。

 今回の「NEW EDITION」で追加となった「文庫になりたい」や「その生理現象のために」なども、多くの本好きが共感するエピソードであろう。また、本書は本好きな人だけではなく、日頃あまり本に馴染みのない人にもおすすめしたい。1編が短くさらっと読める分量の上、柔らかい言葉で何気ない日常が描かれているため、本に馴染みがなくとも気負わずに手を伸ばせる一冊であると思う。「本好きならこうあるべき」とか、「本の正しい選び方」とか、そういったお仕着せは一切ない。

 誰もが、もっと自由に軽やかに本と出会えますように。本のある世界が、いつまでも続きますように。そんな著者の願いが込められた本書を読み終えたなら、きっとこう言いたくなるだろう。

「ちょっと本屋に行ってくる」

文=碧月はる

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