「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は本当?暮らしの中に潜む事象を“地理”で解説する一冊

暮らし

公開日:2023/12/2

皆様、本日も家事育児お疲れ様です。
『地理がわかれば世界がわかる! すごすぎる地理の図鑑』(監修:日本地理学会/KADOKAWA)

 旅行や街歩き、ちょっと視点を変えてみると見どころが倍増する。見慣れた風景、いつもの生活さえも、面白く見えてくるから不思議だ。それには「地理」を知ること。

「地理の図鑑」(監修・国土地理院/KADOKAWA)では、地図、地形、自然、暮らし、歴史……、いまの暮らしの成り立ちが、実は「地理」によるところが大きいことを教えてくれる。

「地理」と聞いて、退屈な授業を連想する人が多いかもしれない。しかし、「天気の図鑑」からはじまったシリーズ累計45万部のこの図鑑は、誰もが知る場所や有名な現象を例に分かりやすく解説。地理がグッと身近になって、楽しく感じられるようになる一冊だ。

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 地形と自然の関係からは、意外な事実が分かる。サザンオールスターズの歌詞にも出てくる神奈川県、湘南海岸の「江の島」。島なのに、実は陸続きだということをご存知だろうか。干潮のときは陸とつながっている様子が見える。

 このような陸続きの島を「陸繋島」といい、陸と島をつないでいる部分の地形は「トンボロ」と呼ばれている。陸と島の間がそれほど離れておらず、水深の浅いところにできる地形のことで、元々は島だが、周りの波や海流の影響で砂が溜まり、陸続きになるのだ。
 かの有名なフランス西海岸の観光地「モン・サン・ミシェル」も同じ「陸繋島」。
ぽっかりと浮いているように見えていた島も、水面下の形状を知ると風景の感じ方が変わるだろう。

 また、気候が地形と関係している例に、川端康成の小説「雪国」の冒頭がある。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という有名な一節。「本当にトンネルひとつでそんなにも気候が違うのか」という疑問に答えてくれる。
 舞台は群馬県と新潟県をつなぐ清水トンネル。そこに位置する「三国山脈」が日本海側と太平洋側の気候を大きく分ける境界となり、トンネルの前は晴天、抜けた途端に大雪という極端な現象をつくりだしている。小説を演出する大げさな表現ではなかったのだ。

 いまの暮らしも地理との結びつきが大きいことを知るのも楽しい。一例に、東西のうどんつゆの味と色の違いだ。その理由は江戸時代の航路。
 西廻り航路の「北前船」は現在の北海道まで航路を延ばし、特産の昆布、ニシン粕を買い付け、下関を経て大阪に向かう。昆布は途中の寄港地、新潟や敦賀で降ろされ、瀬戸内海や大阪の食卓に浸透していった。
 しかし、江戸の庶民の食卓にまでは昆布が十分行き渡らず、関西は昆布ベースのつゆ、関東は醤油ベースのつゆとなったのだ。

 何気なく眺めていた風景、耳にしていた光景、口にしていた味……、多くの「いま」を生み出したことが分かる「すごすぎる地理の図鑑」。世の中の見え方が変わってくるほど、タイトルどおり、すごすぎる! この図鑑で得た知識をちょっと誰かに披露すれば、一目置かれる存在になれそう。
 すべてルビがふってあり小学生から読めるので、親子の会話も弾みそうだ。

文=小野めぐみ

【著者プロフィール】
監修・公益社団法人 日本地理学会
日本最大の地理学関係学会。グローバルな環境危機や自然災害に対し、大地と生活する人類を総合的に研究調査、対策に立案に貢献している。