「最後まで読めるというのが最重要」――『僕の殺人計画』を描いた気鋭のホラークリエイターが小説家デビュー作に込めた思いとは
公開日:2023/12/20
ミステリー小説が好きな人、怖い話に興味のある人におすすめしたい作品。やがみ氏の初小説『僕の殺人計画』(KADOKAWA)である。著者の本業はチャンネル登録者数75万人超のYouTuberであり、発売後たったの2日で重版が決定したことでも話題になっている。今回は、ご本人が作品にこめた思いをうかがった。
「本を読めという大人」と「本を読まない世代」をつなぐ橋渡し役になりたい
――初小説ということですが、いつごろから本に興味をもっていたんでしょうか。
やがみ:小学生の頃からですね。でも、いわゆる〝本の虫〟と言われるような読書量ではなく、まわりの子たちと比べたら、比較的多く読んでいるという程度でした。僕は、本そのものというより、図書室などの空間が好きだったんです。同じ学校のなかなのに、教室とはまったく違う様相ですよね。静かで、でもどこか神聖な場所のような気がして。
――場所を気に入って本を読むようになるというのは珍しいかもしれませんね。図書館や図書室に集まる人はそもそも本が好き、という印象があります。
やがみ:そうですね。最近の子どもたちは本を読まない傾向にあると言われているんですが、僕にはその気持ちが分かります。親も学校の先生も、塾で出会う大人たちも「本を読め」と言う。だけど、文章を読むのは時間がかかるし、最近ではYouTubeなどの動画でエンタメを吸収しているから、娯楽としても立ち位置が変わっています。
ただ、僕は自分で小説を書いてみてほかの作品をさらに読んでみたくなったし、小説の面白さにあらためて気づきました。「本を読め」という大人と「本を読まない」若者たち、僕にはどちらの気持ちも分かるからこそ、両者の橋渡し役ができるのではないかと思っています。
――橋渡しとは、具体的にどのようなことを考えていらっしゃいますか。
やがみ:少し前置きさせていただきたいのですが、僕は今まで「〇〇賞を受賞!」と書かれている本を読んでみて、純粋に面白いと思うことがあまりありませんでした。これは、僕の読書量が少ないからであって、面白いと思えるほど造詣が深くないという、恥ずかしい話ではあるんですが。
しかし、本を読まない若者たちにもこの感覚は分かってもらえるのではないかと思います。おそらくですが、誰でも「本を読んでみよう」と思うきっかけはあるはずです。そのときに、書店に行って賞を取っているものを目にする。当然目立ちますし、「みんなが認めているんだから自分も楽しめるはずだ」と思ってしまうんですよね。でも、実際に読んでみると難しい言葉が並んでいて、物語の状況を頭のなかで再現できない。こうなってしまうと、「みんなが認めているものを楽しめなかった」という経験だけが残ってしまって、本から遠ざかってしまうというのもあるのではないかと思います。
話を戻しますが、僕は今回の小説をきっかけにして「本も悪くないな」と思ってもらえたらそれでいいと思っています。もしかしたら、ミステリーに造詣の深い人が読んだら物足りなさを覚えるかもしれません。でも、それでも僕は構わない。本を好きになる最初のステップには、最適な小説が書けたと思っています。
読了できる小説を書く。それが越えなければいけない最低限のハードル
――若い世代でも読みやすいように意識していることはありますか?
やがみ:文章に関して僕が目指しているのは、クセがなくて読みやすいものです。個性を出していくのも武器になるとは思っているのですが、まずは読み終えられるかという最低限のハードルをクリアしないことには始まりません。水を飲むような感覚で、文章が体へと染み込んでいってほしいというのは意識していることです。
僕が主に活動しているのはYouTubeというフィールドですが、動画って目立たせたいところに効果音を入れたり、テロップを入れたりして「大事なところ」が分かりやすくなっているんです。そういうテクニックで、見ている人を飽きさせないということができますが、文章はそうはいかない。よく「行間を読む」なんて言われますが、文章には文章の目立たせ方があるんですよね。これから先、また小説を書く機会があるときにも飽きさせないように、物語に引き込むことは忘れないようにしたいです。
――これからの話が出ましたが、どのような活動をしたいなど具体的な目標はありますか?
やがみ:大きく分けると3つありまして、まずは自分の書斎をつくりたい。今回の経験で、本を読む楽しさをあらためて知れたので、もっと吸収したいという意識が大きくなりました。ふたつ目は、読書の楽しさを伝えていきたいということ。正直、自分が儲かるかどうかはどうでもよくて、「本って面白いんだ」という感覚が広まってくれたら嬉しいです。
最後の目標は1000ページを超える長編小説をいつか書いてみたいということ。まだ本の面白さを伝える段階なので、これは実現するとしてもかなり先になるのかなと思っていますが、いつか叶ったら嬉しいですね。
取材・文=山岸南美