蒙古タンメンを食べる/絶望ライン工 独身獄中記⑧

暮らし

公開日:2023/12/13

絶望ライン工 独身獄中記

日々退屈である。
同じ部屋、同じ職場、同じ通勤電車からの風景。
あれこれと新しいことを始めてみるが、人生を変える程の邂逅とはいかない。
刺激がないんだ刺激が。
こうヒリつくような刺激はないものか。パチンコより恋愛より官能的でファストで再現性のある、そんな体験はないのか。
そこで蒙古タンメンの出番となる。

蒙古タンメンとは、東京を中心に展開する旨辛ラーメンの名称である。
ぶっとい麺を使った味噌タンメンに麻婆豆腐がのった、大変刺激的な食べ物だ。
これが大変に旨い。そして痛い。
快楽と痛みが交互に襲ってくる凄まじい食べ物であり、私はこれが大好きだ。
一時期ほぼ毎日食し、その結果体調を著しく崩した覚えもある。
当時SNSの名前を「蒙古タンメンマン」とし、毎晩赤いラーメンの画像を投稿していた。
懐かしい。私は怖い物知らずで、愚かだった。

先日久しぶりに蒙古タンメンを食べた。
目黒で飲み、帰りになんとなく寄ってしまったのだ。
冷やし味噌ラーメン、北極といった激辛メニューもあるが、私は「五目蒙古タンメン」というやつが好きです。
蒙古タンメンに辛い肉と野菜、ゆでたまごがトッピングされた最強の逸品。
これにライスをつけるのが蒙古タンメンマン流である。

上層の赤い連中を一口すすればヒリつく辛さだ。注文したことを後悔する。
なんでこんなことになってしまったんだろう。どこで道を違えたのか・・・
しかし野菜の溶け込んだ甘いスープはまろやかで、優しくてどこまでも美味い。
ああ、あんなにつらかったのに、今こうして優しさに触れている。
これは赦しだ。救済だ。
生まれてきて良かった。出会いに感謝、絆──

そんな思考のジェットコースター、高低差を楽しむのが蒙古タンメンであると感じる。
そしてこれはあるものと同じなんです。
そう、DV男である。
皆大好きDV男。彼らはモテる。でもそれめっちゃゎかるの。
だって優しぃんだょ。ウチのこと、本気で叱ってくれるの・・でもそのぁと優しく抱きしめて殴ってごめんね、ってゆってくれるの。
ウチ、頑張ってキャバクラで働ぃてパチンコ代稼ぐからね。
そしたらまた蒙古タンメン食べょ。

殴った後優しい、はつまり辛い後に来る野菜の旨味である。
女性に優しいだけの男はダメだ。
モラハラ男とDV男はいつの世も一定数のファンを獲得している。
そして蒙古タンメンを旨いと感じる私たちもまた、彼らに魅了されている気がします。

モラハラ男は年収分布から見ると上位のため、殴らないし高収入でまだマシと思えるが、DV男は一律に学歴も収入も低い傾向にあり、地獄やで。
しかしモテる。やはり女も殴れないようなヤツはダメなんだな。
常にモテを研究してきた私からすれば、DV男は圧倒的な強者である。
女は強いオスを求めるというけれど、それを疑似体験できるVRが「蒙古タンメン」なんです。

そして舌の痛みを和らげるために分泌される脳内麻薬、こいつでふんわりとした心持ちになるというのも、恋愛の喜びに通ずるものがあると感じる。
ウチつらぃょ。会ぇなくて心がシクシク悲しんでるの。
ねぇどうして出会っちゃたのカナ・・こんなにつらぃのにずっと会ぃたぃって思ぅの。
ウチらつきぁってんのに片おもぃみたぃでマジ卍ジョン万次郎

痛みをともなう悦び、それは愛だ。
ウチぃたくてツラぃんだケド心がなんだカぽかぽかするの。
幸運にも、我々はおいしいラーメンを食べて愛を知ることが出来ます。
痛みしかないマッチングアプリや婚活パーティーでは愛に辿り着けない。
真実の愛は丼の中で深紅に輝く。

中卒のDV男にハマる地獄の始まりである。

<第9回に続く>
絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。