妄想炸裂!『ラーメンがすきすぎて』絵本作家・サトシンさん×田中六大さんインタビュー(Gakken)

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/12

11月の新刊『ラーメンがすきすぎて』は、人気絵本作家のサトシンさんと田中六大さんによる絵本『おすしがすきすぎて』の第2弾です。テーマは、子どもたちに人気の食べもの、ラーメン。前作に続き、ラーメンだじゃれや、将来の夢はラーメン屋さん、ぼくの体のひみつ……など、ラーメンにまつわる妄想が炸裂していきます。作者のサトシンさん、田中六大さんそれぞれに、作品に込めた思いや、作家としての原点などをたっぷり伺いました。

ラーメンがすきすぎて

作:サトシン 絵:田中六大

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出版社からの内容紹介

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すべてのラーメン好きの ちびっこに贈る
究極のラーメンの絵本!
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ラーメンが大好きなぼく。朝からラーメンが食べたいと思うけど、そんなの無理とママ。だけどぼくは、ついラーメンのダジャレを言っちゃうし、デートはラーメン屋さんで、将来の夢はもちろんラーメン屋さん! ラーメンが好きすぎるぼくの爆笑妄想ストーリー。

*** 妄想満載! 『ラーメンがすきすぎて』の見どころ ***

◆嬉し恥ずかし デートはラーメン屋さん!
◆みんな大好き! ラーメンダジャレ
◆将来の夢はラーメン屋さん! こんなラーメン食べてみたい!
◆びっくり! ぼくの体の解剖図

*** 読者・保護者からの声 ***

◆我が家の男子に大ウケでした。小3の息子は特に気に入ったようで、「この絵本は絶対に人気になるよ!」と自信満々に言っていました。(小3男の子のママ)

◆一番好きな場面を聞いてみたら、食べてみたいいろんなラーメンのシーン。特にカプセルラーメンがいいそうで、理由は「中に大好きなたまごがたくさん入っていそうだから」。妄想が膨らんで楽しい絵本ですね!(小2・小5男の子のママ)

サトシンさんインタビュー

子どもらしい妄想と笑いがたっぷりの『ラーメンがすきすぎて』。サトシンさんに作品に込めた思いや、作家としての原点を聞きました―。

―「好きなことは自分を強くしてくれる」という思いを、本にしたかった

元々、「好きって気もちは強い」と思ってて、そういうのを絵本にしたいなとそのとき思ってたんです。それまでも、虫が好きだから、虫の幼虫が主人公のお話やら、アリが主人公のお話をつくっていたこともあって。そういう意味では食べ物も好きなのいろいろあるんだけど、Gakken さんに提案するときは、そういえば食にまつわるものはまだ本格的に書いてなかったなと思って。それが、この絵本のきっかけといえば、きっかけです。とりわけ大好きなのがラーメンとおすしだったもんで、「そんじゃこれだ~っ!」と思って、まずは思いのままにバババーッと書いた感じです。ラーメンとおすしは子どもも大好きだし、自分も子どもも大好き、子どもにも身近なものを題材にすればチョー喜ばれるだろうと思ったんですね。

―おもしろ素材をあつめて、大きな筋を考えていった

バババーッと書いたと言っても、そんな短時間で書いたって意味じゃないですよ。まずはおもしろポイントは何かなーって、素材を集めるんです。絵本は32ページあるわけだから、展開できるネタもいろいろある。だじゃれとか、おもしろおすしとか、おもしろラーメンとか。ストーリーを起承転結に沿って考えていくとかじゃなくて、素材にできそうなおもしろパーツをランダムに集める感じです。そうやって集めたパーツを俯瞰で見つめて、なんとなく筋というかうねりを考えて、枝葉をつけて構成していったんです。

そんなこともあって、第1弾の『おすしがすきすぎて』のときは、プレゼン後の実制作で編集さんに順番とっかえてみたらどうかとか、ここはもっとネタを加えてみてとか、いろいろ言われたりもして。本来はテキストをいじられるのはあんまり好きじゃないんですが、元々そういうつくり方だったもんで、組み替えたらもっと素材が活きたり、わかりやすくなったと自分でも思うことがあって、今回の企画に関してはいじられたのがよかったと思います。編集さん、ありがとさ~ん!ですわな~。

―最初から「おすし」「ラーメン」の2本書いて企画を出した

『おすしがすきすぎて』と『ラーメンがすきすぎて』の企画は、最初から2案同時に出しました。そしたら「大好きは強い」と思って出したという企画の印象も強まるだろうし、だからこそ会議でも通りやすいんじゃないかなと思って。結果、編集部の評判もすこぶるよかったらしくて。ただ、オレはラーメンのほうが好きなのに「おすしからいきましょう」って言われたのにはアラッとは思いましたね。でも「『おすし』で成功したら『ラーメン』も出しましょう」と編集さんに言われ、俄然がんばったということはあるかな。第1弾の『おすしがすきすぎて』では当初のプレゼンから構成的にいろいろ手直ししたんで、第2弾を出すことになったとき、第1弾に合わせて『ラーメン』も手直しをして。2本まとめてつくったのは、結果として相乗効果が出てくることもあってよかったんじゃないですかね~。

おすしがすきすぎて

作:サトシン 絵:田中六大

サトシンさんによる『おすしがすきすぎて』の読み聞かせ動画はコチラ!

―絵本は、文の作家と絵描きがキャッチボールして作っていくもの

絵本作家としてかけ出しの頃は、ラフまで描いて企画提案してたんですよ。出版社によってはビジュアルがないと判断できないし、会議にものせられないというところもあるし。でも今は、自分の場合はですけど、ラフは一切なしで、説明もあまり書きすぎないようにしていますね。もちろん自分の頭の中では「こういうビジュアル」は必ず思い浮かんでいて、絵本として成立することはきっちり考えた上で提案しているわけですが。それはさておき、一度テキストと簡単なト書きだけで絵描きさんに投げて、いろいろ膨らませてもらって、「これどういうことですか?」って聞かれたら答えるようにしてます。絵本は多くの場合、文の作家と絵描きさんがキャッチボールして、絵描きさんの能力引き出したほうが面白さが倍増していいものになるって、わりと最初のほうで気付けたんだよね。相手の力を使って闘う合気道みたいなものとでも言いますか。田中六大さんとは前にも組んでたから、上手に膨らませてくれるなと思ったんで、この絵本もその方式のやり方がピッタンコだと思ってました。

―サトシンさんの子ども時代「学校はあまり合わなかったけど、オレはこれでいいって思ってた」

オレは子どもの頃から、おもしろいこと思いついて、遊びとか言葉とかを仲間内で流行らせたりするような子だったんです。体はそんなに大きくないから番長タイプにはならなくて、アイデア発揮してやりたいようにやる、まあ参謀みたいな感じかな。利発なタイプだったんだけど、いろいろ先走って思いついたり喋ったりしていくもんだから、授業のペースが遅すぎると思ってイライラしたりして。そうなると先生からは生意気に思えるだろうし、こっちも先生や学校の存在は合わないと思うようになっていくし。だから、友だちはできるんだけど、学校そのものはあんまり好きじゃなかった。なもんで、その反動でなのか、いろんなことを頭の中で思い描いて想像を楽しむことが自然に好きになっていったような気がします。

あとオレ自己肯定感がやたら強いんです。学校と合わなかったけど、オレはこれでいいんだという思いは強かったし。頭は回転はまあまあ早かったけど、すべてが得意ってことじゃないんですよ。数字的なものは大嫌いだし、暗記するのも大嫌い、なもんでそっち方面はからっきしでした。覚えられるのは自分に興味あるもの、好きなもの限定なんです。それでもコミュニケーション力はあるから、道徳や国語で、主人公の気持ちを考えるとかいった方面は得意。だから、オレはこれでいこう、勉強的なことは興味ないけど、コミュニケーション力や表現力を伸ばす方面に行けばいいやと割と早い時期から思ってたところはあります。好きって気もちは、ホント自分を強くしてくれますよね。

―こころを元気にしてくれる駄菓子的な絵本を作りたかった

この「すきすぎて」シリーズを書くとき、じつはちょっと迷いがありました。『わたしはあかねこ』『むらをすくったかえる』みたいに心に刺さるタイプの絵本ではないし、重厚なテーマというにはならないので。よくいろんな人から、子どものためになる絵本を書いてくれ、役立つ絵本がほしいと言われるんです。もちろんそれも大事なことではあるけれど、絵本ってそればっかりじゃないと思うんですよ。 食べものだって、魚とか肉みたいに栄養たっぷりなものも大事だけど、大人からすれば「そんなの食べても栄養ないよ」「虫歯になるだけだよ」「夕飯食べれなくなっちゃうでしょ」という『駄菓子』だって、むしろ子どもは大喜びするじゃないですか。それ考えると、重いテーマや役に立つことなんかなくたって、面白い絵本は、子どもは大喜びするし、笑うとイヤなこと忘れられるし、ぽっと心に灯りがともる。だから、まずはオレ自身が大好きで、子どもたちにとっても大好きなことを全部投入して、『駄菓子的』な絵本を作りたいと思ってたんです。

―講演会で盛り上がる『ラーメンがすきすぎて』。「すきすぎて」シリーズ第3弾は!?

全国いろんなとこに講演会に行くんだけど、この絵本はどこでもものすごく盛り上がるんですよ。くだらない、しょーもない(といっても悪い意味じゃなく)笑いがてんこ盛りだから。で、「おすし」「ラーメン」ときて、第3弾は何かってよく聞かれてクイズ的にお話が流れることもやたら多いんです。「焼き肉?」「カレーかな?」「丼ものとか?」とか、みんな勝手にいろいろ言ってきて、それでまた盛り上がったりして(笑)。だけど人気の食べ物ならなんてもいいというわけじゃなくて、 絵本は32ページあるから、ネタのバリエーションがちゃんとないと成立しないんです。 なもんで、オレとしては第3弾あたりで変化球で外すのもありかなと思ってて、じつは第3弾は…「おかし」で考えてるんでした~! もう決めちゃってんの。で、今度の主人公は女の子。楽しみにしててアモーレ!

サトシンさん、すてきなお話をありがとうございました!

おすしがすきすぎて

作:サトシン 絵:田中六大

田中六大さんインタビュー

サトシンさんとタッグを組んだ田中六大さん。本作を描いたときの苦労や楽しさ、絵本作家としての流儀とは―。

―サトシンさんの突飛な発想に応えるのは、そんなに大変じゃなかった

サトシンさんの原稿は突飛な発想がいっぱいなんですけど、『ラーメンがすきすぎて』はシリーズ2冊目だし、第1弾の『おすしがすきすぎて』である程度フォーマットが決まっていたので、描くのはそんなに大変じゃなかったです。でも、今回は細かいところが多かったから、アイディア出しに時間がかかりましたね。だじゃれのページとか、いろいろなラーメンを作りたいというところとか。でも、アイディアを出すのは楽しかった。「ぼくのひみつ」のページは、ぼくのアイディアがけっこう採用されて嬉しかったですね。

―だじゃれページは、主人公の気持ちを考えてパズルみたいに繋いでいった

サトシンさんは、特にストーリーを考えて、だじゃれを考えているわけじゃないんですよね。原稿には、本当にランダムに、おもしろいだじゃれがいっぱいある。それをどう見せるかなんですけど、たとえば「しっぱいばかりで たんめんいきでちゃう」では、主人公が何か失敗してますよね。「せんたくものを たんたんめん」では、褒められるのかなとか。つまり、失敗してがっかりするけど、褒められて嬉しくなって、旅に出ちゃうっていうストーリーが見えてくる。今回、「ツタンラーメン」「どんぶりこっこ」があったので、最後は旅に出るというのが思いついて。まあ、なんか無理ありますけど笑。だじゃれから主人公の気持ちを考えて、パズルのピースみたいに繋げていく感じですね。

▲サトシンさんの原稿(P12-13)。ここから好きに描いて、というオーダー。
▲田中六大さんが描き上げた絵(P12-13)。なんとなく絵でストーリーがつながっている。

 

―描写がしっかりあるテキスト、考える余地があるテキストと、どっちも描いてて楽しい

作家さんの中にも色々なタイプがいて、ビジュアルじゃなくて言葉のリズムや面白さで考える人もいると思います。そういう方のテキストを絵にするとき、絵として成り立たせるのが難しいこともあるんですが、描くほうとしては 自由に発想できておもしろいんです。ありえないものを描けたりするので。逆に、ビジュアルを克明にイメージして描いている作家さんの絵を描くときは違う難しさがあって、絵を描き進めていくうちに、読み直してみたら、あれ、これ違ったって焦ることもあるんですよ。絵本のテキストには、文章でしっかり書いてあるタイプと、ほとんど描写がなくて、どう描いたらいいのかなって考える余地があるタイプと両方あるけど、ぼくはどっちも描いてて楽しいかな。

―瞬発芸的なサトシンさんの原稿に、どう応えるかが醍醐味

ぼくは、もともと雑誌「アックス」で漫画を描いてて、朝日小学生新聞や受験情報誌にも描いたりしてるんです。だからこんなふうに、媒体や作家さんの個性に合わせて描くのって、わりと好きなんです。なかでもサトシンさんの原稿は、すごくたくさんの人に笑ってもらえる、マスの笑いがある気がします。広告の仕事をやってたからかな、みんなに受け入れられやすいギャグというか、強めの笑い。すごいですよね。ぼくも小学生的なギャグは大好きなので、こういうの好きですね。特に「おふろはこう!」のページなんかは、子どもが考えそうな発想だし、サトシンさんらしい。この絵本は、「ラーメンがすきすぎて」というお題で30くらい答えを出すフリップ芸みたいな感じで、瞬発芸的要素がある。まさにサトシンさんの本領発揮じゃないかな。それにどう応えるかっていうのが、ぼくの醍醐味でしたね。

―自分を解放してくれる本能的な笑いが好き

ぼくは笑いのレベルが小学生なんですよね。うんこ、みたいな小学生っぽいギャグが好きというか。子どもの頃は『モンモンモン』っていう「ジャンプ」に載ってたギャグ漫画が大好きでした。うーん、本能的な笑いが好きってことかな。こういう笑いって、なんか自分が解放される感じがして、なんかいいんですよ。あと、ぼくにはサービス精神があるというか、みんなを笑わせたいって気持ちが強くあります。だから、子どもたちが自分の本を読んで笑ってるのをみると、めちゃくちゃ嬉しいですね。サトシンさんはだじゃれが上手ですよね。だじゃれはぼくも好きだけど、まだ名作がないんですよ。いつか名作、作りたいですね。というわけで、サトシンさん、第3弾も期待してます!

田中六大さん、すてきなお話をありがとうございました!
サトシンさん、田中六大さんの渾身の絵本『ラーメンがすきすぎて』、ぜひご覧ください。

おすしがすきすぎて

作:サトシン 絵:田中六大

ラーメンがすきすぎて

作:サトシン 絵:田中六大