痺れるような頭脳戦、論理的思考、騙し打ち…鮮やかな逆転劇が気持ちいい、圧巻の頭脳バトル小説
公開日:2023/12/19
出会った時から勝負は始まっている。積み重ねる論理的思考と観察、心理戦、騙し打ち。痺れるような頭脳バトルが体感できる小説が『地雷グリコ』(KADOKAWA)。ミステリー界の旗手・青崎有吾による5篇の連作短編集だ。
亜麻色のロングヘアに短いプリーツスカート、第二ボタンまで開けられたブラウス、ぶかぶかのカーディガン。綺麗な顔立ちに、ちゃらんぽらんな笑み。飄々とした掴みどころがない女子高生・射守矢真兎(いもりや まと)がこの物語の主人公だ。やたらと勝負事に強い彼女は、平穏を愛しながらも、次々とゲームバトルに巻き込まれていく。
たとえば、表題作では、高校の文化祭で一番人気の屋上で出し物をする一団体を決める「愚煙試合」に参戦することに。対戦相手は三年生の椚迅人(くぬぎ はやと)。一年生のときから生徒会代表としてこの試合に出場し、二年連続で優勝を果たしているというこの男に、真兎は勝てるのか。舞台は、神社の階段。相手の罠がどこに仕掛けられているかを見極めつつ、いかに素早く階段を上るか。勝負は、じゃんけんで勝ったら階段を上る、あのシンプルなゲームの進化版「地雷グリコ」で決められる。
「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールームポーカー」……。真兎が挑むのは、誰もが知る遊びに、捻りを加えたオリジナルゲームだ。たかがゲームと侮ることなかれ。ルールを知った時から、もうワクワクが止まらないのだ。小さい頃から遊んできた遊びに、まさかこんなにもゾクゾクさせられるだなんて。いかに相手の手を読み、いかに相手をハメるか。つい自分も参戦している気分になって、攻略法を推理しながら読み進めるのだが、真兎の対戦相手はどの人物も手強い。理詰めで戦略を組み立てては、真兎の前に立ちはだかってくる。
だが、敗色濃厚の状況になってこそ、真兎の真価が発揮される。いや、本当は、最初から勝負は決まっているのだ。真兎は恐ろしいほど勝負強い。読者にしろ、対戦相手にしろ、私たちは、ずっと彼女の手のひらの上。真兎の行動にはすべて裏がある。愚鈍さを装いながら戦略を練り、油断を誘い、死角から刺す。終盤の大どんでん返し、鮮やかな逆転劇はあまりにも爽快。研ぎ澄まされた論理的思考、人の性質を見抜く観察眼と、推理力。気づけば、射守矢真兎という女子高生に心を撃ち抜かれている。
「射守矢に、勝てると考えたな。なら、その時点でおまえの負けだ」
勝負は、盲点を突いた者が勝つ。敵の頭に、思い込みをすり込んだ者が勝つ。なんて刺激的な戦いなのだろうか。どのページをめくっても、そこには論理的思考があり、騙し合いがある。呼吸をするのも忘れて、迫力ある勝負の行方にハラハラさせられてしまった。トリックの裏を読み解くのが好きなミステリーファンはもちろんのこと、普段小説は読まないという人にもこの作品をオススメしたい。特に『賭博黙示録カイジ』(講談社)や『嘘喰い』(集英社)、『LIAR GAME』(集英社)などの騙し合いの頭脳バトルマンガが好きな人ならば、必ずやこの小説にハマってしまうだろう。興奮と快感の知略戦に、あなたもゾクゾクさせられるに違いない。
文=アサトーミナミ