ゲーム実況者もこうは弱さと怠惰のガチ両刀!? 初の自伝エッセイには、生きづらい現代を乗り越えるための答えが詰まっていた

文芸・カルチャー

PR 公開日:2023/12/15

これは勇気の切断だ
これは勇気の切断だ』(もこう/スターツ出版)

「もこう先生、救ってくれてありがとう」

 この呟きは、YouTubeのチャンネル登録者が150万人を超える人気ゲーム実況者もこう氏の自伝エッセイ『これは勇気の切断だ』(スターツ出版)を読み、最初に出てきた感想である。

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 本書には、配信でも時々語られる過去のエピソードがまとめられている。病気に端を発した引きこもりで中高の卒業式には参加できず、バイト先のボウリングに誘われず涙を流し、店長に「辞める」と言う勇気がないからバイトは徐々にフェードアウト。社会に出てからも、会社にはパジャマで出社し、仕事をサボったことが原因で怒られても不満を垂れる。

 社会に馴染めない男のもがき苦しむ様が、ここまで正直に綴られることはあるだろうか。少なくとも、ぬるいエッセイと一線を画す内容なのは間違いない。

 声優にタレントにとマルチに活躍しているもこう氏だが、配信中には愚痴を言ったり不機嫌になったりすることも多く、イラッとした際にはネット回線を切断してゲームを強制終了させることも多々あった(本著のタイトルも回線切断時の名言から来ている)。それでも、10年以上第一線で活躍できるほどの圧倒的な人気者だ。なぜだろう。

 もこう氏の持つ最大の魅力、それは「弱さを見せてくれる人間らしさ」だと思う。学校が辛い、バイトが辛い、仕事が辛い。配信者になってからも、コメント荒らしや批評が辛い、でももっと褒めてほしい、かっこよくありたい。普通だったら躊躇してしまう、内に秘めた恥ずべき感情を率先してさらけ出してくれるのだ。

 例えば、本書の冒頭にはこんな一文が書かれている。

いつぞやのニコ生で、「YouTuberの本なんて誰が読むねん!」って豪語してた僕がまさかその一年後くらいに本を出しているなんて夢にも思わなかったです。

 書かなければファン以外にはわからない、隠したいであろう部分もすべてさらけ出していく。「絶対にこうだ!」と考えていたことが時間の経過で変わってしまう人間の身勝手さも、もこう氏が言うとなぜか許せてしまう。

 また、もこう氏の怠惰な一面も度々登場する。

ただ、俺は徐々に部活をちょくちょくサボるようになり始めてしまった。

ただ、俺も結構悪いとこがあって、廃棄になったプリンとかをこっそり食ったりしてた。
キッチン周辺の陰とかで隠れて食ってたんや。

そして、俺は入社して最初の一週間が経った時点で、まあ辞めたくてしかたなかった。

 終始一貫しているのは、社会常識へのむき出しの不満だ。読み進めるほど「ダメな人だな」と感じつつも、どこか自分にも当てはまる部分が引っかかり、紡がれた言葉が心に残っていく。人一倍自身の弱さと向き合ってきた人が包み隠さずに書いた言葉だからこそ、素直に受け取ることができるのだろう。

 本書に書かれているのは、学生時代からずっと一般社会に馴染めなかった人間が、すべてを投げ出してネットに救いを見出した物語である。誰でも生きづらさを感じることはあると思うが、そういう時にこそ本書を読んでみてほしい。もこう氏の言葉の流星群から、あまりに辛いことがあったらゲームの回線を切断するみたいに逃げ出せばいい、ということを心から感じられるだろう。

 まさに、勇気の切断だ。

文=河村六四

書誌情報『これは勇気の切断だ』(スターツ出版)
https://novema.jp/article/starts/mokou/202311