「武力と交渉はワンセット」――日本で暮らしていると身につかない、国際社会で生き抜く知識を学べる『紛争でしたら八田まで』
PR 公開日:2023/12/21
ITの進化により、急速な国際化が進む社会の中で生き抜くためにはさまざまな能力が必要だ。単に言葉が通じれば良いというだけではない。文化や歴史、民族、言語の違いなど、日本で生きている中では想像もできないような「背景」についても知り考える必要がある。
田素弘が描くマンガ『紛争でしたら八田まで』(講談社)では、世界中で起きているローカルな紛争が詳しく描かれている。日本国内で暮らすだけでは身につきにくい視点や考え方に気づけるので、将来的に外国で仕事をしたい・暮らしたいと望む人には必読の作品だ。
知性と武力(プロレス技)で警察が介入しにくい紛争を解決する地政学リスクコンサルタントの「八田百合(はったゆり)」が本作の主人公。彼女が仕事で訪れる国々では、ありとあらゆる紛争が起こっていた。
同じ言語を話せる人間同士でも、住むエリアやたどってきた歴史が違うだけで民族として大きな差が生まれる。日本でいうと都道府県ごとの方言や郷土料理の違い程度の問題なので、想像が難しいかもしれない。東京の会社で埼玉県民が働いていても、日本で大きな問題が起こることはないだろう。しかし、一歩国の外に出ればそんな常識は通用しなくなる。
八田は、地政学の鉄則として「隣国同士は敵対する」と話した。たとえ同じ人種であっても、文化や言語、宗教が違うなら別の国の人間同士と表現するほど価値観が違うという。異なる考えの人々の紛争を解決するには、広い視野と知識を持ち正しく状況を認識する必要がある。知識として知っていても、視点を変えるだけで全く違う真実が見えてくるのだ。そうした紛争の原因を知り、多角的な視点で問題を見つめたうえでその解決策まで学べることが本作の魅力である。
特に印象的なのが「交渉と武力はワンセット」という八田のセリフだ。第二次世界大戦の苦い経験から、多くの日本人は武力で交渉することを「悪」だと感じるだろう。しかし、平和な交渉だけで解決できることなどタカが知れている。武力を持つ相手との対話は、武力無しでははじまらない。世界は「綺麗事」だけでできているわけではないのだ。当たり前のように人種差別が存在する。
比較的治安の良い日本だけで暮らしていると、紛争は対話をもって解決するべきだと考えてしまう。歴史や宗教、政治、経済、軍事などあらゆる「チセイ」をビッチリ詰め込んだ八田の言動は、そんな固定観念を破壊してくれる。まさに「目から鱗が落ちる」経験だ。読めば読むほど知らない世界を自覚して、想像もできなかった紛争を突きつけられる。
八田が仕事で巡る世界は、読者の想像しにくい紛争をリアルな感覚に落とし込んでくれる。人間が生きているのは日本だけではないのだとハッとさせられるたびに、目が覚めるような思いになるのではないだろうか。国際社会で生きていくためには、さまざまな文化や歴史、民族などあらゆることを知る必要がある。自分が知らないことを自覚し、固定観念を壊されながら、世界を回る解決屋さん「八田百合」が歩む人生を追いかけてもらいたい。