大掃除が苦手なオタクも安心!「どんな漫画も必ず全巻揃えるオタク」の断捨離/やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離①
更新日:2024/1/10
断捨離®とは手に入りそうなものを「断ち」、いらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」こと。人は断捨離により心を解き放たれ、ごきげんな人生を送ることができるという。この理念の対極に存在するのがオタクだ。ものへのこだわりが人一倍強い彼らは「好きなものに囲まれた人生は最高」であることを実感している。だが実際に取材を行ったところ「本当はキレイな部屋で暮らしたい」「憧れのインテリアにして人を呼びたい」といった一般人としての願望に葛藤するオタクが多く見られた。『オタクの断捨離』では、断捨離の提唱者であるやましたひでこ氏と漫画家のカレー沢薫氏が、愛すべきオタクたちにとって快適な"断捨離の考え方"を模索していく。
※断捨離はやましたひでこ個人の登録商標です。
第1回「どんな漫画も全巻揃えてしまうオタク」
「漫画を全巻揃えたい」「漫画が家に収まらない」これは漫画オタクに共通するシンプルな欲求だろう。しかし、推しの漫画を次から次へと全巻揃えたら、置き場所がなくなってしまう。SNS広告で知っただけの漫画であっても、一度買って読み始めてしまったら最後、やっぱり全巻読んでみたくなる。「漫画の重みで家の床が抜けそう」というのは、漫画オタクにとって珍しくない悩みである。
「最近の漫画は巻数が多くて困るよ」
東京都内の団地に夫婦で暮らすデザイナーの小林氏も、漫画の置き場がなくて困っている漫画オタクのひとりだ。
小林氏は最近、趣味の純喫茶めぐりで『進〇の巨人』に出会ったそうで、「あの作品を全巻揃えるのは大変」と嘆く。純喫茶には大抵待合スペースに小さな本棚があり、何冊かの週刊誌と漫画がパラパラと置かれている。漫画は全巻揃っていないことが多いので、コーヒーを飲みながらすべて読み終えてすっきり…というわけにはいかない。それが純喫茶というもの。しかし、たとえ純喫茶で全巻読み終えたとしても、小林氏は満足できなかったのではないだろうか。全巻読むだけではなく、全巻“揃えたい”のが漫画オタクなのだから。
小林家には漫画のみならず本自体が多い。意外なのは、かなりのコレクションを抱えながらも収納上手であることだ。さらに書棚がオシャレで、“憧れのDIY”といったインテリア雑誌で紹介されることもあったという。築50年の団地を改造した部屋には、そこかしこに手作りの本棚が並ぶ。天井のダクトの隣にある、わずか5cmほどのスキマにも本が…。「ここに! 本を収めるのだ!」という気合いが透けて見えるようだ。ここまで美しく収納されているのは、妻・リカさんによる努力も大きい。
しかし、とうとう収納スペースが尽きてきてしまった。いまや本の上に本が積まれ、テーブルの上にも漫画の山が。「じつはここにも…」と小林氏がソファの下に漫画を隠していたことを白状すると、「ああ、それね」とリカさん。「知っていたの!?」と驚く小林氏。まるで夫婦漫才である。
オタク仲間も多い小林家には来客が多く、遊びに来たお客さんに漫画を1セットずつ持って帰ってもらう、という独自のプチ断捨離も実施している。筆者にも「これ良かったら」とある漫画を全巻差し出してくれたリカさんだったが、その横で「あ、それは気に入っている作家さんだから」と小林氏に断られてしまった。断捨離への道はまだ長く続きそうだ。
<「手離れしていく時」はやってくるもの by やましたひでこ>
分かりますね、この漫画に魅了されるお気持ち。
漫画は読み始めたらとまらなくなるもの。
漫画は読み始めたら全部揃えたくなるもの。ならば、それでいいじゃないですか。
まして、ご夫婦ともに漫画が好きなのですから。読む喜び
揃える嬉しさ
共に味わう幸せ感こんなご夫婦の関係はめったにあるものではなく、大抵は相手の趣味趣向を鬱陶しく感じ、邪魔に思い、夫が<妻を>罵るのが常。
けれど、居住空間に限界があることもたしか。
大好きな漫画たちも大量となれば生活空間を圧迫するストレスフルな存在に。実は、「モノそのもの」ではなく、余地を失った居住空間<環境>が夫婦の関係にヒビを入れていくのです。
でも、いまは、まだ大丈夫そうですね。
ならば、いっそ居直って、つまり、前向きに諦めて、「こうなったら限界まで集め揃えてやる!」くらいの気持ちになるのも一興。
そうですね、とことんやり切れば、おのずと「手離れていく時」はやってくるものです。
けれど、大好きで大事な漫画であるならば、乱雑に積み上げたままにするなどありえないはずですよね。
DIYで次々とオシャレな書棚を作り、プチ断捨離作戦を遂行している小林氏。しかし、毎日のように全巻揃えられる漫画を整理して収納するには、とてもじゃないが置き場所が足りない。いまのように夫婦仲良く漫画の時間を楽しむことができるのも、時間の問題か!? 漫画がおのずと「手離れする」その時が小林夫妻の元に訪れるのは、いつのことだろうか―。
取材・文=吉田あき
<第2回に続く>