サンタクロースは「口論でキレて相手を平手打ち」したことがある? 世界の様々な聖人の意外にどろどろした一面を紹介
公開日:2023/12/24
そろそろどの家庭にも、子どもたちが大好きなサンタクロースがやってくる。サンタクロースは聖人として世界的に有名な人物だが、人であれば多かれ少なかれ闇の部分がある。サンタクロースにも闇の部分があったというから、大人としては興味をそそられる。
『どろどろの聖人伝(朝日新書)』(清涼院 流水/朝日新聞出版)は、キリスト教の様々な聖人を取り上げ、その物語を紹介する本。本書によると、「聖人」という概念は仏教やイスラム教などの諸宗教にもあり、キリスト教の専売特許ではないが、キリスト教の聖人たちの人材豊富さと個性の多彩さは抜きん出ている。
本書が述べるに、聖人の聖性が際立つのは、彼らがもつ清らかさだけによるのではなく、周囲にいた人たちのどろどろの愛憎劇に巻き込まれてしまったから、という面もある。また、物語の中には、歴史的事実と関係なく伝説がひとり歩きするケースも多いという。サンタクロース(聖ニコラウス)や聖ヴァレンタインも、その中に含まれるそうだ。こういった伝説が定着する背景には、人々がそのような物語を必要としていたこと、また、その聖人が伝説を託すのにちょうど良かった、という時代背景や社会構造も影響しているという。これは、日本などにおける偉人伝にも当てはまる、と本書。
さて、子どもが大好きなサンタクロースの伝説のもとになったのは、4世紀前半に、現在のトルコ南西部にあたるミュラの教会で司教を務めていたニコラウスという人物であることは、よく知られている。ニコラウスは、夜中に貧しい隣人の家に忍び寄って金塊を投げ入れるなど、元祖「お金配りおじさん」を担ったり、多くの人助けをしたりして聖人と認定され、聖ニコラウスとなった、と本書は紹介している。聖ニコラウスのオランダ名は「シント・クラウス」であり、これを英語読みした「セイント・クローズ(サンタクロース)」の伝説がアメリカ大陸にわたり、世界一人気のある聖人となったそうだ。
聖性ばかりが注目されるサンタクロースだが、本書によると人間臭い逸話も残っているそうだ。時は西暦325年。それまで、カトリック教会内では教義をめぐってアリウス派とアタナシウス派が激しく対立していた。この問題に決着をつけるため、この年にキリスト教の歴史上初めて、各地の司教を集めて議論を戦わせる公会議(第1ニケア公会議)が開催された。集められた司教300人以上の中には、アタナシウス派としてくだんのニコラウスもいた。ちなみに、アタナシウス派は「イエスは【父なる神】とともに最初から存在していた」という考え方であり、一方のアリウス派は「イエスは【父なる神】につくられた存在である」という考え方であり、ニコラウスはアリウス派を快く思っていなかったそうだ。
このときの議論の中で、アリウス派のリーダーとして同席していたアリウス(司教ではなかった)は、すでに多くの慈善事業で知られる立派な人物であったニコラウスに、本書いわく「おそらくなにか挑発的な言葉を吐いた」ことがきっかけとなって、ニコラウスが激怒。アリウスに向かって「貴様の主張はイエス様への冒涜だ! 断じて聞き捨てならん!」と叫んで平手打ちしたそうだ。握りこぶしで殴った、という説もあるらしい。キレたニコラウスは、「冷静に議論すべき公会議の場を冒涜した」として皇帝によって司教権を剥奪、のち投獄された。このように、なんともサンタクロースの人間味を感じてしまうエピソードだが、話には続きがある。投獄された夜中、牢獄にイエス・キリストと聖母マリアが現れ、皇帝に没収された祭服を再び与えられ、司教として復権することを許されたとあるらしい。これは、現実の話なのか、ファンタジーなのか。様々な推測ができそうだ。
本書のあとがきでは、「日本人が、たとえば真田十勇士の活躍をエンターテインメントとして楽しむように、西洋人も聖人伝をフィクションとして楽しんできた」とある。年末年始にかけて、本書を読んで、子どもとは違った大人の楽しみ方をしてみても面白いかもしれない。
文=ルートつつみ
(@root223)
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