多額の税金を徴収する男がナポリタンで心変わり。ちょっと不思議な居酒屋を舞台にした漫画『異世界居酒屋「のぶ」』

マンガ

公開日:2024/1/22

異世界居酒屋「のぶ」
異世界居酒屋「のぶ」』(ヴァージニア二等兵:著、転:絵、蝉川夏哉:原作/KADOKAWA)

 数席だけのカウンターに、2つか3つのテーブル席。こぢんまりした居酒屋はどうしてこんなにも惹かれるのでしょうか? それは現代を生きる我々だけでなく、異世界の住人たちも同じようです。

異世界居酒屋「のぶ」』(ヴァージニア二等兵:著、転:絵、蝉川夏哉:原作/KADOKAWA)は、ちょっと不思議な居酒屋を舞台にした漫画。コミックスは既刊17巻、シリーズ累計発行部数は500万部を突破する大ヒット作品です。

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 中世ヨーロッパ風の異世界にある、帝国の古都・アイテーリアでは最近とある店が人気です。その名も「居酒屋のぶ」。店の扉を開けると、そこはまるで日本の居酒屋。店を切り盛りする大将の矢澤信之と看板娘の千家しのぶも、日本人にしか見えません。

異世界居酒屋「のぶ」

 じつはこの店、本当は日本の商店街にある普通の居酒屋。ところがどういうわけか、異世界に繋がっています。お客はもちろんアイテーリアの住人たち。彼らは初めて見る日本の居酒屋メニューに驚きつつも、その美味しさに魅了されていくのです。「もしも、異世界に日本の居酒屋があったら……」を描いた、ファンタジーグルメ漫画です。

 古都・アイテーリアは、食生活が充実していません。美味しくないお酒と、イモ料理に、みんな飽き飽きしていました。そんな場所にめちゃくちゃ旨い居酒屋ができたのだから、人気が出るに決まっています。傭兵も子爵のご令嬢も、居酒屋のぶのお客。日本の居酒屋にいるはずのない人たちが、おでんや唐揚げを食べている姿が面白いです。

異世界居酒屋「のぶ」

異世界居酒屋「のぶ」

普通のナポリタンに感動する異世界の住人

 しかし、アイテーリアの人々が皆、居酒屋のぶを歓迎しているわけではありません。ある日店にやってきたのは、徴税請負人のゲーアノートという男。居酒屋のぶの売上に目をつけ、税金をがっぽり納めさせようとたくらむのです。

 しかし気づけば、パリパリキャベツを食べながら生ビールを5杯飲んでいる。このままではいかんと、追加で注文したのはナポリタン。具材はトマト、ピーマン、玉ねぎ、ベーコン。甘い味付けに、ゲーアノートは懐かしさを覚えます。しのぶの勧めで、タバスコをかけた瞬間、彼はナポリタンの中に宇宙を見るのです。

口の中に広がる甘さと酸っぱさと辛さの調和(ハーモニー)
混淆とした味にピーマンが苦味を 玉ねぎがまろやかさを
そして厚切りベーコンが重厚さを与えている
これは奇蹟だ

 しのぶが作った普通のナポリタンに、ポエムを詠んじゃうくらい感動するのです。今まで人々から多額の税金を徴収していたゲーアノートでしたが、ナポリタンを食べたことで改心。人から恨まれる仕事は辞めて、生き方を変えようと決意するのでした。

異世界居酒屋「のぶ」

 またあるときは、2人の商人がやってきます。彼らのお目当ては生の魚、つまりお刺身です。アイテーリアでは生魚を食べる文化がありません。そこで度胸試しをするため居酒屋のぶにやってきたのです。ドキドキしながらハマチの刺身を食べると……美味しい。さらにマグロやサーモンがのった海鮮丼も注文。ご飯と刺身が織りなす味のハーモニーにスプーンが止まりません。

異世界居酒屋「のぶ」

ひとつの器にこれほど贅沢を詰め込めるなんて…!!

 2人とも生魚をクリアし、度胸試しは引き分けに。男たちは居酒屋メニューをきっかけに、さらに絆を強めるのでした。

 ときどき異世界の揉め事にも巻き込まれつつも、美味しい料理で乗り越える大将としのぶ。こんな店あったら通うのですが、一度行ったら帰るのが嫌になりそうです。

文=中村未来