地球がネコだけになった世界で、言葉を覚えたネコが10万年も語り継ぐ恐ろしい存在とは?/3分間ミステリー 十の鍵⑤
公開日:2023/12/30
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー 十の鍵』(和智正喜:著、りたお:イラスト/ポプラ社)第5回【全5回】
短編のミステリー物語。じっくり深読みをして、本当の“かくされた意味”にたどり着けるか? 物語に潜むトリックが人気の短編物語『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ第10弾。今回はサブタイトルの「十の鍵」に秘密が隠されている⁉ 物語を読めば、シリーズ初のトリックに誰もが驚愕すること間違いなし。物語の考察が済んだら解説ページで答え合わせができるため、深読みが苦手な人にもライトに読み進められます。1話3分ほどで読める『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー 十の鍵』の“不思議な世界”をお楽しみください。
十万年後のネコの世界
ある日、世界中で、とてもおそろしい病気が流行しました。
あるひとつの種類の生き物を残して、地上の生き物はすべて滅びました。
生き残った生き物とは、ネコでした。
地球がネコだけの星になってから、あっという間に、とても長い時間が……十万年の時間がたちました。
ネコたちは言葉を覚え、少しだけ文明を発達させました。
そして、大きな争いをすることもなく、のんびりと暮らしていました。
「その宝物とは無限に話が続く物語が書かれた、不思議な本だった」
おじいさんネコは、まごネコにそう語りました。
「もういいよ、その昔話。何百回も聞いたから、もうあきちゃったよ」
「そうかい。もうそんなに話してたかい? 最近、忘れっぽくなっててな。いや、ごめんごめん」
そんな会話をしていたおじいさんネコとまごネコは、今日もなかよく、海辺で釣りをしているところでした。
そこは昔はとても大きな港でしたが、今では岸壁がわずかに、その形をとどめているだけでした。かつてはたくさん並んでいた大型の船も、錆びて、くだけて、粉々になって海の底にしずんでいます。
「……そうか、だったら、あの話をしてやろう。われわれ、ネコがまだ言葉を持っていなかった、うんと昔、十万年も前の話だ」
おじいさんネコは話を始めました。
その頃、ネコたちは、とてもおそろしい敵と戦っていたといいます。
「その敵はなぁ……われわれネコの何十倍も大きく、動きも何倍も速い。ときにはおそろしい毒をはいたりもする……」
「おじいちゃん!」
まごネコは言いました。
「その話も何十回も聞いてるよ」
「おや、そうかい」
おじいさんネコは、すまなそうに自分のヒゲを引っぱりました。
「それにおじいちゃん、そんな怪物、いるわけないじゃん」
「いやいや、本当にいたんだって。ええと、なんていう名前だったっけかなぁ……」
おじいさんネコは釣りざおを横に置いて、頭をポリポリかきました。
けれど、どうしても思いだすことができません。
水平線に夕日がゆっくりしずもうとしていました。