ブックデザインからカバーイラストまで 現代ホラー小説傑作集『影牢 現代ホラー小説傑作集』『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』制作秘話
更新日:2023/12/25
ロングヒット中の『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』の編者でもあり、ホラーを愛してやまない朝宮運河氏による、日本ホラー小説界を代表する短編集セレクションが2冊同時に刊行! 内容の怖さはもちろんのこと、デザインのすばらしさがひときわ目につく本書の魅力を、編者&イラストレーター&デザイナーさんから教えていただくという贅沢な企画でご紹介いたします。
現代ホラー小説傑作集『影牢 現代ホラー小説傑作集』『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』制作秘話
エッセイ 編者・朝宮運河
朝宮運河Xアカウント:@Unga_Asamiya
ホラー小説を読むのは、暗い夜道を歩くことにどこか似ている。先に何が待っているのか分からない。1メートル先も見えない闇の中を、おそるおそる進んでいくと、そこには息を呑むほど怖いもの、不気味なもの、奇妙なものが待ちかまえている。帰り着くまで何も起こらないこともあるが、それでも「何かが起こるかも」と怯えながら夜道を歩くのは、怖くて特別な体験だ。
1990年代以降に発表されたホラー小説15編(2冊の合計)を集めた『影牢 現代ホラー小説傑作集』『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』は、そんな体験を思う存分味わうことができるアンソロジーだ。装画を提供してくださったのは木原未沙紀さん。Welle designの坂野公一さんと吉田友美さんによるカバーデザインを見せてもらった瞬間、「これだ」と思った。先の見えない夜道を歩くときの心細さとその裏側にある胸の高鳴りが、見事に表現されていたからだ。奇妙な恰好をした動物たちと、小さく灯る明かり。「こっちに面白いものがあるよ」と、読者をそっと手招きしているようでもある。
怪奇幻想文学の魅力を十二分にビジュアル化してくださった木原さん、坂野さん、吉田さんのお三方にはただただ感謝。傑作揃いの内容と相まって、まさに決定版のホラーアンソロジーになったと思っている。
エッセイ 装画・木原未沙紀
木原未沙紀 公式サイト:http://www.kiharamisaki.com/
今回2冊で使用いただいた絵はそれぞれ2019年に開催した自身の個展『PARADE』で展示するために描いたオリジナル作品で、『影牢』の方は「賃貸契約」、『七つのカップ』の方は「にぎやかな舞台」というタイトルの作品です。
この時の個展は『PARADE』がテーマだったので、非常にカラフルで華やかでにぎやかな世界観の絵を多く描き、展示会場全体からまるで音が聞こえてくるような楽しげな雰囲気で構成した展示でした。
そんなイメージで描いた作品をまさか、30周年という大きな節目の現代ホラー小説傑作集の装画として使用いただけるとのお話をいただいた時は、嬉しいと同時に非常に驚きました!
何を隠そう幼少期からの生粋のホラー・オカルトマニアの私にとって、こんなに光栄なお話はありません!
錚々たる掲載作家の方々のお名前を拝見し、興奮からごくりと生唾を飲み込みました。装画の採用は嬉しいのですが、上記の通りホラー小説傑作集の装丁のために描き下ろした絵ではなかったので、採用にあたり加筆作業を行うこととしました。
元々両作品とも背景は真っ黒だったのですが、ホラーの表紙としての雰囲気を纏わせるために影の量を増やし、暗闇から浮かび出るような印象を強める作業を施しました。
その結果当初は『PARADE』のイメージで描いた作品が、どこか妖しげで奇怪な表情へ変わり、併せて坂野さんと吉田さんのデザインの力でホラー小説の表紙へと昇華していただきました。
現代のホラー界を牽引される作家たちの傑作を集めた本作、数々のアンソロジーあれどこの豪華さと読み応え抜群の編成が非常に魅力的です!
是非2冊ともお手に取っていただき、どっぷりとホラーに浸る冬を体感してください。
エッセイ デザイン・坂野公一+吉田友美
welle design 公式サイト:https://welle.jp/
ホラー小説のカバーデザインはどうあるべきか。ここ数年ホラー作品の装幀のお仕事をいただく機会が増え、しばしば考えるようになったテーマです。考えるたびに新たな発見があり、その課題とどのように向き合うかを楽しんでいます。
ホラーだからといって、過剰に怖い表現をしたり、目を背けたくなるような凄惨なビジュアルを用いるのはむしろ逆効果。読者の原体験と結びつき、心の奥底にある恐怖の記憶を呼び起こすことを目指したい。それができるデザイン・ビジュアルとはどのようなものだろうか……。このところ、それを深く追求することこそが、ホラーの装幀の醍醐味だと思い始めました。
『影牢 現代ホラー小説傑作集』『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』では、木原未沙紀さんへのご依頼を提案しました。木原さんによって精緻に描かれた動物たちには、無垢な悪意や残酷性、人間には制御できない圧倒的な力を感じることがあります。これは恐ろしい物語と対峙したときの心理に近く、さまざまな種類の恐怖を内包した本書の装画にふさわしいのではないかと考えたためです。
思えば木原さんとは長いお付き合いで、これまでは描き下ろしでミステリ作品の装画をお願いすることが多かったのですが、今回は敢えて過去作品の中から本アンソロジーに適したものを選ぶプロセスを採りました。「装幀はある程度対になる見せ方をしたい」というオーダーを受けて作品選定を進め、検討の末採用されたのが「賃貸契約」と「にぎやかな舞台」の2点です。実際には別々のテーマで描かれた2作ですが、カバーに配置して向き合わせたとき2匹の間に見る者を惹きつけ吸い込む不思議な空間が現れたような感覚を覚え、運命と手応えを感じました。
実は一枚の絵を2冊に分ける見せ方などもご提案したのですが、朝宮さんと編集の吸血Kさんの心を特に震わせたのはこの2作品でした。書店でも、見た人の気持ちを揺さぶってくれると確信しています。
書籍紹介
影牢 現代ホラー小説傑作集
著者:綾辻 行人 有栖川 有栖 加門 七海 小池 真理子 鈴木 光司 坂東 眞砂子 三津田 信三 宮部 みゆき
編者:朝宮 運河
発売日:2023年12月22日
ホラー界をリードする作家らの代表作ばかりを収録したオールタイムベスト
『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』と対をなす傑作ホラー短編8選。大都会の暗い水の不気味さを描く鈴木光司の「浮遊する水」。ある商家の崩壊を
陰惨に語る宮部みゆきの時代怪談「影牢」。美しく幻想的な恐怖を描く小池真理子の不気味な地下室が舞台の「山荘奇譚」。記憶の不確かさと蠱惑的世界を
描いた綾辻行人の「バースデー・プレゼント」など、ホラー界の実力派作家によるオールタイムベスト! 解説・朝宮運河
【収録作】鈴木光司「浮遊する水」(『仄暗い水の底から』角川ホラー文庫
坂東眞砂子「猿祈願」(『屍の聲』集英社文庫
宮部みゆき「影牢」(『あやし』
三津田信三「集まった四人」(『怪談のテープ起こし』集英社文庫
小池真理子「山荘奇譚」(『異形のものたち』角川ホラー文庫
綾辻行人「バースデー・プレゼント」(『眼球綺譚』角川文庫
加門七海「迷(まよ)い子」(『美しい家』光文社文庫
有栖川有栖「赤い月、廃駅の上に」(『赤い月、廃駅の上に』
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322306000295/
amazonページはこちら
七つのカップ 現代ホラー小説傑作集
著者:岩井 志麻子 小野 不由美 小林 泰三 澤村伊智 辻村 深月 恒川 光太郎 山白 朝子
編者:朝宮 運河
発売日:2023年12月22日
現代ホラー小説30年の至宝を一挙収録。新世紀ホラーシーンへ!
『影牢 現代ホラー小説傑作集』に続く2010年代を中心に発表された傑作ホラー短編7選。小野不由美の“営繕かるかや怪異譚”シリーズからは死霊に魅入られた主人公の心理に慄然とさせられる「芙蓉忌」。土俗的作品で知られる岩井志麻子による怨霊の圧倒的恐怖を描いた海の怪談「あまぞわい」。怪談の存在意義を問う辻村深月の「七つのカップ」など。作家たちの巧みな想像力により紡がれた悪夢の数々がここに。解説・朝宮運河
【収録作】
小野不由美「芙蓉忌」(『営繕かるかや怪異譚 その弐』角川文庫
山白朝子「子どもを沈める」(『私の頭が正常であったなら』角川文庫
恒川光太郎「死神と旅する女」(『無貌の神』角川文庫
小林泰三「お祖父ちゃんの絵(『家に棲むもの』)角川ホラー文庫
澤村伊智「シュマシラ」(『ひとんち』光文社文庫
岩井志麻子「あまぞわい」(『ぼっけえ、きょうてえ』角川ホラー文庫
辻村深月「七つのカップ」(『きのうの影踏み』角川文庫
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322306000296/
amazonページはこちら