新潮社に校閲部員が50人もいるのは100年後に本を残すため。実話をベースに“本の裏方”の変態的情熱を描くお仕事コミック
更新日:2024/2/7
あなたは本を愛しているだろうか。本の内容に矛盾や誤りがあったり、決定的な部分で誤字があったりするとテンションが下がってしまうが、考えてもみれば、あれだけの文字の海であるし、著者や担当編集者だって人である。ヒューマンエラーが起きないはずがない。そんな本の質を下支えしているのが、校閲部の人々だ。
お仕事系マンガが人気だ。メジャーからマイナーまで様々なお仕事を取り上げたマンガが、本好きに愛されている。そのような中で、本好きの興味をそそるマンガが登場した。『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』(こいしゆうか/新潮社)だ。
本書の魅力は、大きく挙げて4つある。
(1)日本一といわれる校閲集団「新潮社校閲部」全面協力のもと、実話と秘話がもりだくさん
(2)著者の実名もどんどん出てくる
(3)マンガの中で随所に「校閲あるある」が出てくる
(4)そして、私たちがふだん存在を感じることのできない“本の裏方”の変態的情熱溢れる物語に心が震える
本書は、社歴10年の「新頂社」校閲部文芸班・九重心(35)を主人公に、彼女が教育係を担当することになった新入社員の瑞垣と重ねていく“ゲラでの戦い”によって、校閲部の赤裸々が描かれていく。
校閲は、内容と距離をとって客観的に確認を進めていくべきなのか。作品にのめり込むくらいに著者と向き合っていくべきなのか。校閲という仕事は、一人ひとりの考え方や個性が色濃く反映されるものだとわかり、とても興味深い。
また、校閲は「知識で読む」と見落としが起きるという。客観的にその文字を見て判別する能力がときとして求められるそうだ。先に掲載した
(3)マンガの中で随所に「校閲あるある」が出てくる
の2つのコマには、間違いがあることに気づいただろうか。
パソコンで変換すると、次のように「元帥」「洒落」と出てくるが、紙などに書かれた文字だけでこれらを間違いと判断するには、思い込みを排除しなければならない。
また、次のコマには、いくつもの間違いがある。あなたはいくつわかるだろうか。すべて正解できれば、校閲の才能があるのかもしれない。答えは本書を手に取って確認してみてほしい。
校閲の仕事は、表記や言葉の正誤だけではない。矛盾や、時には物語の内容にまで踏み込む。そこまでの使命感をもっているからこそ、主人公の九重は、「読んではいけない」と肝に銘じている。
著者の実名や原稿が次々出てくるのもおもしろい。ファンにとっては必見のシーンともいえそうだ。
本書のタイトルは、「校閲(こうえつ)」の意味からとられている。つまり、校閲の「校」は「【校(くら)べる】と読んで、照合して誤りを正すという意味」であり、「閲(えつ)」は「【閲(けみ)する】と読んで、調べたり見て確かめたりするという意味」であることから、「くらべて、けみして」と名付けられた。他の出版社では校閲部がないことも珍しくないところ、新潮社には50人も校閲がいるという。その理由は「百年後に残す一冊を作っていくという意志」があるから。本書は、校閲に対する熱いメッセージが凝縮されながら、『カメラはじめます!』などの代表作でファンの支持を集める漫画家・こいしゆうか氏がふんわり読みやすいタッチで描いている。クールでホット、相反する不思議な感動を得られる本書で、忙しい新年を乗り切っていくエネルギーを高めていけそうだ。
文=ルートつつみ
(@root223)