医師の転職仲介報酬は1件300万円? 医者より収入が高いというエージェントが活躍するお仕事マンガ『DOCTOR PRICE』

マンガ

PR 更新日:2024/1/15

DOCTOR PRICE
DOCTOR PRICE』(逆津ツカサ:原作、有柚まさき:作画/双葉社)

 転職を考えるとき多くの人は、まずエージェントへの登録を検討するのではないだろうか。そうした転職エージェントは「職業紹介事業」に区分される。職業紹介事業は「元々ヤクザの仕事だった」といわれているほど、利益率が高い「おいしい」仕事だ。

 原作・逆津ツカサ、作画・有柚まさきが描く『DOCTOR PRICE』(双葉社)では、少し特殊な「医師のみに特化した」職業紹介事業の様子が描かれている。職業紹介事業について詳しく知れるので、医師でなくても転職活動をしている人・これからする人にはぜひ読んでほしい作品だ。

 生涯年収の高い職業に就くためプロ野球選手を目指していた主人公の「鳴木金成」は、より高い年収を得るために医師になる。その後、医師より高い年収を得られる仕事として医師のみに特化した転職支援事業をはじめた。

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DOCTOR PRICE

 鳴木の経営する転職仲介会社では、医師1人の紹介料は平均300万円。日本人の新卒1年目平均年収程を、たった1人の紹介でもらえるのだ。野球選手になれるほどの実力があり医師になれるほど賢いにもかかわらず、その2つの将来を蹴ってまで会社を立ち上げるのも納得できる。

DOCTOR PRICE

DOCTOR PRICE

 鳴木を頼ってきた後輩の葛葉は、年収2000万円を希望する若手医師である。若輩なので経歴と条件面の折り合いが取れず、希望の転職を叶えられなかった。しかし、鳴木の手にかかれば希望通りの条件での転職が可能だ。鳴木はお金の流れとその引き出し方を「知って」いる。それだけでなく、病院の抱える弱点も調べ、葛葉を採用することによる病院側の利益を「説得力」を持って伝える。その結果たとえ誰かを蹴落とすことになっても、それは非常に合理的な転職だった。

 シングルマザーの医師をクビにさせるという残酷な展開に、思わず息を止める人もいるだろう。しかし、病院という雇用者視点から見ればこの選択は全く間違っていないのである。

DOCTOR PRICE

 鳴木は善い人ではないが悪い人でもない。感情よりも合理性を優先しているだけで、最終的には求職者の希望が叶うように仕事を紹介している。つまり、鳴木がいう通り「知らなければ喰われるだけ」なのだ。これは医師以外のあらゆる人にも当てはまるだろう。いつだって都合良く利用されるのは、「人が善い」といわれるような無知な人なのだ。

 転職活動中の人や転職を検討している人なら、人を「商品扱い」するシーンが心に鋭く突き刺さるのではないだろうか。我々は尊重されるべき個としての人間であるが、職業紹介事業者側からすればただの商品なのだ。商品だから付加価値をつけて、より高く売る。商売としては当然だが、感情面で考えると決して気持ちの良いことではない。しかし、世の中の大半は合理的に回っているという現実を、私たちは知る必要があるのだろう。かつてソクラテスがいったとおり「無知は罪」であることを、苦しくなるほど教えてくれるのが本作の魅力といえる。

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 1人の意志を人間としてではなく商品と見ていても、鳴木は商品を雑に扱わない。よりお金を引き出すようなあくどい仕事はするが、商品が生きて行けるように手を回している。中には「人の心とかないのか」と感じる言動もあるだろう。しかし、鳴木は合理性の中に割り切れない感情も持ち合わせている男なのだ。そうした鳴木の人間味が垣間見えると「人を商品として扱うのもまた人なのだ」と、少しホッとする。

 あらゆる角度で人を見ているからこそ、鳴木の言葉は鋭く刺さる。指摘されることはどれも本当のことばかりで、何も間違っていない。商品には、値段に見合った「価値」が必要だ。本作を読むと「自分には価値があるのか」と突きつけられ、落ちたら終わりの地上数十メートルの高さにある鉄骨の上を歩いているような気持ちにさせられる。転職活動中や転職を検討している人は、このマンガを読んで「自分が何をしたいのか・できるのか」について考えることをおすすめしたい。

執筆:ネゴト / 押入れの人