王道の青春ストーリーから中世騎士とのロマンスまで……白泉社発のBLでさまざまな愛に溺れよう!
PR 公開日:2024/1/12
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年2月号からの転載です。
“底なしのBL”を感じるなら、白泉社のマンガは外せない! 不思議な“魔法”にかかったカップルのスローライフ、中世騎士とのタイムスリップラブ、性欲旺盛な大学生と世話好きイケメンの甘エロ同居、江の島を舞台にした青春ピュアストーリーと、4作品をピックアップ!
文:野本由起
少女マンガから青年マンガまで、ジャンルを問わず名作を生み出し続けている白泉社。近年はBLマンガにも力を入れ、BL専門Webマガジン『BLaLa』『花丸漫画』『Trifle(トライフル) by 花とゆめ』を刊行するほか、総合エンタメアプリ『マンガPark』でも複数のオリジナルBLマンガを配信している。そのラインナップは、切ない青春ものから極甘エロ、ユニークな変わり種まで、まさに“底なし”。今回は、その中から珠玉の4作品を紹介しよう。
はじめに紹介する2タイトルは、どちらも少女マンガ界のヒットメーカーによる初のBL作品。『ゴールデン・デイズ』『ディア マイン』などを手掛けた高尾滋さんが描くのは、『まほうのおうち』。亡き祖母の家で暮らす編集者の碧唯とドールハウス作家の孤帆、ふたりの同居生活を描いた物語だ。注目すべきは、彼らのゆったりとした暮らしぶり。川釣りをしたり、庭にテントを張って一夜を過ごしたり、手料理とともにお酒を楽しんだり、埼玉県郊外でのスローライフが心地よく、ページをめくるにつれて心がじんわり満たされていく。緻密に描き込まれた背景も美しく、鉄橋を渡る東武線の音、石油ストーブのほのかな光などの細やかな表現が五感を刺激する。
そのうえ、ささやかなファンタジー要素も盛り込まれている。祖母が遺した“魔法”により、碧唯は夜が明けると体が小さくなり、日が沈むと元に戻るという特異体質に。猫の背中に乗って近所を探検したり、どんぐりを集めたり、孤帆のポケットに入り込んだりと、手乗りサイズの姿も愛らしい。さらに、どんな姿かたちになろうとも、揺るがないふたりの絆も見どころだ。碧唯は現在休職しており、この秘密を知るのは孤帆だけ。同僚に“魔法”のことを隠している碧唯を気遣ったり、小さくなった碧唯が住みやすいようドールハウスにはしごを取り付けたりと、孤帆の愛情深さが胸に沁みる。いっぽう碧唯も、時には意地を張りつつも、年下の孤帆に心をゆだねている。ほのかに色気を感じる場面はあるが、あからさまな性描写がないため、BL初心者でも手に取りやすい一作だ。
『まほうのおうち』(1巻)
高尾 滋 白泉社花とゆめCスペシャル 693円(税込)
編集者の碧唯とドールハウス作家の孤帆は、埼玉郊外の一軒家で暮らす恋人同士。だが碧唯には、日が昇ると同時に体が小さくなるという、孤帆しか知らない秘密があって……。電子雑誌『花ゆめAi』(毎月20日配信)連載中。最新2巻が1月19日発売。
『イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい?~恋するMOON DOGスピンオフ~』は、『紅茶王子』『オトナになる方法』などで知られる山田南平さんのBLマンガ。スピンオフとあって『恋するMOON DOG』の登場人物も顔を覗かせるが、予備知識はまったく必要なし。この作品だけで十二分に楽しめる。
物語は、バーで働くマキが自宅前で甲冑を着た外国人を助けたことから始まる。傷だらけで倒れていた彼は、自称・14世紀からやってきた英国人騎士。記憶を失っているが、中世ではマキに似た男性に思いを寄せていたようで……。と、幕開けは奇想天外だが、大型犬のような騎士グラントがかわいげたっぷりで一気に魅了されてしまう。パソコンやドライヤーなど令和日本の技術や文化に驚いたかと思えば、「中世では当たり前」としれっとマキにキスしてみせたり、マキに言い寄る女性をけん制したり。そんなグラントを放っておけず、「しかたないなぁ」と受け入れてしまうマキのちょろさ……いや、人の良さも微笑ましい。かつての思い人とマキを重ねていたが、次第にマキ自身に惹かれていくグラント、彼のまっすぐな思いにほだされていくマキ。ふたりの心情の変化が丁寧に描かれ、彼らの恋を応援したくなるはず。中世ヨーロッパの習俗や同性愛事情、当時使われていた中世の英語など、時代考証にも隙がなく、読みどころの多い作品になっている。
『イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい?~恋するMOON DOGスピンオフ~』(1巻)
山田南平 白泉社花とゆめCスペシャル 748円(税込)
バーで働くマキが帰宅すると、甲冑を着た外国人が玄関先に倒れていた。言葉も文化も異なる彼は、どうやら14世紀の英国騎士らしい。時空を超えたタイムスリップラブストーリー。電子雑誌『Trifle by 花とゆめ』(3・7・11月20日配信)連載中。
性欲と愛の間で揺れる思いが行きつく先は?
とろりと濃厚なBLを楽しみたいなら、鉢野うらさんの『心くんは愛とかいらない』がおすすめ。肉欲と恋心の間で揺れる大学生・心くんの気持ちを、時に官能的なシーンを交えつつ描いた作品だ。少女マンガ風のかわいらしい絵柄と激しいシーンのギャップも、読者の心を捉えて離さない。
両親が離婚を繰り返してきたため、「愛なんて、箸よりも軽い」が信条になってしまった心くん。家庭に居場所がなかった中学1年生の頃、彼は燈先輩と偶然出会い、親しくなっていく。やがて心くんはひとりエッチを先輩に手伝ってもらうようになり、大学生になってからは一緒に暮らし始めることに。その後も“やらしい事”は続けていたが、ある日、先輩から「もう恋人しか触らない」と言われてしまう。心くんは愛なんて信じないけれど、先輩は愛と性欲を切り離して考えられない。それでも欲望を満たしたい心くんは、愛のないまま燈先輩の恋人になるのだが……。
見どころは、愛を知らずに無邪気に快楽を求める心くんを、優しく包み込む先輩の愛情。恋人になったとはいえ、心くんが先輩に抱いているのは友情にすぎない。そんな心くんの本心を察した先輩は、その気持ちが愛情に変わるまではキスもセックスもおあずけでふたりの時間を重ねていく。ゆっくりたっぷり愛情を注ぎ、「愛なんていらない」という“呪い”から心くんを解放しようとする先輩が尊くも眩しい。そんな先輩の思いに心くんはどう応えるのか、今後の展開から目が離せない。
『心くんは愛とかいらない』(1巻)
鉢野うら 白泉社花丸Cプレミアム 770円(税込)
離婚家系で育ち、愛を信じずに育った心。心の隙間を埋めるのは、一番の理解者である燈先輩とのエッチなひと時だった。性欲旺盛大学生と世話好き先輩のエロとろ同居BL! 電子雑誌『花丸漫画』(毎月1日配信)連載中。
ドラマ化で人気急上昇 瑞々しくも眩しい恋物語
最後に紹介するのは、窪田マルさんの『君となら恋をしてみても』。昨年10月にドラマ化されたばかりで、人気急上昇中の作品だ。青くて瑞々しい恋愛ストーリーを楽しみたい人は、ぜひ手に取ってみてほしい。
江の島で暮らす祖母の家に引っ越してきた高校生の海堂天は、島に到着早々、同い年の龍司と出会う。家業の食堂を手伝う彼は、天が通うことになった高校のクラスメイト。友達としてそばにいるうち、天はみるみる龍司に惹かれていく。だが、天にはトラウマがあった。中学時代、好きだった人にゲイだと告白したところ「ウケる」と嘲笑され、以来、天は真面目に人を好きになるのをやめていたのだ。しかし、龍司は違った。天が自身のセクシュアリティを笑って告げると、「俺の前で無理に笑わなくていいっすよ」「茶化すたび傷ついてるのは自分でしょ」と、真剣な顔で返してくる。傷つくことを恐れ、恋愛を諦めていた天の心は大きく動き始め……。
天が龍司に惹かれていく過程、天の思いを知った龍司の揺れる心が繊細に描かれ、切なさに胸が締め付けられるよう。ふたりのピュアな恋愛を、そっと見守りたくなる。誠実で飾らない人柄ゆえに、ストレートな言葉で天をときめかせる龍司の天然モテ男ぶりにも注目したい。
底なしのBLを感じられる、様々な愛の形。きっと好みや性癖に刺さる作品が見つかるはずだ。
『君となら恋をしてみても』(1~4巻)
窪田マル 白泉社花丸Cプレミアム 770~792円(税込)
中学時代、同性への恋心を嘲笑され、自分の気持ちをごまかすようになった天。だが、転校先で龍司に出会い、彼に惹かれていき……。江の島を舞台に描く青春ピュアストーリー。「マンガPark」連載中(毎週金曜更新)。