SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第30回「宝くじ」

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公開日:2023/12/27

 私には、ことあるごとに思い出してしまう事がある。それはすごく些細で、なんてことのない出来事。ただ、それがどういうわけだか自分の教訓となり、「思い立ったらすぐに」という行動理念の根源となった。

 今でも思うのだ。結果がどうであれ、「やっておけばよかった」と。

 

 二十代前半、私がアルバイトを始めたばかりの頃だった。貧乏暇なし。ライブとアルバイトでひっきりなしに動きまくる日々だった。ただ、それでも友人と過ごす時間は大事にしていた。心にとって一番の栄養だったからだ。

 眠たくなってきた目を擦り、それでもまだ話し足りないと、なぜか少し生臭い匂いのするジョッキを煽った。やたらとアルコールの濃い緑茶ハイの中で、氷がカランと鳴った。

「だからね、それは気持ちの問題だから」

 友人は言った。

「絶対違うよ」

 私はすかさず応える。会話の流れから、そしてニヤニヤしている表情からしても、彼が本気でそれを言っていないことはわかっていた。議論の体裁で、戯れているだけだ。彼は言う。

「気持ちが弱いからだよ。あと展望が薄いから」

「ないない。ってことは即ち、お前自身も気持ちと展望が伴ってないってことになるじゃん」

「今は、な」

「ん?」

「四、五年以内に当たるから」

「馬鹿らしい」

「三億」

「アホくさ」

「当たらないと思うから当たらないんだよ」

「それよく聞く」

 表面で白く固まった脂を避けて、冷めたモツ煮を摘むと、目の前の彼は尚も宝くじの話を続けた。

「一億で家を買う、一億は貯金、残った一億でめちゃ遊ぶ」

「さっき展望がどうのこうの言ってたやつの発想とは思えないんだけど大丈夫?」

「でも、今日この話を共有したから、お前には一千万円あげるよ」

「いや、なんか、そういう発言も含めて薄っいなア」

 彼はそれを聞いて大笑いして、私も一緒になって笑った。真面目な話も馬鹿な話も、大きな原動力である。空が白くなってきた頃、「そろそろ一旗揚げてやろうぜ」なんて話で締めくくり、二人は始発を目掛けて、フラフラと駅に向かった。

 ちなみに。

 なんかエモい展開になりそうな書き方をしてしまいましたが、このあと、彼が夢半ば東京を離れる決断をしたり、互いに変わっていく環境の中で小さな諍いが生まれていつしか会わなくなったりなんていうありがちなやつにはならない。ましてや彼が三億円を当てて、本当に一千万円をくれた、とかっていう劇的なやつもない。彼は今も割と近くに住んでいるし、頻度こそ減ったがコンスタントに会えている。

 ただこのあとの彼の行動が、そして私の行動が、ことあるごとに思い出してしまう出来事になってしまった。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中