「あなたがいないと困る』は麻薬、社会の「歯車」になれ。シリーズ累計117万部超えの安藤広大さんインタビュー
更新日:2024/2/7
「株式会社識学」の代表として、人と会社を成長させるマネジメントについて説いてきた安藤広大さん。「識学」と呼ばれる組織運営理論と出会って以降、4000社を超える企業のコンサルティングを行ってきた。そんな識学のメソッドをもとに執筆された『リーダーの仮面』(2020年 ダイヤモンド社)、『数値化の鬼』(2022年 ダイヤモンド社)は大ベストセラーに。今年出版された『とにかく仕組化── 人の上に立ち続けるための思考法』』(ダイヤモンド社)も発売から半年で26万部を突破し、シリーズ累計117万部を超えた。「もっとシンプルに人々が仕事に取り組んでいる社会になってほしい」という安藤さんに、本に込められた想いを聞いた。
「人として気に入られたい、部下に嫌われたくないと考え」を捨てる
――ついに識学シリーズ三部作の完結編ですが、本書にはどのような反響がありましたか。
安藤広大さん(以下、安藤):今回は、“現場に愛着のある職業の方”から多くの感想を頂きました。具体的には、医者や看護師など医療現場の方、美容師さん、学校の先生などですね。目の前の患者さんやお客さん、生徒たちとの向き合い方と、組織での付き合い方は別物じゃないですか。だから「現場と組織内で自分のモードを切り替えて、上司や部下と接しないといけないと思った」といった感想がたくさん来ています。
――前作の『リーダーの仮面』『数値化の鬼』と合わせて、シリーズ累計117万部突破とのことですが、安藤さんご自身にはどんな変化がありましたか?
安藤:僕のほうで言うと、識学シリーズを読んだことがきっかけで「株式会社識学」に入社してきた人や、識学のサービスを申し込んでくれたお客様がおられます。なにより、「本を読んで経営や組織運営が楽になった」という声をよく頂いていますね。
僕は識学を世の中に広めるために会社をやっているので、「ひとりでも多くの方に識学を知ってもらいたい」という気持ちで本の出版をスタートしたんですよ。実際、想像を大きく上回る手ごたえを感じています。
――今回のテーマは“人の上に立ち続けるために必要な「仕組み化」という思考法”ですが、執筆に至った背景を教えてください。
安藤:識学の講演を行う中で、限られた時間内でどうすれば「仕組みで組織を伸ばしていくこと」を経営者の皆さんにイメージしてもらえるか、ずっと考えていたんですよ。識学の講師を始めてから7~8年経ったとき、ようやく完成形に近い講演ができあがりました。その構成を元に作ったのが、今回の『とにかく仕組み化』です。
分かっていてもつい部下を責めてしまう、感情に折り合いがつかない、そういう人はたくさんいると思います。けど、いかなるときでもまずは「仕組み」を疑って「仕組み」を変えないと、現状は何も変わらないと気付いてほしい。タイトルの「とにかく」には、そういった気持ちも込められています。
――仕組み化のステップとして、「責任と権限」「危機感」「比較と平等」「企業理念」「進行感」の5段階を解説されていらっしゃいますが、どのフェーズの実践がいちばん難しいと思われますか?
安藤:やっぱり「危機感」ではないでしょうか。人として気に入られたい、部下に嫌われたくないと考えてしまい、つい“いい人”になってしまう。そうすると本来厳しく指摘しなければならないところを優しくしすぎてしまい、「このままではまずい」という恐怖が部下の中に芽生えません。
会社の制度で言えば、給料がまったく下がらない仕組みになっていたり、ルール違反をしても始末書がない会社だったりすると、仕組み上の危機感も存在しない。だから組織がどんどん緩い環境になっていき、人が成長できずに価値が下がっていってしまうのです。
――いざステップに則って行動しようとなった際に、頭では理解していても上手く実践できない方もいるのではないかと感じました。
安藤:やってみて繰り返していくしかないです。本来ならPDCAを回していかなきゃいけないことを、シンプルに実行するための手がかりが本書です。
社会のサイクルの「歯車」になれなければ必要されなくなる
――本書の「『あなたがいないと困る』この言葉は麻薬だ」や、「『歯車として機能する人』は人の上に立てる」などの言葉は、読んでいて強烈に刺さりました。
安藤:今回は「歯車」がキーワードでしたね。思いついたときは、「これキたね!」って感じでした(笑)。実際、SNSなどでも反応が大きかった言葉です。
――それらのフレーズにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。
安藤:この本では、「その人にしかできない業務の存在」の怖さについて説いています。でも人間が「属人性」を好んで求めるのは、避けられない事実です。家族なり恋人間なり、属人性を認識できる瞬間が、いちばん自分の存在意義を感じるタイミングなので。だから会社でも”替えの利かない存在”になりたいと思うのは当たり前です。ただし会社という集団においては、属人性の追求は組織をおかしくしてしまう原因となります。だからこそ、仕組みを作る側の人間は、属人性を求めさせないような運営をしていかなければなりません。
――歯車になりたくないという人が多い現代社会では、反発を覚える人もいそうです。
安藤:ロジックを受け止めようとしない人や、会社で成果を残せない人たちは反発するかもしれません。ただ本書を読んでいただければ、論理破綻はまったく起きていないと分かるでしょう。
最近はインフルエンサーの方などの影響で、「歯車ではなくオンリーワンになろう」「好きな事をやろう」という考えがメジャーになりました。ただそうは言っても、ほとんどの人は会社に属していて与えられた仕事をこなしています。
本が売れている理由も、そこにある気がしますね。現実をもう一回見ようってタイミングに、この本がすごくハマったのかなと。世の中の考えが一周回って、「歯車」の思考が新しく見えて刺さっているのかなと思います。
――たとえばフリーランスなど、組織に属さない人であっても「仕組み化」の考えは適用されるのでしょうか。
安藤:どんな社会的立場であっても、何かしらの経済の仕組みの中で生きていることに変わりはありません。社会のサイクルの「歯車」になれなければ、必要とされなくなってしまいます。どこまでいっても社会には必要な機能があって、そこにハマることができるかが、どんな仕事であっても求められます。この本を通して、そのことにしっかり気付いてもらえたら嬉しいです。
識学シリーズは完結しないかもしれない?
――識学シリーズは今回で完結ですが、今後新しくシリーズを始める構想などはありますか?
安藤:読者から「もっと読みたい」という声が絶えないので、完結しないかもしれません(笑)。ただ具体的に「こういったものが読みたい」といった要望は寄せられていないんですよね。何が問題かイメージできていたら自力で解決できるはずですし、当たり前のことかもしれませんが。課題を示すのが僕の役割なので、シリーズを続けるにしてもある程度の構想は考えています。
――最後に、識学が今以上に広がった先での安藤さんご自身の夢を聞かせてください。
安藤:もっとシンプルに人々が仕事に取り組んでいる社会になってほしいですね。一人ひとりがただ仕事に打ち込めるような社会に戻していきたいです。組織を人間同士のつながりだけで頑張って動かそうとして苦しんでいる人ほど、『とにかく仕組み化』を手に取って読んでみてほしいです。今までの考え方とは真逆に聞こえる内容かもしれませんが、ひょっとしたら楽になるヒントが隠れているかもしれません。
取材・文=倉本菜生