ATMの「手数料無料」というだけで思考が停止――世の中のあらゆる数字を軸に、物事の価値判断力を磨く
公開日:2023/12/30
『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(平野薫/ダイヤモンド社)という問いかけのタイトルが気になった方に、まずその回答をお伝えします。いわゆるネタバレではありますが、それを知ってもらうことが本書を最も効率的に紹介する方法であると思ったからです。
なぜ、コンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか? それは、手数料無料のATMへ移動する時間の価値(その時間でできること)と手数料の価値とを天秤にかけられない金銭感覚の持ち主だからです。
「往復1時間かけて手数料の掛からないATMでお金をおろすことを習慣とする友人」がいて、経営コンサルタントの著者・平野薫氏は率直にその友人に問題点を指摘したといいます。
私から見るととても信じられない行動です。なぜなら1時間かけて節約できるお金はたった110円です(セブン銀行のATMでは口座のある銀行・利用時間に応じて110円〜330円の手数料が発生)。1時間という人生の貴重な時間を投資して得られる経済的な対価は110円しかありません。これは時給110円の仕事をするのと同じことを意味します。
平野氏はこのようなトピックを「トリビア」的に紹介するのではなく、「数字から気付きを得る力」を読者に教授する目的で本書を書いています。
- ・違和感を持った点に仮説を立てる
- ・数字を根拠に分析する
- ・気付きをアウトプットして、持論を研ぎ澄ましていく
という思考プロセスを勧めています。「手数料無料のATMがあるのに、コンビニATMで手数料を払ってお金をおろすなんて」というふうに、金額面のみの節約が目的化してしまって思考停止すると、価値判断基準が鈍ってしまうというのが平野氏の主張です。
他にも様々な事項が本書では題材とされています。キユーピー社に勤めていた著者は、マヨネーズのサイズが5パターンある中でひとつのサイズのみの状況を数値的な分析をもとに進めます。物品だけではなく、「不良が減った」という社会的事象についても著者は数値データの引用や4つの切り口によって分析しています。おそらく最初は「そういえば“不良”って減ったよね、何でだろう?」という会話や思考における違和感から、分析を始めたのでしょう。
数値は、厚生労働省の「若者の飲酒と健康、事件・事故との関係」や法務省の「犯罪白書」を引用。論拠は、子どもの数が減って一人ひとりに対するフォローが増えた、治安の改善(暴力団の衰退)、警察や行政によるネガティブキャンペーンの推進のほか、インターネットの普及という意外な要素を探り当てます。
かつてはやることがなく、時間を持て余していた若者が街でたむろし、良からぬ行為に及んでいました。しかし現在はインターネットで気軽に映画を見たりゲームしたり、SNSでコミュニケーションを取ったりと自宅に居ても十分楽しめる環境が整っています。意味もなく集まるよりもインターネットを通じた娯楽に興じるほうが遥かに楽しいという若者が増えたと思います。
飛行機のLCCの料金はなぜ安いのか。井村屋などアイスを手掛けていた会社がなぜ肉まんを作り出したのか。競馬の有名馬はなぜ最速のパワーを誇っているときに「電撃引退」するのかなど、紹介されている多方面の事例から「数字のチカラ」を身につけるきっかけとしてみてはいかがでしょうか。
文=神保慶政