「鉄棒の技を見せてほしい」気づかないうちに性犯罪に巻き込まれていた… 身近に潜む犯罪や恐怖を描いた『身の毛がよだつゾッとした話』著者インタビュー
更新日:2024/8/12
日常に潜む恐怖や怪異、思わずゾッとするような出来事を描いたマンガをSNSに投稿し、大きな話題になっているしばたまさん。
しばたまさんのSNSに寄せられた体験談を基にしているだけに、どの話もリアルな恐怖でいっぱい! 単行本『身の毛がよだつゾッとした話』(しばたま/KADOKAWA)の発売を記念して、しばたま流・恐怖の作劇術や作品に込めた思いをうかがいました。
――色々な種類の怖い話が収録されていますね。恋愛絡みのトラブルやストーカー、ご近所問題、犯罪に幽霊まで。しばたまさんご自身は、人間の恐ろしさに焦点を当てた〈人怖(ひとこわ)系〉と、オカルトものの〈心霊系〉のどちらに、より強い恐怖を感じますか。
しばたまさん(以下しばたま):どちらかといえば人怖系の方が怖いですね。心霊系の怖さというのは、霊感が強い、などの特殊な力のある人が遭遇しやすい気がしますが、人怖系は誰の身に降りかかってもおかしくない恐ろしさがあります。それこそ、このインタビューが終わった後で通り魔に遭遇する可能性だってある。そう考えると、幽霊よりも人間の方がずっと恐ろしく感じられるんです。
――送られてくる体験談にはどんなものが多いでしょうか。
しばたま:私のインスタグラムで3ヶ月に1度くらいの周期で募集しているのですが、4日間で1000件ほど寄せられます。うち8割は人怖系で、残り2割が心霊系という感じです。
――4日で1000件も! 世の中はゾッとする話に充ちているんですね。それらの中からどんな話をマンガ化しようと選んでいますか。
しばたま:まず、マンガを読んだ方が防犯意識を高められるような、日常生活の中で気をつけられる教えを含んだ内容にできるようなものを選んでいます。たとえば、戸締りをしていなくて怖い目に遭ってしまうエピソードなど。いただいた体験談を読んでいると、ほんとうに常日頃の用心や心がまえって大事なんだなと思います。でも、どんなに用心していても起きてしまう怖い出来事も、やっぱりあるわけで。
――ストーカーなんてまさにそうですね。本書にも2編収録されています(「会社の同僚」「彼の本性」)。
しばたま:ストーカー案件は多くきますね。子どもが狙われるお話も。
――子どもへの性犯罪をとりあげた「鉄棒おじさん」や、「娘の誘拐」「たくや君」など、子どもが巻き込まれる話は痛ましいです。
しばたま:親子で読んでくださっている読者さんもけっこういらしているようで。「鉄棒おじさん」という作品では、公園で遊んでいる小学生に「自分の娘が鉄棒の技が出来ないから、やり方を見せてほしい」と近づき、その小学生は衣服の上から体を触られてしまいます。大人からすれば、不審者と気づきますが、子どもには「困っている人」に見えている可能性もあるのではないでしょうか。こちらのエピソードの被害者の方は、知らぬ間に犯罪に巻き込まれ、その事にすら気づかず、大人になって傷ついたそうです。
「不審者に気をつける」「知らない人についていってはいけない」と何度注意しても、なかなか(子どもは)分かってくれなかったけど、「しばたまさんのマンガを読んだら、こんな怖い目に遭うかもしれないんだ……と(子どもが)分かってくれたようです」なんて感想をいただくこともあります。読んだ方の役に立ってもらえていたら嬉しいですね。
――子どもが読んだらトラウマになってしまいそうなお話も多いですよね。
しばたま:それくらい怖くしないと伝わらない、という思いで描いているので(笑)。特に子どもを標的にした犯罪を扱う回では、最後のページにメッセージを入れるようにしています。それこそ子どもの読者さんにも伝わるように、できるだけ分かりやすく。こういうことに気をつけたいですよね、という感じで。一方で、ストーカーのような理不尽なものについては教訓の込めようがないと思っています。心霊系もそうですね。なので、教訓を入れられるものには入れて、入れられないものには無理して入れない。そういうスタンスで取り組んでいます。
――体験談をマンガ化するうえで、どのような点を大切にしていますか?
しばたま:いちばん気をつけているのは、体験者さんご本人がマンガの読者さんからSNSで非難されたり、攻撃されたりしないように描くことでしょうか。「この主人公(体験者さん)、危機意識が足りないよね」なんて感想が出ないように。
――さらにつらい思いをしないように、ですね。
しばたま:そうですね。あとマンガ表現に関する点ですと、このあたりから不穏な感じがしてくるな……という部分から、だんだんと画面の色味が暗くなるように描いています。それと、ストーリーが最も盛り上がる瞬間が最も怖い場面になるように構成しています。その瞬間は絵柄をリアル寄りに変えて。
――それまでずっとかわいらしいタッチだったのが、急に写実的になります。この手法は読み手にショックを与えますね。
しばたま:リアルな絵は、ここぞというタイミングで出すようにしています。あんまり出しすぎると恐怖が減るので、一番いい場面で。
――しばたまさんの絵は、人が恐ろしい状態になるときの顔が、実に真に迫って怖いです。こうした表情を描くとき、どんな部分に力を入れていますか?
しばたま:目、ですね。人を描くとき、最初に描くところは目なのですが、不審者でしかしないような顔や目つきというのがあると思うんです。それをちゃんと捉えて、その怖さを表現したい。ちなみに恐ろしい場面――性犯罪が行われる瞬間など――は行為を直接描かず、それをしている人の表情で何が起きているのかを伝えるようにしています。
――直接描くのではなく表情で伝える、と。
しばたま:その方が読む方の想像力を刺激して、より怖くなる気がするんです。
――『身の毛がよだつゾッとした話』(連載名は『本当にあったすごい話』)は現在も好評連載中です。この作品に込めた思いをお聞かせください。
しばたま:本作品を読んでくださっている方々ならお分かりかと思いますが、ほんとうに日常生活のそこかしこに恐怖は潜んでるんですよね。そうした体験談を描くことで、少しでも注意喚起につながれば、という思いで取り組んでいます。私自身、この作品を描きはじめてからは、夜道を歩くときはイヤフォンをつけない、などのちょっとしたことに気をつけるようになりました。体験談を募り、それをマンガにしておきながらこんなことを言うのは矛盾しているかもしれませんが(苦笑)、ここに描かれているような「ゾッとする」体験をする人がいない世の中になってほしい……という願いを込めています。
取材・文=皆川ちか
<第2回に続く>告知情報著者プロフィール・告知情報著者プロフィール・告知情報著者プロフィール・告知情報著者プロフィール・告知情報
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