『川柳少女』の五十嵐正邦最新作! 声に恋した少年と、声の仕事を夢見る少女たちのすれ違いラブコメ『真夜中ハートチューン』

マンガ

公開日:2024/1/5

真夜中ハートチューン
真夜中ハートチューン』(五十嵐 正邦/講談社)

「深夜ひとり、ベッドの上、キミの声だけが救いだった。もう一度キミと話したい。言いたいことがあるんだ」

 声しか知らないヒロインを探すマンガ『真夜中ハートチューン』』(五十嵐正邦/講談社)がブレイク寸前だ。キャッチコピーは「かわいくも懸命なサクセスラブコメ」。2023年秋に連載を開始し、第1話を投稿したSNSでは約38万インプレッションを獲得。2023年12月に発売された第1巻は早くも重版がかかっている。

 作品の魅力はやはりヒロイン。アニメ化もされた『川柳少女』(講談社)の作者・五十嵐正邦氏の描くヒロインはとにかく可愛い。メインヒロインは井ノ華六花(いのはなりっか)、日芽川寧々(ひめかわねね)、霧乃イコ(きりのいこ)、雨月しのぶ(うづきしのぶ)の4人。彼女たちが所属する放送部に、主人公の山吹有栖(やまぶきありす)がやってきたところから物語は動き出す。

advertisement

「愛していると言ってくれ」声しか知らない少女を探す物語

 高校2年生の山吹有栖は、顔も本名も知らないインターネットラジオ配信者の少女“アポロ”を探していた。彼は本稿冒頭のセリフのように、彼女に会って言いたいことがあったのだ。

 有栖は中学生の頃、毎日深夜に“アポロ”の配信を聞いていた。ほぼ聞いているのは彼だけ。ふたりは直接通話する仲であったが、ある日放送は途絶え、アーカイブも削除されてしまう。それから彼は彼女を探してきた。配信で聞いた情報をもとに、彼女が在籍している可能性が高い女子高と合併予定の学校を選んだ。

“アポロ”の手掛かりは彼の耳と記憶に残る“声”だけ。そこで、学校が合併した最初のあいさつで有栖は女生徒たちへこう言った。

今から一人ずつ俺に向かって
「愛してる」と言ってくれ

 有栖はだいぶ空気の読めない少年であった。彼はクラスでは総スカンをくらうが、それからすぐに校内放送から“アポロ“らしい声を聞く。

 放送室へ飛び込んだ有栖は、驚き、困惑した。なぜならそこには4人の少女がおり、彼女たち――井ノ華六花、日芽川寧々、霧乃イコ、雨月しのぶの声が、“アポロ”の声質や抑揚や喋り方に似ていたからだ。有栖は「この中にアポロはいるか」と聞いてみるものの、誰も答えない。

 そこで有栖は多少強引に放送部のメンバーになる。彼女たちを探るためだ。そして彼は4人の性格と夢を知る。クールでロックな六花は歌手に、いわゆるツンデレな寧々は声優に、ちょっと不思議ちゃんなイコはVTuberに、おっとりしたしのぶはアナウンサーを目指していた。有栖は“アポロ”探しと並行して、放送部で夢に向かって成長しようとする4人のサポートを行う。実は“アポロ“はラジオで「何をするかは決めていないが声のプロになりたい」と語っており、有栖はその夢をサポートすると彼女に約束していたからだ。

 作品のキャッチコピーの通り「彼女たちがサクセスできるのか」も物語のポイントのひとつである。

すれ違うふたりは恋する心の声に気づけるのか?

 ただ、有栖が“アポロ”に会いたい理由は「彼女の夢を叶えたいから」ではない。彼は彼女に「言って」しまった言葉を取り消したかったからだ。

 それは“アポロ”の配信のリスナーが有栖だけで、通話状態になっていたとき、彼女が「リスナー、愛している」と言ったところ彼も「愛しているよ」と返答してしまったのだ。彼はこれを非常に気にしていた。

「え、そこ?」と思わずツッコミたくなるが、彼にとってラブコメはまだ始まっていないのである。しかし、彼のあずかり知らぬところでラブコメは動いていた。有栖が初めて放送室を訪れたその日“アポロ”である彼女の述懐が描かれる。

アリスくん
まさか君のほうから会いに来てくれるなんて
私がアポロだってことは今は言えない

もう一度キミと話したい
言いたいことがあるんだ
私の愛しているは
ずっとキミのために言ってたんだよ

 密かにドキドキしているメインヒロイン4人のうちのひとりが、もうひとりの主人公と言っていいかもしれない。

 有栖はこれを知る由はない。“アポロ”が思いをよせていた少年は、探し人が誰だか分からずに彼女に接しているのだ。はたして“アポロ”は誰なのか。実は早いうちに、かなり分かりやすくセリフや状況が提示され、4人のうちのひとりが候補に挙がるのだが、これは逆に「ミスリードを誘っているのでは?」と疑ってしまう(“直球”の可能性もあるが)。

 いずれにしても本作は、有栖にとってはラブコメ未満の物語で、“アポロ”にとってのラブストーリーだ。彼は“アポロ”の声を聞きたい。ただ、その願いを叶えるには「恋する心の声」に気づけるかにかかっている。

 声に恋するすれ違いラブコメ、そしてヒロインたちの夢の行方を追いかけてみてはいかがだろうか。

文=古林恭