現在ルーブル美術館にある〈モナ・リザ〉は偽物? 1911年に実際にあった盗難事件に基づいて書かれたアート・ミステリ

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/25

最後のモナ・リザ
最後のモナ・リザ』(ジョナサン・サントロファー:著、髙山祥子:訳/アストラハウス)

 世界で最も大きな美術館の1つにルーブル美術館がある。ルーブル美術館の所蔵美術品は38万点にも及び、見たい作品をあらかじめピックアップしないと1日では到底まわりきれないほどで、迷子にもなりかねない。有名な作品も数多くあり、その中でも見るべき作品のトップ5に入るものが、レオナルド・ダ・ヴィンチの〈モナ・リザ〉である。

最後のモナ・リザ』(ジョナサン・サントロファー:著、髙山祥子:訳/アストラハウス)は、1911年に実際にあった〈モナ・リザ〉盗難事件に基づいて書かれたアート・ミステリだ。〈モナ・リザ〉窃盗犯であるヴィンチェンツォ・ペルージャを曽祖父にもつ主人公のルーク・ペローネが、曽祖父の日記を読むことから現代と過去のシーンが交錯し、事件の真実が明かされていく。

 見どころの1つは、舞台がイタリア・フィレンツェからフランス・パリ、プロヴァンスと移り変わっていくことだ。イタリア・フィレンツェでは、ラウレンツィアーナ図書館で、ペローネは曽祖父ペルージャの日記を読み、盗難事件を探る。また、この図書館では、物語の重要人物の1人であるアレクサンドラという女性とも出会う。

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 フランス・パリでは、過去・現代共に〈モナ・リザ〉のあるルーブル美術館が登場する。過去シーンでは、ペルージャにいくつもの良くない出来事が起こり、〈モナ・リザ〉窃盗へと突き進ませる。彼は、息子を自分のもとで育てるためにお金が必要になり盗みをすることを決意するのだ。また、プロヴァンスでは、ペルージャが彼を貶めた人間たちに迫っていくため、手に汗握って読んでほしい。

 アメリカ・ニューヨークにも舞台は移り、物語の最終局面を迎える。それぞれの場所を旅したことのある人は、行った場所が出てくるたびに追体験するように楽しめるはずだ。

「あの〈モナ・リザ〉は贋作か否か?」ルーブル美術館以外にもモナ・リザが存在する!?

 重要なキーとなるのは、タイトルにもあるように〈モナ・リザ〉である。〈モナ・リザ〉は、盗まれた以外にも、ティーカップが投げつけられたり、ケーキをこすり付けられたりと事件に巻き込まれることが多い。都市伝説のように贋作ではないかという噂まであり、作中には贋作を制作するくだりも登場する。その描写がとても細かく、制作現場を見てきたかのように描かれているため、本当に贋作が作られたのではないかと思わされてしまうほどだ。翻訳をした髙山氏があとがきで語っているが、著者自身が画家であるため、絵に関する描写が詳しく、より一層ストーリーを現実味のあるものにしている。

 さて、この本には主人公以外にも、図書館で会う謎の女性やインターポールの分析官、美術品コレクター、美術品贋作者など個性溢れるキャラクターが登場する。主人公や過去の主人公といえるペルージャと人々との関わりにも注目してほしい。本書は480ページ以上と読み応えのあるボリュームのため、作中の人間関係もじっくり楽しめる。中でも、図書館で出会ったアレクサンドラとペローネは恋に落ちるが、

“彼女はいつもどおり、用事があるからと言ってはぐらかしたが、わたしは穿鑿(せんさく)しなかった。わたしにも、彼女にも話していない、やらなければならないことがあった”

 と、どちらも自分の素性を明かせないなんともモヤモヤした状態になり、2人の行く末を見守りたくなる。また、インターポールの分析官は、はじめはペローネを追う立場だが、途中からはバディもののように2人で真相を追うことになるのも面白い。

〈モナ・リザ〉窃盗事件の全貌と、本物の〈モナ・リザ〉はどこにあるのか、真相に辿り着くまで気になって気になって仕方がなくなる中毒性の高い1冊だ。ぜひ、じっくりと堪能してほしい。

文=山上乃々