「BreakingDown」経営者が語る引き寄せの法則。貧しくて大学にも行けなかった男がいかにしてのし上がったのか?
公開日:2024/1/25
新年の抱負を、実行に移していこうと模索している方も多いはずのこの季節。『持たざる者の逆襲 まだ何者でもない君へ』(溝口勇児/幻冬舎)は、野心を抱くあらゆる世代の人を鼓舞してくれる一冊です。
連続起業家の著者は様々な転機や決断の瞬間を本書に綴っていますが、高校のときにフィットネスクラブでパーソナルトレーナーという「身体」にまつわる仕事と出会ったことは、運命が変わり始めた特に重要な転機の一つとして描いています。後に人気ヘルスケアアプリ「FiNC(フィンク)」を提供する会社・FiNC Technologiesを創業したり、「1分間最強を決める。」をコンセプトとした格闘技イベント「BreakingDown」の運営に参画したりという勢いの源泉を見出すことができます。
著者は「選択」「成長」「運と縁」「解釈」「勇気」の5章に分けて、自身の哲学を語っています。複雑な家庭環境で育ち「持たざる者」だった著者は、高校生の頃から様々な仕事を経験してきたといいます。貧しくて大学には行けない。そんな中、時間を片時も無駄にしないという覚悟で、フィットネスクラブで自分を成長させようと未経験の領域に飛び込みました。
身長も、体格も、容姿も、頭の良さも、生まれた環境も、世の中は不平等なことが多い。でも、時間だけは全員に平等といえる。ではその平等な時間を何に使い、何に使わないのか。覚悟を持って何かを捨てるという選択ができた人が、「何者か」へと成長し、悔いのない人生を送ることができるのだと思う。
流れに乗るというだけではなく、どのように縁や運を引き寄せて流れを変えていけるかということについても、本書は多くページを割いています。特に、何か困難な状況や悩みが生じた場合に「目の前の状況をどう解釈するか」という点は、多くの読者にとって発想の転換になるでしょう。
例えば、「勇気とは恐れを抱かないことではなくて、恐れを抱いても行動する度胸があること」と著者は本書で説いています。これを違うふうに言い換えるとするならば、自分を奮い立たせなければいけないような状況というのは、勇気が招いているということになります。
状況を打破するために、時には自分の発言によって敢えてハードルを高めるという強制力も必要なことがあります。「言霊を信じろ」という項では、「BreakingDown」の経営者でありながらも空手の日本チャンピオンと試合をすることを宣言し、勝利をおさめた経緯について書かれています。
厳しい状況を切り抜けて成長を遂げることは、「自分だけでできるほど甘くない」とも説かれています。コラボレータを見つけたり、評価・助言をもらったり切磋琢磨していける仲間や環境が不可欠だということです。
そもそも目の前のことに真剣に向き合ったり、新しいことに挑戦していない人のもとには、困難がやってくることはほとんどない。つまり困難は全ての人に訪れるものではなく、選ばれた人にしか訪れないとも解釈できる。
本書は、著者の激動の人生とは相反して、驚くほど静かで落ち着いたトーンで書かれています。おそらく、具体的かつエモーショナルに書き出したら、もっと深く強い言葉が溢れ出てくるのでしょう。そうした「書かれざるストーリー」が存在している雰囲気が、読者自身の心に秘められた「言葉にならない思い」を誘発してくれることでしょう。新年の出だしにピッタリな一冊です。
文=神保慶政