ヴィーナスはお父さんの男根から誕生した? 世界の有名美術を鑑賞する前に読んでおきたい美術超入門
公開日:2024/1/27
美術館に行って有名な作品を見ても、その良さがよくわからない。感想を求められても、「きれい」「すごい」という言葉しか出てこない。正しく絵画を鑑賞できていないようで、居心地の悪さや恥ずかしさを感じたことはないだろうか。
たとえば、旅行先でおいしい料理を食べたとする。予備知識がなくても味わえるけれど、使われている食材がその土地でしか手に入らない貴重なものであり、調味料が古くから受け継がれてきた伝統製法で作られていると知ったら、食べた感想は変わってくるに違いない。
同じように、絵の見方や名画の裏話、そして美術史を知れば、有名な美術作品もより一層深く味わえるようになるだろう。難しいことはわからないけれど、いつかは美術を楽しめるようになりたいし、海外の美術館にも足を運んでみたいと思うなら、『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』(山上やすお/ダイヤモンド社)をおすすめしたい。
「え、そうだったの!」有名美術の知識が楽しく身につく
『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』は、指名殺到の美術旅行添乗員であり、アート系YouTuber「こやぎ先生」としても活躍する山上やすお氏の著書だ。ルーヴル美術館やウフィツィ美術館といった世界の名だたる美術館にある合計54作品の有名美術がオールフルカラーで解説されており、実際に現地でガイドをしてもらっているような「名画鑑賞の体験」ができる。
文章の大部分は、美術に関する知識ゼロの編集者・林さんが、読者を代弁するかのような質問を投げかけ、それに対して山上やすお氏が回答する会話スタイルだ。テンポよく、ときおりクスっと笑いながら、スイスイ読み進められる。あまり美術に触れてこなかった人も、美術は好きだけれどもっと深く知ってみたい人も、きっと楽しめるだろう。
「『モナ・リザ』って普通の肖像画に見えるけれど、何がそんなにすごいの?」「フェルメールの『牛乳を注ぐ女』って、なんで主人や奥さんじゃなくてメイドさんを描いているの?」といった、いまさら聞けない疑問も、「なるほど、そういうことだったのか!」とすっきり解消できる。
また、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』に描かれている女性はジャンヌ・ダルクではなく、シーンもフランス革命ではないこと。フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』は時価数百億円と言われているが、1881年にハーグのオークションに出品されたときはわずか1万円で落札されていたこと。ムンクの『叫び』は本当は叫んでいるわけではないことなど、「えっ、そうだったの!?」と言いたくなる豆知識も盛りだくさんだ。
世界には「知る楽しさ」が満ち溢れている
知識が身につくと、「単なるきれいな絵」でしかなかったものが、どういう意味を持つのか、描いた画家が何を表現したかったのか想像できるようになる。もちろん、予備知識なしに絵画を楽しむことが悪いわけではない。しかし、知ることで楽しみは何倍にもなる。
私は過去にイタリア旅行をしたときに、フィレンツェにあるウフィツィ美術館を訪ねた。ウフィツィ美術館の宝といえば、ボッティチェリの『ヴィーナス誕生』だ。美術の教科書や資料等で見たことがある人も多いだろうし、AdobeのIllustratorを連想する人もいるだろう。私もこの目で鑑賞をして、「これがかの名画か!」と感慨深い気持ちになったものだ。
しかし、本書を読んで、この作品に描かれたヴィーナスは、お父さん(ギリシャ神話の天の神ウラノス)の男根が鎌で切り取られて海に落ち、海の泡と戯れて生まれたと知り、驚いた。だから、彼女はホタテの貝に乗っているそうだ。なんとも衝撃的なストーリーである。
さらに、この作品は、キリスト教以外の神様を描くことがタブーで裸は罪深いものと考えられていた当時としては、かなり攻めたものだったという。私はこうした裏話や時代背景を知って、「美しいけれどよくわからない」ものだった絵画が、ぐっと身近に感じられるようになった。名前しか知らなかった画家に対しても人間くささを感じ、親しみを覚えた。
美術の見方に正解はないし、「こう見るべき」と誰かに強要されるものではない。しかし、本書を読むと自然と知識が身につき、憧れの美術館に行くことが楽しみになるに違いない。そして、世界には「知る楽しさ」が満ち溢れていると感じられるだろう。
文=ayan