下手したら自分を喰う鬼を飼育する? 世界の奇獣を扱う不思議な商店から始まる、飼育系あやかしストーリー
PR 公開日:2024/1/18
鬼や化けギツネ、猫又などのあやかしの話を本で目にしたり聞いたりした経験はあるが、想像上の生き物だと思う人がほとんどではないだろうか。しかし、私たちが気付かない、見ようとしていないだけで、もしかしたらすぐそばに存在しているかもしれない。
『鬼を飼う』(吉川景都/少年画報社)は、あやかしと人との関わりを描いた飼育系あやかしストーリーと呼ばれる人気作だ。昭和7年の東京、帝大生の鷹名基(たかな・もとい)と司怜一(つかさ・れいいち)は、1人の少女と出会い、四王天(しおうてん)鳥獣商店にいざなわれる。そこでは、奇獣という不思議な生き物を取り扱っていた。鷹名が、店主の四王天から「鬼」という奇獣を飼わないか、とすすめられることから話は始まる。
奇獣とは、一般的に「珍しいけもの」のことをいう。本書での奇獣は、伝説や神話の架空の生き物を指し、
“奇獣とは伝説上の生き物なり
ただしごく少数の才ある者のみ奇獣の生態や住み処を知り、また飼うことも可といふ
飼育には細心の注意を以て臨むべし”
とある。奇獣は、生態や特性を理解すれば、命令を聞かせ、エサを与えて飼うこともできる。鷹名と司は数多くの奇獣に出会い、その奇獣について知識を深めていく。奇獣はかわいらしいものや人に近い見た目のもの、恐ろしい雰囲気のものなど多種多様なものが登場する。人は奇獣を、神と崇め恐れたり、価値があると判断すれば捕まえて利用しようとしたりする。繁栄のためや戦争の道具に使おうとする者や、血を見たいがために使役する者もおり、そこに人の欲深ささえ感じてしまう。時に人を糧とする奇獣より、人が恐ろしいと思えるほどだ。例えば、「アネサマ」という座敷童子のような奇獣は、その家の男の子が数えで7歳になる年にやってきて、男の子と引き換えに家を栄えさせるが、男の子を隠すと翌年には災厄を起こす。家のため、災厄が恐ろしいために、子供をいけにえに差し出すことに人の醜さやエゴをまざまざと見せつけられる。また、「オンシサマ」という、ヘビやカエルなど人に助けてもらった奇獣が、恩返しのために人型になって現れるという話もある。奇獣と人とのつながりは、飼う飼われる以上の様々な想いが交錯しているのだ。
人のすぐそばにいる「日常に当たり前にある不思議な生き物たちの話」にジンとくる
本作は、昔と言っても、そこまで遠くはない現代に続く激動の昭和初期を舞台にし、和と洋が合わさった昭和モダンの雰囲気も味わえる。昔からあるものの中に新しいことが沢山入ってくる時代だからこそ、奇獣が隣にいて一緒に暮らしていてもすんなり受け入れられてしまうのではないか。科学だけで解決できないものに対する懐の深さが残っていると感じる。
また、7巻で完結しているため、じりじりと次の巻を待つ必要がなく、一気にラストまで読み進められることが嬉しい。特別高等警察や新聞記者、軍人、他国の奇獣商、数多くの個性的なキャラクターが登場するので飽きずにのめり込める物語だ。鷹名と司が奇獣や他のキャラクターたちとどう関わっていくかも注目して読んでほしい。読み終わったら、自分のまわりにも奇獣がひそんでいるのではと、期待を込めてふと暗がりに目を凝らしてしまうかもしれない……。
文=山上乃々