〈いけにえにフリルがあって恥ずかしい〉。宇宙人に現代川柳を教えるシュールでユーモアあふれる七日間の物語
公開日:2024/1/26
あなたは暮田真名を知っているだろうか。
暮田は1997年生まれ、いわゆるZ世代の川柳人である。2022年、川柳句集『ふりょの星』(左右社)で商業出版デビューを果たした。そして2023年12月、暮田の川柳入門書『宇宙人のためのせんりゅう入門』(左右社)が刊行された。まずは暮田がどれほど優れた、そして不思議な言語能力を持っているかを紹介したい。『ふりょの星』から三句挙げる。
いけにえにフリルがあって恥ずかしい
いけにえ。そんな危機的状況にあっても、暮田はユーモアとキュートさを忘れない。
良い寿司は関節がよく曲がるんだ
連作「OD寿司」の中の一句である。寿司が軽々と変化させられるさまを、読者はただ受け入れるしかない。
県道のかたちになった犬がくる
散歩中の犬だろうか。県道のかたちとはどのようなものか、様々な答えがある。
暮田は2022年のインタビューでこのように話している。〈自分の知らないことを、言葉が勝手に書いてほしいみたいな気持ちがあるんです。なるべくこちらの考えは書かずに、勝手に言葉が走ってる状態にしたい。
〉https://book.asahi.com/article/14634745
さて、『宇宙人のためのせんりゅう入門』である。クレダのマンションの入り口に突然現れた宇宙人は「名前がない」と泣く。そこでクレダは宇宙人に「せんりゅう」と名付けて家に招き入れ、「川柳」とは何かを指南していく。クレダとせんりゅうの会話だけで進行していき、シュールでユーモアあふれる七日間の物語である。
七日間というくらいだから、本書は七章に分けられている。第一章「未知との遭遇」では、こんな会話がある。ここでは「せんりゅう」「クレダ」と書くが、実際はファンシーな顔のイラストで描かれている。
【せんりゅう】地球には「川柳人」がいっぱいいるの?
【クレダ】それは難しい質問だなあ。
【せんりゅう】どうして?
【クレダ】日本語ユーザーのなかで探せば、単に「川柳を書いたことがある人」はけっこういると思う。でも、自分のことを「川柳人」だと思っている人はすごく少ない。
【せんりゅう】単に川柳を書いたことがあるだけでは、自分のことは「川柳人」だと思わないってこと?
【クレダ】そうだね。川柳をマジでやってる人しか、自分のことを「川柳人」だと思わないんじゃないかな。
一般的に「川柳」と聞いて思い浮かべるのは「サラリーマン川柳」や「シルバー川柳」といった「属性川柳」であると思う。しかし、「現代川柳」は、それらとは隣り合わせに、しかし(先に暮田の作品で紹介したように)まったく異なる文芸である。本書では〈現代川柳の特徴は「普通」からこぼれ落ちていこうとするものに目を向けていること〉〈社会の「普通」を書くのが「サラ川」、「普通から外れるあり方」を書くのが現代川柳〉と書かれている。川柳のルーツや、定型と自由律、俳句と川柳の違い、現代川柳の代表的な作品が、ゆっくりと、そして着実に「せんりゅう」に、私たち読者に伝えられていく。
クレダとせんりゅうの、のびのびとした会話に、川柳つくってみたいかも、川柳つくれるかも、という気持ちが加速する。クレダ流川柳の作り方として、「額縁法」「コーディネート法」「逆・額縁法」「プリン・ア・ラ・モード法」「寿司法」の五つが紹介されている。
【せんりゅう】どうして川柳は話し言葉なんだろう?
【クレダ】どうしてだろうね。一つ言えるのは、川柳が庶民のものだったからじゃないかなあ。
川柳を読み、そして作る。川柳へのドアはこんなにも可愛らしく飾り付けされ、あなたを誘って開けられている。本書をガイドマップにして、「現代川柳」への第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
文=高松霞