“吃音”によって夢を諦めた若者たちが再起する温かな物語――『注文に時間がかかるカフェ』が話題沸騰!「胸を打たれた」「あらゆる人に読んでほしい」

暮らし

公開日:2024/1/25

注文に時間がかかるカフェ たとえば「あ行」が苦手な君に
注文に時間がかかるカフェ たとえば「あ行」が苦手な君に』(大平一枝/ポプラ社)

 吃音(きつおん)とは、話す時に最初の一音が詰まってしまったり、言葉が滑らかに出てこなかったりする対話障害のひとつ。おそらく多くの人が名前を知っていても、その実態について深くは知らないのではないだろうか。そこでひとつおすすめしたいのが、2024年1月11日(木)に発売された『注文に時間がかかるカフェ たとえば「あ行」が苦手な君に』だ。

 著者の大平一枝は市井の生活者を描くルポルタージュを中心に執筆しており、主な著作に東京で暮らす人々の台所から人生を紐解いていく『東京の台所』がある。そんな人々に密着してきた彼女が今回注目したのが「注文に時間がかかるカフェ(以下、注カフェ)」というプロジェクトだ。

「注カフェ」は全国各地にて1日限定で開かれるイベントであり、そこでは吃音を抱える若者が店員として接客に挑戦している。同書ではこのプロジェクトの発起人である奥村安莉沙氏への取材を通し、参加した若者たちのリアルに迫っていく。

advertisement

 奥村氏が「注カフェ」を始めようと思い立ったひとつのきっかけは、大学2年の夏休みに引き出しの奥から発掘した一通の手紙。差出人は10歳の自分で、手紙には「20歳のわたしへ。あなたはカフェの店員さんになる夢をかなえていますか」と綴られていた。

 しかし当時、重い吃音を抱えていた奥村氏は、人と話さなくてすむという理由で、金属工業団地で車の部品を組み立てるアルバイトをしていた。接客は無理だと思い込み、夢を諦めていた。

 ところが、オーストラリアへ語学留学に向かった25歳のときに転機が訪れる。同国は吃音治療が進んでおり、そこで発話訓練を受けた奥村氏は、今では一聴しただけではわからないほどに改善。さらにハンディキャップを抱える人を店員として受け入れるプログラムを実践しているカフェと巡り合い、インターンシップのような形で夢を叶えるに至った。

 そして、そこで得た経験から「接客に憧れている吃音の若者が今もきっといるはず」と考えた奥村氏は、2021年より「注カフェ」を始動することに。スタッフは都度X(旧Twitter)やInstagram、公式サイトで募集し、会場の大小にかかわらず4名の吃音当事者が接客を行う。

 カフェは賛同した個人や団体に招聘される形で開催する仕組みとなっているのだが、次々とメディアで取り上げられたこともあって一躍有名に。同書では参加した若者の体験談やその後の足取りを追いつつ、吃音当事者と非当事者のあいだに生じている認識の乖離についても言及している。

 吃音は目に見える障害とは言えないせいか、当事者たちの実態が語られることは少ない印象。そんな見えざる社会問題を取り上げた同書を手に取った人からは、「いろんな感情があふれだしてきてまとめられないけれど、なんかもう、すごく感動」「吃音に悩む若者がカフェでの経験を通して前向きになっていくエピソードも語られているので、あらゆる人に読んでほしい」「吃音って聞いたことはあるけど、実際にどんな症状なのか知らなかった。それも含め、接客体験する若者のチャレンジぶりに胸を打たれた」などと大きな反響が集まっている。

 吃音を抱えている人は日本全国に約120万人いるとされ、これは100人にひとりの割合。数字だけ見ると身近に思えるが、症状に対する正しい理解を得られているとは言い難い。同書が多くの人の手にわたると同時に、少しでも吃音に対する認識が深まることを願うばかりだ。