竹野内豊と伊藤沙莉の無駄遣い……じゃなかった! 宇宙人やUFO 、自称忍者などが勢揃いのB級映画の皮をかぶった切ない人間ドラマ『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』
公開日:2024/2/3
竹野内豊が好きだ。
タクシーで流れるCMの、スーツが似合ってダンディなのに、ちょっと抜けていてチャーミングな姿に、つい釘付けになってしまう。
だから、Prime Videoのホーム画面でサムネイルの中に彼を見つけたとき、思わず再生ボタンを押さずにはいられなかった。
作品のタイトルは『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』。
竹野内豊が出演しているだけでなく、主演は若手随一の演技派俳優、伊藤沙莉。「これは、おもしろくないはずがない!」と意気揚々と見始めたのだが……。なんと、開始5分で雲行きが怪しくなってきた。
人間を光線で消滅させるバスケット(かご)が出てきたかと思えば、そのバスケットは極秘に捕獲された地球外生命体で、アメリカへの移送中に、ある科学者の手によって連れ去られたのだという。それを追うFBI捜査官が、伊藤沙莉演じる探偵マリコに、捜索を依頼するところから物語は始まる。
正直、B級映画のニオイがぷんぷんしている。もしや豪華キャストの無駄遣いでは……? という疑念も頭をよぎった。しかし結論からいうと、この作品は大当たりだった。だからこうしてレビューを書いて、多くの人にすすめようとしているのだ。
本作は、6つのエピソードからなる群像劇。マリコが探偵業の傍ら働くゴールデン街の小さなバー「カールモール」に集う人々の喜怒哀楽が描かれている。
たとえば、北村有起哉演じる落ちぶれたヤクザは、ある大きな“仕事”の前に生き別れた娘に会いたいと願う。この父娘は気付かないうちに再会を果たすのだが、視聴者にしかわからないその瞬間は、あまりに残酷で切ない。
また、マリコの友人であるキャバクラ嬢の絢香は、支えてきたホストへの本気の恋に疲れ果て、ある悲しすぎる決断をする。ある意味では美しい結末なのだが、どんな痛みをともなっても愛を成就させようとする姿は、なんだか恐ろしくもある。
作中で描かれているのは、登場人物たちの人生のわずかな断片でしかないのに、彼らがどんな道を歩み、どんな思いを抱えてきたのか、なぜか自分のことのように感情移入できてしまう。
そして、忘れてはならないのが、お目当てだった竹野内豊。彼が演じるのは、マリコの恋人で自称忍者のMASAYA。忍術教室で生計を立てているが、収入は少なく、健保も年金も払えていない。正真正銘のダメ男なのだが、悪夢にうなされるマリコを抱き寄せ、なだめる姿には深い愛情があふれている。
マリコとMASAYAの関係は、恋人でもあり親子のようでもあり、とにかく温かく優しい。その空気にどんどん引き込まれていくのだが、クライマックスで明かされる2人の出会いとマリコの悲しい過去には、思わず涙ぐんでしまった。
もちろん、地球外生命体の行く末もしっかり描かれ、物語は大団円を迎える。不思議な爽快感すらあるその結末は、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
この作品は、B級映画の要素が満載で、宇宙人やUFOという飛び道具まで使っているが、根底にあるのは深い人間ドラマ。ときに目を覆いたくなるシーンもあるが、だからこそリアルな人の情や絆を感じることができる。
人生はいいことばかりではないし、残酷で辛いことも多いけれど、それでも、ちょっとした愛や幸せがあればなんとか生きていける。そんなことを改めて考えさせられた。自分の人生に閉塞感を抱いているとき、この物語は「大丈夫。なんとかなる」というエールを送ってくれるように思う。
ちなみに、竹野内豊のダンディでチャーミングな姿は見られないが、ダメ男だけれど底抜けに優しく温かいMASAYAは、とても魅力的で愛おしかった。彼の普段の役とは違った姿が見られるので、竹野内豊ファンにも、ぜひおすすめしたい作品だ。
文=近藤世菜