綾野剛主演で実写映画化『カラオケ行こ!』の続編。ファミレスでアルバイトをする主人公はまだヤクザと会っていて…

マンガ

公開日:2024/1/25

ファミレス行こ。
ファミレス行こ。』(和山やま/KADOKAWA)

 ファミレスは日本人にとって身近な存在で、子供の頃から大人になるまでさまざまなシーンで利用されている。ファミレスによって特徴は異なり、どのファミレスに入るか選ぶ時は、同行者と「私は〇〇派」という話題で盛り上がることも珍しくない。

 漫画『ファミレス行こ。』(和山やま/KADOKAWA)は綾野剛主演で実写映画にもなった『カラオケ行こ!』(同上)の続編である。タイトルの「行こ!」が「行こ。」になり、内容もより脱力感のある笑いに満ちた内容になった。前作で中学3年生の合唱部部長だった少年、岡聡実は大学生になり、ファミレスでアルバイトを始める。なお、『カラオケ行こ!』はカラオケ大会のために聡美がヤクザの成田狂児に歌の指導をするという内容だったが、聡実が高校3年生のときに再会した後もふたりの奇妙な縁は続いていて、メッセージでやりとりをしたり、たまにお茶をしたりしている。

 本作には新キャラも登場する。聡実がアルバイトをしているファミレスの常連で、店員からも「カタギじゃない」と思われている男性二人組や、ヤクザが関係するスナックの新人である宇佐純子がそうだ。上巻では男性二人組の正体と狂児との意外な関係が発覚する。劇的な展開とはうらはらに、和山やま作品らしく、物語の中で時はゆっくりと流れていてシュールな笑いにも満ちている。やがて聡実と狂児の関係にも変化が訪れる。聡実がある決意を胸に宿して「プレゼントがあんねん」と狂児に言う。どうやらこのプレゼントが、今後の展開のカギを握っているようなのだ。

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 おそらく聡実自身も疑問を抱いていると思うが、聡実と狂児の関係に名前をつけるとしたら何なのだろう。ヤクザの男と、彼より25歳年下の大学生。聡実はヤクザではないので兄貴分、弟分と呼ぶのも違和感があるし、だからといって相手を利用する目的で会っているわけではない。この関係に無理やり名前をつけるなら、クエスチョンマークのついた「友情?」だ。この「友情?」は現実の世界はもちろん、ほかのエンターテインメント作品でも例を見ない不思議なものである。

 上巻で注目してほしいポイントがある。聡実が『カラオケ行こ!』のころから変わらず、自分の感情を言語化するのが苦手な人物だということだ。彼は頭の中では、ヤクザの狂児ともう会わないほうがいいとわかっている。一方、感情面ではどうなのか。上巻の終盤、聡実は思いがけない行動をとる。彼は言葉ではなく、行動で感情を噴出させるタイプなのではないかと私は推察している。つまりこの行動が聡実の本心なのだ。

「このふたりには、ずっと大した用もないのに会い続けて、ファミレスとかでとりとめのない話をしていてほしいなあ……」

 さて、私を含めた読者の多くが抱いている、この願いが叶うか否か。下巻の発売が今から待ち遠しい。

文=若林理央