サウナで田中圭の尻を林遣都が叩くシーンはアドリブ!? 劇場版「おっさんずラブ」を見る前に読んでおきたいシナリオブック

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更新日:2024/3/1

劇場版 おっさんずラブ~LOVE or DEADシナリオブック
劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ シナリオブック』(徳尾浩司/一迅社)

 1990年代後半のドラマが好きだった。残酷な描写、エロティックな表現、そしてそこに潜む高いエンターテインメント性。何度も振り返っては思春期の衝撃を思い出す。その衝撃を超えるドラマは、二度と現れない。その思い込みは、2018年放送の連続ドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日)との出会いによってひっくり返された。いまや「いちばん好きなドラマは?」と聞かれれば「おっさんずラブ」と答える。実は私はボーイズラブにほとんど親しんだことのない。それなのに、このドラマだけは例外だった。

 2018年の連続ドラマのあらすじを簡単に説明したい。異性愛者であった春田創一(田中圭)が、突如として上司の黒澤部長(吉田鋼太郎)や会社の後輩である牧凌太(林遣都)にモテ始め、真実の愛に目覚めていく恋愛×コメディドラマだった。怒涛の展開に笑い、涙した多くの視聴者によって大ヒットドラマとなり、翌2019年、映画化に至る。その後、設定を変えてパラレルワールドの世界を描いた「おっさんずラブ-in the sky-」や香港でのリメイクで、「おっさんずラブ」は国内外で愛されるようになる。そして今年(2024年)1月、再び連続ドラマ「おっさんずラブ-リターンズ-」が幕を開けた。

「おっさんずラブ」には大きな特徴がある。田中圭、吉田鋼太郎、林遣都といった演技派の俳優陣が、シナリオにはないアドリブを繰り出して、時にそれがそのまま放送されることだ。連ドラも劇場版も春田をはさんで黒澤と牧が取っ組み合いのケンカをするシーンがあるのだが、主演の田中圭(春田)によると、ケンカシーンはアドリブが多いという。1959年生まれの吉田鋼太郎と1990年生まれの林遣都は、黒澤と牧として真剣に取っ組み合いのケンカをするのだ。こうしておっさんずラバーになった私は、「おっさんずラブ」のどのセリフや行動がアドリブなのか探し始めることになる。特に劇場版は、今放送中の「おっさんずラブ-リターンズ-」の前日譚だ。私はさっそく『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ シナリオブック』(徳尾浩司/一迅社)のページをめくった。

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 劇場版の見どころは、劇場版のオリジナルキャラである新入社員のジャスティス(志尊淳)と、牧の上司の狸穴(沢村一樹)が春田、黒澤、牧の三角関係をかき乱すシーンがあることだ。特にこの5人がサウナで鉢合わせをして、乱闘をするシーンは「おっさんずラブ」の面白さを前面に押し出したシーンだった。このサウナのシーンから、アドリブとカットされたセリフを見てみたい。劇場版で、黒澤は記憶喪失になってしまい春田に片思いをしていた過去をすべて忘れてしまう。それなのに再び春田に恋をするのだ。サウナで黒澤が春田に告白しているのを見てしまった牧は、黒澤は春田のことを諦めていなかったのかと誤解して再び険悪になり、狸穴やジャスティスもサウナに入ってきて、怒鳴り合うのはもちろん、サウナに置いてある冷水をかけるなど、容赦のない乱闘が繰り広げられる。

 シナリオブックに書かれていない行動で大きいのは、黒澤がいきなり水をすくう柄杓を持って背後から牧の頭をぽかんと叩くシーンだろう。牧扮する林遣都の反応を見て「なんだか驚いているし痛そうだな」と感じたのだが、アドリブなので当然である。そして牧も負けていない。狸穴と牧の仲の良さに嫉妬した春田が後ろを向いた瞬間、牧は春田の尻を手で叩く。これもシナリオブックには書かれていない。なお、カットされた箇所もある。黒澤と牧の争いが予想以上につい白熱してしまったせいか、シナリオブックにある狸穴が牧の長所について話すくだりはなくなっている。

「おっさんずラブ」のシナリオからアドリブの部分を探していると時間が一日では終わらないくらいなのだが、このシナリオブックの魅力はそれだけではない。放送されていないスピンオフや未公開ストーリーも掲載されているのだ。たとえばスピンオフは春田たちが務める不動産営業所の紹介ビデオを撮ることになったという設定で、メインキャラクターが続々と登場して全員の個性がはっきりとわかる内容である。どちらも読むと「おっさんずラブ-リターンズ-」がよりいっそう面白くなるのは間違いない。そして制作陣や主演の田中圭のインタビューや対談は、今後の展開を考察するために見逃せないだろう。中でも、監督の瑠東東一郎が春田と牧の関係に「儚さ」があると述べている部分は、現在放送中の「おっさんずラブ-リターンズ-」の展開にも表れてくるのではないだろうか。

 振り返る、アドリブを楽しむ、シナリオブックでしかわからない部分を読む……既に「おっさんずラブ」が好きな人も、これから見ようとしている人も、「おっさんずラブ-リターンズ-」が最終回を迎える前にぜひ読んでほしい。

文=若林理央