2024年2月2日に劇場中編アニメーション公開の『大室家』。「コミック百合姫」で15年以上連載中の『ゆるゆり』のスピンオフにほのぼの…

マンガ

PR 公開日:2024/2/2

大室家
大室家』(著:なもり)

 一迅社の百合ジャンル専門誌「コミック百合姫」で15年以上の長きにわたって連載中の看板作品、TVアニメなどの各種メディア展開でもよく知られている『ゆるゆり』(著:なもり)。『大室家』(著:なもり)はそのスピンオフ作品で、こちらも2012年にニコニコ静画で連載がスタートしてから10年以上続く人気作だ。こう説明してしまうと、『ゆるゆり』未見の読者にはハードルが高そうに感じられてしまうかもしれない。たしかに『ゆるゆり』の知識があった方がより楽しめるのは間違いない。しかし、本作は独特な多層構造を持った、個性的な「百合」作品として単独でも楽しめるものだ。

 作品の中心となるのは、タイトルにもなっている大室家の三姉妹、上から順に長女で高校生の撫子、次女で中学生の櫻子、三女で小学生の花子。

大室家1
©なもり/一迅社

『大室家』を試し読み

advertisement

 櫻子は『ゆるゆり』本編でも、ぶっ飛んだ言動で周囲を振り回す主要キャラクターのひとりであり、幼なじみのツンデレ少女・古谷向日葵との名コンビ(「さくひま」もしくは「ひまさく」)で大活躍している。ちなみに向日葵とその年の離れた幼い妹の楓は『大室家』にもそこそこの頻度で登場しており、櫻子と向日葵はこっちでもやっぱり仲良くケンカしているので、もし、万が一、『ゆるゆり』ファンでこちらをノーチェックな人がいたら、今すぐ安心して手を伸ばしてほしい。飛ぶぞ。さくひま最高!!

大室家2
©なもり/一迅社

 ……取り乱しました(好きなので)。家庭内でも櫻子は、やはり天真爛漫なトラブルメーカー。姉の撫子はクール系、妹の花子は純真無垢とタイプの違いはあれども、どちらも櫻子とは似ても似つかぬしっかり者だ。ゆえに櫻子の突拍子もない行動にふたりが振り回されることが多く、ケンカになることもしばしば。だけれども、基本的にはお互いのことを大切に思い合っている、仲良しな三姉妹である。そんな三人の繰り広げる、笑いと優しい感情に満ちた何気ない日常のやりとりが作品の何よりの魅力であることは間違いない。

 しかし、そうした大室家の風景をたしかな土台としながら、複線的に展開する物語も魅力的なのだ。花子と同級生である小川こころ、相馬未来、高崎みさきが繰り広げる、まだ幼い小学生ならではのほのぼのとしたやりとり。そして、撫子が高校で展開する、穏やかな中にもどこか秘密を感じさせる人間関係……。

 撫子には親しくしている三人の同級生がいる。朗らかでいじられキャラの園川めぐみ。見た目は小動物的な愛らしさだが、性格はドSな八重野美穂。おっとりとして優しい三輪藍。そこにクールな撫子を交えた四人組は、性格も趣味もバラバラだけど、だからこそバランスのとれた四角形を築いているようで、一見、何も問題を感じさせない。しかし、明言はされていないものの、この三人の中に撫子と「友達以上」の相手がいるようで、ときおり何気ないやりとりの中に緊張感が漂う……。

大室家3
©なもり/一迅社

 おそらくこの謎は、連載が終わるまで……いや、もしかしたら、終わるときにも明かされることはないのかもしれない。『大室家』は原典にあたる『ゆるゆり』同様、いわゆる「日常系」と呼ばれる作品ではある。しかし、撫子を中心とする高校生たちのやりとりには、ピリッとスパイシーな味わいがほのかに、わかる人にだけはわかるように隠されている。

 家庭内のほっこりと平穏な日常、小学生ならではの愛らしいやりとり、そして高校生たちのほんのりビターなテイスト……食感の違う層が織りなす、上質なミルフィーユの味わい。『ゆるゆり』本編に接したことがない人も、その独特な「百合」作品としての感触を楽しめるはず。もちろん、そこに『ゆるゆり』という中学生のわちゃわちゃした層を加えればますます味わい深くなる。しかしまずはとにかく、難しいことを考えすぎず、なもりの作り上げる豊穣な世界を一口味わってみてほしい。なお、『大室家』は全2作での劇場中編アニメーション化が決定しており、1作目が年明け早々、2024年2月2日から劇場公開される。そちらをファーストバイトにするのも、選択肢としてありだろう。私も楽しみです。さくひま最高!(2回目)

文=前田久(前Q)