冷蔵庫から異臭が漂い、部屋はゴミだらけ。“健康以下、介護未満”の親との付き合い方をコミカルに描いた笑って泣けるトリセツ
公開日:2024/2/12
親の老いほど、理解しがたいものはない。自分を教え導き、ここまで育ててくれた親は、当然、元気ハツラツなおじいさん・おばあさんになるものだと誰もが思い込んでいるだろう。それに、親だって「子どもの世話にならない」つもりでいるはず。だが、それは突然やってくる。親から何度も同じ話を聞かされたり、実家にゴミが溜まっていくのを目の当たりにしたり……。年老いた親とどう向き合えばいいのか、悩まされている人は決して少なくないだろう。
親の介護が始まりそうな人はもちろんのこと、「ウチの親は大丈夫」と思っている人にも、読んでほしい本がある。それは、『健康以下、介護未満 親のトリセツ』(カータン/KADOKAWA)。体に不自由が出てきたけど、ガッツリ介護が必要というレベルではない。そんな“健康以下、介護未満”な親との付き合い方を描いたコミックエッセイだ。著者は、元CAのカリスマ主婦ブロガー・カータン。50代になったカータンと、高齢の両親の奮闘の日々は、笑いあり、涙あり。抱腹絶倒のエピソード満載なのだが、決して他人事ではない。「明日は我が身」と思わずにはいられないのだ。
カータンの両親の変化は、4年前、父親が79歳の時に、突然目が見えなくなったことから始まった。目が見えない苛立ちをぶつけられた母親は、少しずつ追い詰められ、情緒不安定になり、金銭感覚は麻痺。実家の冷蔵庫には異臭が立ち込め、部屋にはゴミが溜まるようになっていく。カータンは頼りになる姉ともに、この事態を乗り切ろうとするが、断捨離をしようにも、ヘルパーさんを派遣しようにも、母親と衝突してしまうし、父親は幻覚が見えるようになるし、頭を抱えるような出来事が頻発していく。
いつまでも子ども扱いしてきたり、具合が悪くても、孫の顔を見せれば途端に元気がよくなったり、要介護認定調査の日だけやたら張り切ってしまったり、どう考えても放ってはおけない状態なのに「あなたたちに面倒はかけないから、もう放っておいて」なんて言ってきたり。そんな高齢の親の姿は「あるある」満載。すでに親の老いに悩んでいる人は「ウチと同じだ」と共感させられるだろうし、まだ経験がない人も「何だか同じことが起きそうな気がする」と身につまされるだろう。だが、ともすれば、暗くなってしまうエピソードを、カータンはユーモアたっぷりに描き出していく。父親の下半身の着替えの手伝いを「ルーツを知る旅」なんて呼ぶし、母親と「生きてる?」と挨拶し合うし……。「介護には、こういうユーモアが必要なのかも」とハッと気付かされる。
それに、カータンが一人ではなく、姉とともに、親と向き合う姿を見るにつれ、介護は、自分の気持ちを共有できる相手と協力することが大切だということも実感させられる。自分の気持ちを明るく保たなければ、親にとってもよくない影響が及ぶ。だが、世話する側にも生活があるから、ときに余裕がなくなってしまうことだってある。だからこそ、愚痴を言い合える“戦友”のような存在が重要なのだ。また、プロの力を借りるのも大切だ。本書では、介護認定からデイサービス利用までの流れも描かれている上、巻末には認定介護福祉士・松川春代さんとカータンとの対談も掲載されている。実体験に加えて、プロの具体的なアドバイスもあるから、「自分の家の場合はどうすればいいのか」考えるキッカケになるだろう。
思わず笑っちゃうけど、不思議とジーンときちゃう、そして、ためにもなる。カータンがユーモアたっぷりに描く、高齢の両親との日常。あなたも、この本をもとに、これからの親との向き合い方をじっくり考えてみませんか。
文=アサトーミナミ