岡田将生×羽村仁成で映画化「ゴールド・ボーイ」の原作ってどんな話? 中国版・東野圭吾と評される中国人作家のノワール小説
公開日:2024/3/8
※この記事は2月8日に公開した記事を編集して再配信しています。
罪と罰、は文学で描かれる普遍的なテーマの一つ。小説ではどうしたって主人公に感情移入してしまうから、どれほど犯した罪が重くても、その裏側に隠された事情を知れば庇いたくなるし、できることなら逃げおおせてほしいとすら思ってしまう。相手が子どもであれば、なおさらだ。中国の東野圭吾とも評されるという紫金陳の小説『悪童たち(ハヤカワ・ミステリ文庫)』(稲村文吾:訳、早川書房)は、生まれる環境を選ぶことができず、苦境に追い込まれたがために罪を重ねる少年少女たちの姿を描いたノワール小説である。
発端は、張東昇(ジャン・ドンション)という男が妻の両親を登山に連れ出し、事故に見せかけて殺したこと。目撃者のいない完全犯罪だったはずが、たまたま山に遊びに来ていた三人の子どもたちが、偶然ビデオにその瞬間をおさめてしまう。だが子どもたちは、真実を警察には告げず、東昇を脅す。なぜなら子どもたちのほうにも、決して警察に知られてはならない秘密があったから。
子どもの一人、朱朝陽(ジュー・チャオヤン)は成績優秀の中学2年生。学校ではいじめに遭うし、先生には理不尽な疑いをかけられ、浮気して出て行った父は新しい妻の言いなりで、ろくな養育費も渡そうとしない。不遇と屈辱に耐えながら日々を生きる彼のもとに、ある日現れたのが、幼なじみの丁浩(ディン・ハオ)だ。両親が殺人を犯したせいで孤児院に入れられた彼は、そこでの暮らしに耐えられず、似た境遇の妹分・普普(プープー)とともに脱走してきたのだ。
かつての友達とはいえ最初は丁浩たちに警戒していた朝陽だが、仲間のいる日々はあまりに楽しく、母親が仕事で長期不在なのをいいことに、しばらくのあいだ二人を匿うことを決める。東昇を脅したのは、警察に行けば、丁浩たちは孤児院に連れ戻されてひどい目に遭わされるから。かわりに金を脅し取ることで、二人の逃走資金にしようと計画したのだ。
ここまでなら、少なくとも朝陽に罪はない。だが、子どもとは思えぬ深謀遠慮で東昇と駆け引きする姿を楽しんでいるうち、思いがけない事件が起きて、朝陽もまた追われる側になってしまう。気弱でまじめな朝陽が、みずからの心の闇に直面したとき、事態は思いもよらぬ方向に転がりはじめる。自分と仲間を守るため、朝陽は殺意を秘めた東昇を相手に、頭脳を駆使した熾烈な攻防戦を繰り広げるのだが……。
本作は『バッド・キッズ 隠秘之罪』というタイトルでドラマ化され、配信後わずか2カ月で総再生数10億回を突破。「山に登りに行きませんか」が「お前を殺してやろうか」の隠語として流行するなど、社会現象を巻き起こしたという。ドラマは見ていないが、気持ちはわかる。訳文の美しさもあるだろうが、息つく暇もなく展開していく怒涛の犯罪劇に、上下巻にもかかわらず一気読みしてしまうおもしろさだった。かつ、三人が罪を犯すほどに追いつめられた原因が周囲の大人たちにあると思うと、最後までどうしても、責めきれない自分もいる。それはつまり、自分の中にも、状況さえ変われば罪を犯しかねない芽があるということだ。ラストですべての罪が暴かれたとき、何を思うか。それは私たちが罪にどう向き合うかでもあるかもしれない。
なお、本書は『ゴールド・ボーイ』と題して2024年3月8日から映画公開されている。岡田将生や羽村仁成が出演するなど、注目が集まっている。
文=立花もも