【カクヨムWeb小説コンテスト「ホラー部門」大賞受賞作】頭の中にこびりついて離れない! 不思議な存在「ナイナイ」のかわいさが徐々に恐怖に変わっていく現代ホラー

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/30

みんなこわい話が大すき
みんなこわい話が大すき』(尾八原ジュージ/KADOKAWA)

 “こわい”ってなんだろう。

 急に大きな音が鳴る、熊や蛇などに遭遇する、といった本能的なもの。幸せな日常が徐々に壊れる、頭がどんどんおかしくなる、といった心理的なもの。考えてみると、“こわい”にはいろいろな種類がある。だが、読後に頭の中に住み着いたまま離れないような恐怖は初めてだった。

みんなこわい話が大すき』(尾八原ジュージ/KADOKAWA)は、第8回カクヨムWeb小説コンテストの「ホラー部門」で大賞を受賞した作品だ。主人公のひかり(小学生)は、こわい話を「きらい」と言ったことでいじめられてしまう。そのことを誰にも相談できず、家の押し入れにいる謎の存在「ナイナイ」に話したことで…といった形で物語は進む。

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 幽霊なのか妖怪なのか、はたまた妖精なのか。正体不明のナイナイは、ひかりのことが大好きで、ひかりととても仲の良い純粋でかわいい存在だ。いじめられているひかりの話も優しく受け止めてくれる。だが、別の視点からナイナイを見るとその印象は少し変わり、その小さなズレが恐怖を生む。人怖と幽霊モノが混ざりあったような作品で、主人公をはじめとした多数の登場人物の視点から、ナイナイの正体が明かされていく。

 物語は大きく分けて6つの視点で展開される。スポット的に他キャラクターの視点が描かれることもあり、一読するだけで多面的に楽しめるのも特徴的だ。もちろん、視点がコロコロ変わるというよりは「必要に応じて変わる」という印象で、物語を見失うこともない。むしろ視点の切り替わりによってどんどん先を読みたくなり、「あの時アレがあったからこの人はこう言っているのか!」という繋がりが次々と見えてくる。

 視点変更にあわせて恐怖の対象も変わるのは、特筆すべき点だろう。「いじめ」という、最初はマイナスの印象を持つ恐怖だったものが、「いじめられなくなる」というプラスの印象に変わったことでさらなる恐怖を生むという仕掛け。視点が変わるたびにこういった違和感が重なり、じわじわと背筋が凍っていく感覚を覚える。瞬間的な怖さではなく静かな怖さがずっと続き、それがいつの間にか増幅していくのだ。昨今の日本が舞台で扱われるテーマも身近なものなので、とても現代的な恐怖だと思う。

 本作はWebで連載されていた作品ということもあって文体は軽めで読みやすい。ホラーといっても古風でも重厚でもなく、非常にとっつきやすいのだ。ホラーというジャンルに馴染みのない人にこそおすすめしたい。「物事の見え方や視点を少しずつズラし続けることで、当たり前のことがじんわりとした嫌悪感をまとう」という、頭の中にずっと残って離れない新たな恐怖を味わえる。また、その恐怖の先にあるラストもぜひ体験してほしい。

 気づけば、世界一かわいくて愛らしいナイナイの織りなす恐怖が頭の中をぐちゃぐちゃにし、こびりついて離れない。この作品を読まないという選択肢はナイナイ。

文=河村六四