女子高生とツンデレマダムの友情に癒される『おかしの家のマダムさん』著者インタビュー【今月のバズったマンガ】
公開日:2024/1/30
今どき面白いマンガはSNSにあり! ということで、本連載ではSNSで話題になった面白いマンガをピックアップし紹介していきます。
提供:Minto編集部
美味しいお菓子と女性たちの絆で、読む人を心からほっこりさせる漫画がある。2023年8月からSouffle(スーフル)で連載がスタートした『おかしの家のマダムさん』。引っ込み思案な女子高校生・萌がバイト募集を通して、駄菓子屋さんのマダム・ひよりさんと出会う物語だ。
謎めいた美魔女のひよりさんは、ひとりで駄菓子屋を営んでいた。一般的な「駄菓子屋のおばちゃん」のイメージとはかけ離れたひよりさんに萌はたじろぐものの、得意のお菓子作りをきっかけにふたりは交流を深めていく。普通に暮らしていれば出会うことのなかったふたりが今後どう変わっていくのか、人と人の巡り合わせにワクワクするストーリーになっている。
作者は『コンプレックスをほどよい距離から見つめてみた』や『自分サイズでいこう』など、コンプレックスをテーマにしたエッセイ漫画本を上梓しているharaさん。創作漫画の連載は本作が初めてだという。作品に込めた想いや、物語が生まれたきっかけについて、作者のharaさんと担当編集のOさんに伺った。
接点のないふたりが一緒にやってワクワクすることは?
──『おかしの家のマダムさん』を描くにあたって、物語のアイデアが生まれたきっかけはなんですか?
haraさん(以降、hara):創作漫画として面白いコンビを描きたくて、色々スケッチしていたんです。その中で主人公の萌ちゃんとひよりさんが生まれて、「このふたりが一緒に何かをする話にしたいな」と思ったのが始まりです。
萌ちゃんがひよりさんのお店にバイトに行く、というお話のイメージはあったので、何のお店にするかは担当編集のOさんと相談しました。そこで「駄菓子屋さんからひよりさんみたいなかっこいい女の人が出てきたら面白いかも」という話になりました。
編集・Oさん(以降、編集O):メッセージでharaさんから萌ちゃんとひよりさんのキャラデザが送られてきて「え、これめっちゃ良いじゃないですか!」とすぐに返信しました。そのときからキャラクターは完成されていて、ほとんど変わってないですね。
──スケッチから物語が生まれたんですね。ふたりの組み合わせが魅力的ですが、キャラクター作りはどんなことを工夫されていますか?
hara:どんな話をしているのか、会話を覗き見したくなるようなキャラにしたいなと思っています。ひよりさんと萌ちゃんの会話はもちろん、そのふたり以外に新キャラが入ってきたときも会話が楽しくなるようなキャラがいいなと。どんな掛け合いをしたら楽しいかを妄想して、面白いかもと思った要素をちょこちょこ入れてみたりしています。
──Oさんからキャラクターやストーリーについては、どんなアドバイスをされたんですか?
編集O:キャラクターはデザインの時点で完成されていたので、もう言うことはなかったですね。一見接点がないふたりなので、共通する悩みや、ふたりが一緒にやってワクワクすることはなんだろう?ってharaさんと話していました。漫画は正反対のふたりが持つそれぞれの悩みが交差するところに、面白さが生まれると思っているので。
見た目もかわいいお菓子のレシピが登場!
──ストーリーの中でミートソースパンケーキやフルーツサンドなど、美味しそうなお菓子のレシピが登場します。レシピはどのように考えているのでしょうか?
hara:レシピは最後に考えていますね。ストーリーやキャラの会話などを決めた後に、「じゃあ、そこに一番合うレシピは何かな?」という感じで。ミートソースパンケーキは、その回にキッチンが出ることが決まった後に、じゃあ、そこにあるオーブンで簡単に作れて、駄菓子に関係するものは?って連想して思いついたんです。
私も実際に作ってみたんですが、あんまり甘さが目立たなくて、ミートソースやチーズともけっこう合うんですよね。普段は料理をしないほうなので、この漫画を描き始めて「萌ちゃんすごい。私も自炊しようかな」と思っています。
──出てくるお菓子が作品の世界観に合っていて、いつも美味しそうです。haraさんのお気に入りのシーンはどこですか?
hara:1話に萌ちゃんが自虐で「私こんなぽっちゃりしているんで」ってほっぺをつねったときに、ひよりさんがその指をどけてくれるシーンがあるんです。ひよりさんは一見クールで、他人に関心なさそうだけど、初対面の人に優しく、ちょっと大胆な行動をしてくれるところが魅力的だなと。ふたりのやり取りを考えるのは楽しいですし、出会いのきっかけになったシーンだからお気に入りですね。
──Oさんから見て好きなシーンはありますか?
編集O:私は3話のキッチンのシーンです。萌ちゃんが料理しているときに、隣でひよりさんが見ているっていう後ろ姿のコマがあるんですけど、「ふたりの居場所なんだな」って感じられるシーンで好きですね。
コンプレックスに向き合いながら、三歩進んで二歩下がる
──haraさんは自身のコンプレックスと向き合うエッセイ漫画も描かれていますよね。萌ちゃんは自分を「ぽっちゃり」だと思っていますが、コンプレックスがある主人公にした理由はあるのでしょうか?
hara:特に意識していなかったんですが、コンプレックスは誰しも少なからず持っているものなので、自然と思いついた部分なのかなと。例えば自信満々のキャラを描こうとしても、どこかで悩みやコンプレックスを持たせてしまうような気がします。私にとって、切っても切れない要素なのかもしれません。
──今後、コンプレックスを解消していくようなストーリーになるのでしょうか。
hara:コンプレックスについては色々距離を測っていきながら、探ったり、歩んだりしていく感じかなと、今のところはイメージしています。私の今までのエッセイでも「コンプレックスはすぐ解決しなくてもいい」って描いてきたので、ちょっと煮詰めてみたり、観察したり距離をとってもいいと思っています。
──その優しい姿勢は作品からもすごく感じます。作品の雰囲気もとても温かいですが、漫画を描く上で気をつけていることはなんですか?
hara:のんびり、ゆったり読んでいただけるような雰囲気が作れたらなと思っています。今まで描いたエッセイも、読んでくださった方に「コンプレックスに向き合いながら、三歩進んで二歩下がってる感じがすごくいい」って言われて。自分では意識していなかったんですけど、確かに、ウダウダしたり、ぐるぐる悩んだり、ため息ついたりしているなと(笑)
でも、コンプレックスってすぐになぎ払った方がいいものでもなくて、じっくり向き合ってもいいものだなあと思っているんです。そういう描き方が自分の漫画のいいところなんだとしたら、今描いているものにも生かしていきたいです。
「あなたにもこれが正解だよ」って押し付けをしたくない
──最後にharaさん自身のお話もお伺いしたいです。漫画を描き始めるきっかけを教えてください。
hara:幼いときから漫画家になりたかったので、何かを作るときに漫画にするという手段を昔から取っていました。自分のことを描く発想はなかったんですが、自分の体形が嫌になったりそれを克服したりしたときに、経験を伝える表現方法としてエッセイ漫画がいいなと思ったのがきっかけでした。
最初はエッセイを描くつもりがなかったので、プラスサイズの女の子のイラストだけを2~3年くらい描いていたんですけど、それだけじゃ伝わらないことがいっぱいあるなと。最後の手段みたいな気持ちでエッセイを描いたんですが、色んな方に読んでいただけてすごくありがたいですね。
──エッセイ漫画を描くうえで意識していることはなんですか?
hara:エッセイはどうしても自分が試行した内容やその結果をストレートに描くことになるのですが、「あなたにもこれが正解だよ」って押し付けにならないように気をつけていますね。あくまで私にとっての結果なので、「こんな人もいるよ」みたいな距離感を意識しています。
──今後、漫画家としてチャレンジしたいことを教えてください。
hara:創作だとお仕事漫画を読むのが好きなので、いつか描いてみたいです。キャラクターが自分の知らない世界に触れて、価値観が変わったりする瞬間を描き、それがエンパワーメントにつながるようなお話が作れたらいいなと。
エッセイもまた何か描きたいですね。いろんなジャンルがあったほうが、疲れているときにも手にとっていただきやすいと思いますし、色んなアプローチで「読んでたら悩みを忘れられたなあ」と思っていただけるものを描けたらと思っています。
文=Minto編集部 石島英里
hara
イラストレーター・漫画家。
中学生の頃のダイエットをきっかけに摂食障害を患うが、社会人の頃に「プラスサイズファッション」「ボディポジティブ」などの考え方を通じ徐々に回復。
現在はイラストや、自身の体験をもとにエッセイ漫画などを制作している。
著書に『コンプレックスをほどよい距離から見つめてみた』(秋田書店)、『自分サイズでいこう』(KADOKAWA)。
X:@hara_atsume