絵本『おまえうまそうだな』&最新刊をプラネタリウムで読み聞かせ!作者・宮西達也に子ども達から質問が続々【イベントレポート】
PR 公開日:2024/1/26
大きくて強い存在のティラノサウルスが、赤ちゃんや子どもの恐竜と交流するなかで大切なことに気づいていく——。ポプラ社の絵本“ティラノサウルスシリーズ”が20周年を迎え、コスモプラネタリウム渋谷で『やさしい星空読み聞かせ会』が開催されました。恐竜たちが住む世界がプラネタリウムに映し出され、その中に絵本のページが投影されるという仕掛けです。
投影された絵本は、20年前に刊行されたシリーズ第1巻『おまえうまそうだな』と、その続編となる最新刊『おまえうまそうだな さよならウマソウ』の2冊。20年前に離ればなれになっていたティラノサウルスと“ウマソウ”ことアンキロサウルスが、この日、満天の星のもとで再会するのです。小さな子どもから制服を着た10代までの子と保護者40組が招待され、作者の宮西達也先生と、日本テレビの元アナウンサーで絵本専門士の杉上佐智枝さんが読み聞かせをしました。
1冊目『おまえうまそうだな』の読み手は宮西先生。タイトルを読み上げたあと、「作者……ボク。そう、ここ笑うとこだよ」と冗談たっぷりに子どもたちとの交流を楽しんでいました。物語は、山が噴火して卵から小さなアンキロサウルスが生まれたところからスタートします。ティラノサウルスが父親だと勘違いし、自分の名前が「ウマソウ」だと思い込むウマソウ…。ティラノサウルスが初めて登場した時の「ガォー!」という声は迫力満点で、思わずビクッと肩を上げて驚く子どもも。ウマソウがティラノサウルスを間違えて「おとうさん」と呼び、「ぼくのなまえ、ウマソウなんでしょ」と投げかける場面では笑いが湧き起こっていました。
ムシャムシャと草を食べるウマソウから「いっぱいたべて、はやくおとうさんみたいになりたい」と言われ、今まで抱いたことがないような気持ちになった様子のティラノサウルス…。プラネタリウムでの読み聞かせという非日常に、子どもたちはどんどん引き込まれていく様子でした。岡本学志さんのソロギターの心地よい生演奏が、ティラノサウルスとウマソウの心の動きを表すように、和やかな場面では穏やかに、悲しいシーンでは切なく響き、没入感をさらに深めてくれます。
宮西先生の質問コーナーでは、事前にアンケートで集まった質問を読み上げる予定でしたが、子どもたちから元気よく手が挙がったため、その場で質問を受けるコーナーに急遽変更。宮西先生が自ら挙手する子どもたちを当て、近くでお話をすることに。子どもたちからは、シリーズや物語の魅力に迫る核心をついた質問が続々。「どうしてティラノサウルスを絵本にしたの?」という質問では、宮西先生が「絵本が売れ始めて少し生活が楽になった頃、自分自身の中身はなにも変わっていないのに、まわりの人が「お金があってなんでも買えてすごいね」と言うのを聞いて、そうじゃないと思った。お金を持っていることがすごいことなんだろうか。力が強いことがすごいことなんだろうか――それをテーマで絵本を描こうと思った時、お金や権力の象徴として考えたのがティラノサウルス。生まれたばかりで無邪気な心しか持っていないウマソウと、どっちがすてきなのかな?」と子どもたちに問いかけます。
恐竜にまつわる質問も多数。たとえば、このシリーズに登場するティラノサウルスはみんな違うティラノサウルスで、『おまえうまそうだな』の2冊だけが同じなのだそう。宮西先生は、キランタイサウルスのようなめずらしい恐竜を探して登場させるのも好きで、すべて白亜紀後期の恐竜を選ぶという時代考証もしているといいます。一番好きな恐竜はアンキロサウルスで、ウマソウをデフォルメするのが楽しかったとか。ちなみに、恐竜や背景などに使われているインクは、なんと4色のみ。「特別なオレンジと水色と黄色と黒。オレンジと水色を混ぜるとティラノサウルスの色になる。線を描く時には150円で売っている筆の先をちょいっと切ると、いい線が出るんだ」と宮西先生が伝えると、驚きの声が上がっていました。
新刊への想いを聞く質問でも、宮西先生の言葉があふれ出しました。「20年前の1巻で、ティラノはお別れはつらいけどウマソウのことを考えて本当のお父さんとお母さんの元へ返しました。ウマソウは20年間どう思って生きてきたと思う? 大人になってお父さんの気持ちがわかってきたかもしれない。ティラノはウマソウのこと忘れちゃった? それとも会いたかった? そんなことを思いながら2作目を聞いてみてください。ぼくはたぶん泣くと思いますよ…」。「ごめんね、ひとりでは泣いて読めなくなるから…」ということで、2作目は杉上さんと2人での読み聞かせです。
最新刊『おまえうまそうだな さよならウマソウ』は、1巻で離ればなれになったティラノサウルスがおじいちゃん恐竜となり、2頭の子どもを連れたウマソウと再会するお話。物語の前半、ケツァルコアトルスに襲われそうになるのを助けてくれたアンキロサウルスがウマソウであることに、ティラノサウルスは気づいていません。けれども、“さよなら”の時はどんどん近づいてきます。お話の後半になると、ティラノサウルスのセリフを読む宮西先生の声がすこし震えているようで…。その声が、弱々しくも勇敢にウマソウを助けようとするティラノサウルスと重なって臨場感たっぷり。そして、感動のラストへ…。客席からも鼻をすする音が聞こえてきました。
プラネタリウムの星空に溶け込むように、恐竜たちが住む世界で無数に輝く幻想的な星々。宮西先生は、北海道の真っ暗な大地で満天の星に感動した時から、このような星空を描くようになったといいます。20年前と同様に美しく輝く星空が、ティラノサウルスとウマソウの別れを静かに見守っていました。「想いを込めて読むとどうしてもティラノサウルスやウマソウの想いが胸に迫ってきて、泣けてきてしまいます……。これを描くのに20年間かかりました。1巻と16巻はワンペア。これからは2冊一緒に読んであげてください。ウマソウのお話は完結しましたが、また優しさや思いやりの「ティラノサウルスシリーズ」を描きますので楽しみにしてくださいね」と宮西先生。
そんな先生のお話を覚えていたのか、取材に同行した小学1年の息子は、今でもこの絵本を2冊一緒に読みたがります。そして「『さよならウマソウ』は『おまえうまそうだな』の続きだから」と得意げに言い、「一緒に読んで比べたいし、一緒に読むと(話が)長くなって面白いよ」とすすめてくれます。最後まで読み終わると、「あ~、涙出たよ。あくび出てないのに」と抱きついてきて、「ティラノは、どうせ“さよなら”をするならウマソウを助けたかったんだよ」とティラノサウルスの気持ちを想像しながら自分なりの解釈を聞かせてくれました。
星空読み聞かせ会の感想は「テレビみたいだった」というシンプルなものでしたが、帰り道では久しぶりに恐竜熱に火がついたようで「ガオー!」とティラノの真似をしっぱなし。20年後…とは言いませんが、いつかまた、幻想的な星空のもとで切ない親子のお話を聞いたあの時間を一緒に思い出すことができたら…と期待しています。
取材・文・写真=吉田あき