SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第31回「お正月」
公開日:2024/1/27
ん、そんなにめでたくなくね?
うん、わかる。わかるんだよ。これは今年も無事に年を越せましたね、よかったね、めでたいね、の意だよね。全然承知の助。でも、あいつに子供が生まれたとか、あの子が大事な試合に勝ったとかそういう温度感で「おめでとう」は言えないよな、って思ってしまうのだ。そこまで大袈裟なことではなくても、あいつの買ったチョコボールの嘴(くちばし)が銀だったとか、あの子が競馬で複勝当てたとかそういう低い温度であったとしても、その「おめでとう」にすら敵わないかもしらん、と感じてしまうのだ。
無事に新年を迎えられたから、という意味合いならば、じゃアそんなもん毎日起き抜けに言った方が良いと思うし、それを要約して新年くらいはってことなら、おい横着すなや、とも思う。いやいやそうではなくて、生まれ変わった年神様に向けているのです、って意味合いなら下界の民が交わし合うのではなくて、ご本人に向けて言わなきゃ全然意味ないじゃんって気もするし。
だから私は、「明けましておめでとう」にきちんと「おめでとう」の気持ちを込めることが出来ないのだ。ちょっと嘘をついている気分になる。会う人会う人にこの言葉を繰り返す度、雨の日のスニーカーの中身みたいに、心地悪さがジワっとくる。毎年私は、また嘘つかにゃならんのかア、と億劫になっていたのだ。
じゃア言わなきゃいいじゃん、という手っ取り早い結論を実践出来る程のストロングメンタルは生憎持ち合わせていないが、まアもし代案を出せというのであれば「明けられましたありがとう」かな。これなら諸々にきちんと筋を通せる、気がする。
そして明ける前の「良いお年を」も、正直ちょっとだけ、ん? なのだ。
「明けましておめでとう」とは違い、意味合いはなんの問題もない。良い年をお迎えくださいという相手に対する願いであるし、一年を総括した上での気持ちの良い思いやりだと全然思える。しかしこの私が薄目でじっと見つめてみれば、「今年のうちは金輪際あなたと会う気がありませんので」という裏テーマがうっすらと見えてしまうんだから敏感に歪んだ感受性って不思議。だからそのあと、うっかり挨拶を交わした相手と再びの遭遇があった場面の「あ」「あ」「また会っちゃいましたね」「そう、っすね、挨拶済ませちゃいましたよね」「じゃア、そしたら今度こそ、ですね」「あはは、おそらく」「ね、仕切り直しというか。二度目ですけど良いお年を」「はい、良いお年を、です」「そしたら、失礼しますぅ」「失礼しますぅ」が、なんかすごい嫌。現場で丁寧な挨拶をした上でお別れした相手と、駅のホームで会っちゃった時の上位互換。


しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中