お笑いコンビ・バッドボーイズ かつてヤンチャだった2人が同日に新刊出版するまで。本とお笑い、Youtubeを語るインタビュー【佐田正樹・大溝清人】

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/29

バッドボーイズ

 高校の同級生かつ暴走族の元総長と連絡隊長によるお笑いコンビ、バッドボーイズ。2000年代半ばにブレイクを果たし、以降テレビや舞台、近年ではYouTubeでも大活躍する彼らだが、この3月22日にそれぞれが書籍を発売する。コンビの両方が書籍を出版するのもあまりないことだが、それが同日発売となると前代未聞。そんな佐田正樹、大溝清人に、書籍発売の経緯、本との出会い、書籍発売への意気込みなどを聞いた。

取材・文=編集部 写真=三宅勝士

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同日発売はガチで偶然

――3月に、佐田さんは5万部を超える大ヒットを記録した『佐田のホビー』の続編『佐田のホビー2』を、清人さんは特殊な家庭環境で育った幼少期を描いたコミックエッセイ『おばあちゃんこ』を発売されると聞きました。コンビの芸人さんがそれぞれの書籍を同日発売されるのは、とても珍しいですよね?

清人:佐田くんが本を出すのもうっすら知っていたくらいですし、編集者も別々です。たまたま、だよね?

佐田:違うやろ。出版社の方が話して発売日が近そうだから合わせましょう、ということになったんやろ。

清人:ガチで偶然だって。吉本のマネジャーが「発売日が一緒やん」って気づいて、だったら協力できるところは協力し合いましょう、ってなったって聞いてるけどなぁ。

――お二人ともはっきりしたことは知らないんですね(笑)。では発売日が一緒と聞いてどう感じましたか?

佐田:そりゃあ、楽しみですよ。清人がXで連載し始めた第1話も見てもいるんで。めちゃくちゃ楽しみにしています。

清人:びっくりしましたし、うらやましいし、めっちゃ憧れます。だって1が売れたから2を出せるんですもんね。僕、『おばあちゃんこ』をシリーズにすることを目指しているんで。僕も2出したいですよ。

佐田:そこに関しては、僕が2を出したいとお願いしたわけじゃないから。僕は拾ってもらっている立場で、「佐田さん、そろそろネタがたまったでしょ」って編集者の方に声をかけてもらってはじめて2を出せるわけだから。それで「はい! ありますよ」って二つ返事で「ありがとうございます。やらせてください」って。

――それぞれどんな内容なんですか?

佐田:車やバイク、D.I.Yといった趣味やライフスタイルを見せていくのは変わらないですが、やっぱり前作を超えなくちゃいけないので、内容も撮影も時間をかけてめちゃくちゃこだわって。もちろん読者の声を聞いて、彼らが見たいものを見せるっていう。

――例えばどんな声があったんですか?

佐田:前回は、意外と僕の歴代免許証が好評だったんですよ。で、「そうなんや、こういうことが響くんだ」と。だから今回は「卒業アルバム」。小学校からの個人写真や全体写真を掲載してます。あと「いつからガンを飛ばしていたんだ?」っていう子供の頃からの「メンチ切りシリーズ」。僕のルーツがより入ってきて、自分で見ていても面白いです。

――より佐田さんご自身が今回出てきている感じですかね。

佐田:そうですね。あとたった2年ですけど進化しているので、そこも見てほしいですね。前作とかぶっているものがなくて、車もバイクも別物になっているんです。「2年間佐田に時間を与えたらこうなりますよ」というのが今回の本ですね。特典のステッカーもペッパークラフトもパワーアップしていて、ほんと自信作です。

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――清人さんはいかがですか?

清人:コミックエッセイになるんですが、僕と目の見えないばあちゃんとばあちゃんの3人の息子たちっていう、ヘンテコの家族がボロ家で暮らした僕の子供の頃の物語です。……もう家族が無力過ぎてですね。ほんと、何もない。お金も何もない家族だったんですが、みんな死に出したんですよ。ばあちゃんも長男のマサおっちゃんも亡くなって、三男ののり兄ちゃんは行方不明で、次男のかーぼも体が悪くて施設に入っていて。残るのは僕だけなんですよね。もう僕しかもう思い出を語る人間がいないんです。だから本に残したいな、家族の日々をって思いまして。思い出すと、せつなーい話が多いんですよ。悲壮感みたいなものはどうしても出てくるので、それをなるべく抑えながらおもしろいエピソードを掘り起こしています。

佐田:創作なのか実話なのか、そこが気になるよね。

清人:完全に実話。描いてると泣きそうになるんですよ。当時を思い出しながらコマ割りとかアングルを考えていると、当時の僕とばあちゃんの2人の情景が見えきて、やるせなくなるんですよね。

――具体的なエピソードを教えてもらえますか?

清人:例えば、ばあちゃんと外食に行った時の話なんですけど、カレーライスってソースとライスに分かれているじゃないですか。ばあちゃんは目が不自由だから僕が一回ぐちゃぐちゃにかき混ぜてバランスよく食べられるようにするんです。でもばあちゃんはそれが変なふうに見られてるんじゃないかって、人目を気にするんですよね。当時は深く考えなかったんですけど、今は大人の感性で第三者として描いているから、ばあちゃんの気持ちがわかるじゃないですか。それで、もっと優しくできたんじゃないかとか考えちゃって。

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佐田:どれくらいのボリュームになるの?

清人:大体、1話が4から6ページで30話くらい入るのかな。

佐田:一冊にそんなに入るんだ⁉ お得だね。

清人:100話でも200話でも描けるんだけどね。芸人ってテレビでしゃべれないようなエピソードって忘れちゃうじゃない? でも漫画を描き始めてから、「あれ? これも描けるな」みたいな記憶をどんどん思い出すようになったんだよね。

佐田:トークに向いていないというか、絵だったらおもしろいんじゃないか、っていうエピソードはあるもんね。うわー、それは楽しみだね。

少年鑑別所で、教科書で教えてもらえないことを本に教えてもらえることを知った(佐田)

――バッドボーイズというコンビ名の通り、かつてやんちゃだったお二人が「本」という媒体を選んで表現しているのがすごく意外だったんです。本って真面目な印象があるじゃないですか。だから何か本との特別な出会いがあるんじゃないかと思ったんですが。

佐田:昔は文字を読むということを毛嫌いしてましたよ、小説なんかは特に。ですが僕、人生が濃くて少年鑑別所に入ったことがあって、そこは娯楽がないんですけど、小説は読んでよかったんです。で、時間だけはあるから小説を手にしたんです、初めて。あんなに毛嫌いしていたものが面白いんですよね。それで価値観が変わりましたね。本というものは人生のバイブルというか、読んだもん勝ちというか。教科書で教えてもらえないことを本に教えてもらえるということを知りました。面会にこれなかった父親から鑑別所に手紙が送られてきたんですよね。「これからは知恵をつけなさい。なるべく本を読みなさい」って。それ以来、本から知識を得るようになりました。法律を知っていたら捕まらないわけだから、法律の勉強も本でしましたし。

――本を読む必然性がめちゃくちゃあるんですね。強すぎるエピソードの後でしんどいと思いますが、清人さんはいかがですか?

清人:僕、サンタクロースが来たことのない家庭で育ったんですね。クリスマスというものがこの世にあって、12月24日の夜に靴下を置いておくと眠っている間にサンタさんという人がやってきてプレゼントを入れていってくれるということを小学校の時に知りました。それでドキドキしながら靴下を枕元に置いて眠ったら、翌朝はおろか一年間、靴下が微動だにしなかったという思い出があるくらいなんです……。その頃ですね、サンタさんが描かれた絵本を見たんですよ。外国の人が作者で何が描いてあるかもわからなかったんですけど、その雰囲気がすごく好きだったし、なんかずしんと響いたんですよね。せつない記憶しかないクリスマスなのに今でもクリスマス好きなくらい、その絵本に影響を受けたんです。

佐田:僕、高校生の頃から清人のことを知ってますが、当時もずっと絵を描いてました。さっきも言いましたけど僕の人生が濃かったんで「いつか俺の話を漫画で描いてな」って頼んだことがあるんですよ。清人の絵で俺の人生を描いてくれよって、コンビ組む前に言ったよな?

清人:なんか言ってたね。

佐田:で、ずっと後になるんですけど、僕『デメキン』っていう小説を出したんですけど(09年)、それが漫画化されるという話になって、清人に「描いてくれないか」ってマジで頼みに行ったんですよ。その時は、連載というのはそれしかできなくなるくらいハードでお笑いの仕事ができなくなる、って言われて断られたんですけど……。

清人:そりゃそうやろ(笑)

佐田:正論だし、漫画を連載しながら絶対に芸人の仕事はできないだろうけど……。そんな清人が7、8年前かな、漫画を描き始めたことがあったんですよ。僕は清人の一番のファンなので「いつこれ出るの?」とか「原稿ができたら読ませてよ」って幕張(よしもと幕張イオンモール劇場)の出番の時に言って読ませてもらってたんです。で、今回、漫画を出すって耳にして清人に聞いたら、今まで描いてきた漫画じゃないって言うもんだから「新作なんや!?」って驚いちゃって。子供の頃からずーっと描いて、この8年くらい舞台に立ち続けながら独学で描いて。何年もかけて独学を重ねて努力して、45歳でデビューするって言うのがなんかうれしくて。しかも清人って手描きじゃないですか。パソコンで描く時代に紙に自分で定規で線引いて枠作ってそこに絵を描いて文字書いて……作業は並大抵じゃできないことをやっている。この苦労が皆さんにどう伝わるかわからないけど、僕は本当に楽しみなんですよね。

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お笑いも漫画を描くことも全部趣味(清人)

――『佐田のホビー』でベストセラー作家の仲間入りをした佐田さんがそう言ってくれると心強いですね。Xで漫画連載を始めたばかりの清人さんにアドバイスはありますか?

清人:何してそんなに売れたの?

佐田:いや、わからないっすよ!何言っていいかわからん(笑)

清人:そこを何とかお願いします!

――佐田さんの本は、大ブレイクしたYouTubeチャンネル(SATAbuilder’s)とも密接な関係にありますし、YouTubeで成功した理由に清人さんの求めるヒントがあるかもしれないですね。

佐田:自己分析はしますけど……。客観的に自分を見ますよね、YouTubeは自分でプロデュースして発信するから。テレビは指示してくれる人がいるけど、YouTubeは自分が見えてないとたぶんうまくいかないんですよ。だから、自分を俯瞰で見たらいいじゃん、と思うだけなんですけど……。自分のことを俯瞰で見たときに「この人がこんなことをしたら面白いだろうな」ということがたぶん自己プロデュースなんで、その通りにコマとして自分を動かせばいいんじゃないかと。というか、芸人は全員そうしているはずですけどね。

清人:まったく何言ってるか分からん。

佐田:結局、こういう世界ってファンの方ありき、というか。YouTubeをやることで「これが僕のファン層なんだ」っていうのがわかるようになったんです。テレビがメインだった頃は女性人気がほしいと思ってやってたわけじゃない? でも今は、まあ女性が声をかけてくれることはない(笑)。全員男で、年上の方が多かったりするんですよ、街で声をかけてくれる人が。こんな年上の方が好きでいてくれてるんやってびっくりするよ。30~50代の男性など僕を応援してくれている方々に向けた本を前作では見せることができたし、僕も僕自身が作っていて楽しくて見てほしいものができたから。僕も見たいしファンの皆さんも見たいというものが合致したから、本が届いたんじゃないかなと思います。

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――テレビで獲得したファンと、YouTubeで実感するファンは性質が違うということなんですかね?

佐田:テレビだと遠い存在で、YouTubeやSNSは身近に感じてもらえるんじゃないかと思うんです。友達に近い感覚で応援してくれてるんじゃないかなと思うんですよね。DMで人生相談とかいただきますし。時間もないし公平性も保てないので、返信とかはできてないですけど、見たよ、という意思表示をすることもあります。

清人:コミックエッセイも同じというか、前に出る仕事じゃない人たちが地道にXに漫画を投稿して、ファンを一人一人獲得して、やがてすごいフォロワー数になって本になる、という世界だから。だから僕も漫画専用のアカウントを立ち上げて一からコツコツやってる。タレントが知名度で勝てる世界じゃなくて、面白いコンテンツ作って成功している普通の人たちがたくさんいる世界だからYouTubeと一緒だね。

――最後の質問になりますが、お二人とも自分の好きなことや趣味を生かして今回、本を出されるわけですけど、好きなことと仕事の間に線引きはあるんですか?

佐田:若手の頃は仕事がほしい、しなければならないという感じでした。で、僕たち芸人というのは最終的に冠番組を持ちたくて芸人になるんだと思うんですね。じゃあ冠番組とは何かというと、自分のやりたいことをやる、ということなんです。今となっては冠番組がやりたいことをやれる場かどうかは分からないですけど、やりたいことを仕事にするのが究極の仕事だと刷り込まれてきたんです。そして僕がやりたいことをできるYouTubeというコンテンツと出合ったのが今なんです。だから趣味が仕事になったということですかね。この先どうなるかはわからないですけど、今までも先のことなんて考えてこなかったし言ってもあと30年そこらの人生なので(笑)。あとは芸人として漫才ができていれば。芸人であるというのがありきの趣味なので。僕らはM-1を目指すことをやめて「好きなことしようね」って言い合ったうえで、今ここにいるので(当日はルミネtheよしもとの舞台前に楽屋で取材)。

――やっぱり二人でやる漫才というのは特別なんですね。

佐田:YouTuberって言われてももちろんいいんですが。「仕事は何ですか?」って警官の方に言われた時に、よく免許証を見せてくださいって言われるんですが(笑)、常に「芸人です」って言ってます、漫才をやってるんで。そこが根っこにあるからYouTubeもできてるし、本も作れている。舞台に立ち続けてお客さんを笑わせて表現するのが芸人だと思っていて、この歳になってもちゃんとパフォーマンスできているので。芸人として舞台に立つということがなくなった時にどうなるかわからないですけど。そうなったらもう辞めてもいいかなと思ってます。

清人:僕は趣味を聞かれるといつも困るんですよね。趣味がないから。でも言い換えると全部趣味なんじゃないかとも思っています。お笑いも漫画を描くこともひっくるめて。仕事という側面はありますが、全部好きなことなんで。嫌いなことをやってないですから。

佐田:恵まれた人生だと思いますよ。好きなことをやることを周りの人たちが許してくれているということですからね。清人なんか家族がいて、生活のこともあるから奥さんから言われるわけじゃないですか、「漫画ばかり描いて!」って。でもそれを許してくれている人が周りにいるからこそ実現できているわけで、ありがたいことですよ。

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プロフィール

佐田正樹
1978年福岡県生まれ。高校時代に大溝清人と出会い97年にバッドボーイズを結成。2002年に東京に進出し、以降、テレビ、舞台などで活躍中。2009年に自伝的小説『デメキン』を刊行し、映画化、コミカライズがされるなど話題に。22年に刊行した『佐田のホビー』は5万部を超える大ヒットを記録。20年2月にYouTubeチャンネル「SATAbuilder’s」を立ち上げ人気を博し登録者数は90万人に迫る。
YouTube:SATAbuilder’s
X:@kisamakono
Instagram:satakisama

大溝清人
1978年福岡県生まれ。バッドボーイズのボケ・ネタ作り担当。テレビ、舞台、ラジオなどで活躍中。2010年に自伝的小説『ダブル★ピース』を刊行。今年3月に初となるコミックエッセイ『おばあちゃんこ』の発売を控え、現在XとWalkerplusで連載中。
X:@kiyotomanga(漫画専用)
X:@kiyotooomizo
Instagram:badboys_kiyoto93