「ほぼ」と「ほぼほぼ」の違いは何? 新聞校閲記者も惑わされる「何かおかしい、悩ましい言葉」の使い分け

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/13

校閲記者も迷う日本語表現
校閲記者も迷う日本語表現』(毎日新聞校閲センター/毎日新聞出版)

 年末から忘年会、新年会、成人式…次々と続いたイベントが終わり、2024年の日々が安定してきた人がほとんどだろう。久々の友人知人、懐かしい顔ぶれと会うたび、いくどか「久しぶり! いつぶりだろうね」なんて言葉をやり取りしたかもしれない。

 さて、ここで察しのよい方は違和感を感じたかもしれない。「いつぶり」という表現が引っ掛かるだろうか。ニュースの最前線で奮闘する新聞校閲記者たちが、今どきの「言葉」事情を解説する『校閲記者も迷う日本語表現』(毎日新聞校閲センター/毎日新聞出版)によると、「いつぶり」という表現を“おかしくない”と感じる人は約4割、“おかしい”と違和感を感じる人は6割だそうだ。

 この「いつぶり」「大学二年ぶり」などという「ぶり」の前に“物事の起点”がくる表現は、国語辞典によると誤り、あるいは俗用と本書は説明する。正しくは「二年」「何年ぶり」など“経過した時間”がくる使い方であり、「いつ」を使いたい場合は「いつ以来」となるらしい。とはいえ、本書の校閲記者も仕事で使うチャットツールで見かけたことがあるほど「いつぶり」は何となく使いやすいうえ、十分に伝わる言い方だと人々に捉えられているだろう、と推測している。

advertisement

 このように、本書は何かおかしい、悩ましい言葉の使い分けを解説している。ちなみに、本記事の冒頭であえて2回使用した「違和感を感じる」という重言の代表選手ともいえる表現は、重言の章で最初に語られている。「違和感を感じる」は国語辞典によれば、「『不適切な重言』ではないもの」という区分ではあるものの、「違和感を覚える」「違和感がある」などの言い換えが推奨される。これは、文化庁の報告の中でも「誤った表現ではないけれども、冗長であるため公用文にはなじまない」という理由で直すよう例示されているという。重言の章では、これからの選挙戦で使用が目立ちそうな「過半数を超える」「注目を集める」「票読み予想」などについても説明されている。

 さて、数年前は違和感があったものの、近年は定着してきた感がある表現の一つであろう「ほぼほぼ」はどうだろうか。あなたは、「ほぼ完成」と「ほぼほぼ完成」、どちらが「完成」に近いと感じるだろうか。本書のアンケートによると、2019年時点で「ほぼ完成」と思う人が4割、「ほぼほぼ完成」が3割強、という感覚だそうだ。残りの2割強は「どちらも同じ」「使わないので分からない」と回答した。

 本書によると、「ほぼほぼ」が毎日新聞で初めて登場したのは2016年。数年経った今では、「聞いたことがない」という人は少数派だろう。興味深いことに、「ほぼほぼ」は国語辞典によって解釈が分かれるそうだ。つまり、「もう完成に近い」ことを強調しているのか、「あくまで『ほぼ』であって完成ではない」ことを強調しているのか、人によって使い方、捉え方が変わるそうだ。本書によれば、「ほぼほぼ」の意味は安定的でなく、言葉が使われる状況や対話のムードによって裏付けられる。

 人の悩みの大半は人間関係に起因する、といわれることがある。また、人間関係に歪みを生む大半は、コミュニケーションに起因する。本書で言葉を正しく理解し、用いることができれば、2024年をより気持ちよく過ごせるようになるのではないだろうか。

文=ルートつつみ
@root223