化粧品会社の理系OLが18世紀のフランスにタイムスリップ!? 知力と化粧技術で貴族の女性たちを救う物語

マンガ

公開日:2024/2/13

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse
ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse』(みやのはる:漫画、堀江宏樹:企画・原案・監修/KADOKAWA)

 服や化粧、髪型、ネイル。世の中には、「着飾る」ためのものが溢れている。それは自分を良く見せるためだったり、自身の気分を上げるためだったり、心を守るためだったり、人によってさまざまだが。本来、こうした自分を飾る行為は、自分の意思で自由にすべきもの。だが過去には、今とは比べものにならないくらい「美しさ」に対しさまざまな重圧や思惑、価値がつきまとう時代もあった。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse』(みやのはる:漫画、堀江宏樹:企画・原案・監修/KADOKAWA)は、現代から18世紀フランスに転移してしまった化粧品会社勤務OLの、化粧品と知識、技術を駆使して人々を救っていくタイムトラベルストーリー。2023年5月に全5巻で完結しており、重厚な世界観と壮大かつ繊細なストーリーで多くの人を虜にしている。

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 本作品の主人公は、現代日本で「株式会社紫星(しせい)」の化粧品開発部に勤務している女性・江藤琉花(えとう るか)。琉花は生粋の理系女子で、学生時代は外見に無頓着だったが、大学生のときに初コンパで「女なんだから化粧ぐらいしたら?」と言われて化粧に目覚める。普通の女子ならばイラッとしそうな一言だが、琉花はそこで、化粧品がどんな成分でできていてどんな効果をもたらしているのかに興味を持ち、その「魔法の粉」のような力を持つ化粧品にすっかりハマってしまったのだ。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 そこから紫星の人気ブランド《ヴィクトワール》の開発者として活躍するようになった琉花は、あるときモード界の女帝として世界を率いるトップブランド「エマ・ローラン社」との共同開発責任者として、イケメンで女たらしな廣瀬部長とフランスのパリへ出張することになる。だが、実は琉花は生粋の方向音痴。ひょんなことからホテル内で迷子になり、出口を探している間に、なぜかルイ15世が王を務める18世紀半ばの、ブルボン王朝時代のフランスにタイムスリップしていた――。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 おなかが空いてパンを買おうとするも、持ってきた紙幣が使えず門前払い。当然、元の世界への帰り方も分からない。途方に暮れていた琉花を助けてくれたのは、自称フランス一の天才髪結師、レオナール・オーティエだった。その後琉花の施す化粧の技術を目の当たりにしたレオナールは、琉花をリュカと呼び、自身の成功のために力を貸してほしい、「ともに目指そう! ヴェルサイユを!!」と言い出す。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 ここから琉花は、レオナールとともに貴族を相手取り、「東洋の魔法」と称して化粧を施すことになったのだった。

 レオナールは自由奔放で商魂たくましく、琉花はそんな彼に振り回されることになるのだが、その中で彼女はこの時代の現実を見ることになる。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 18世紀半ばのフランスでは、女性は男性の付属品・政治の道具として結婚という形で売り買いされており、美しさこそが価値とされていた。文明も未発達な中でいかに肌を白く見せるか、美しく見せるかを考えるあまり、化粧品に人体へ害をなす成分が含まれていることも多かった。

 また、貴族を相手に化粧と髪結いを生業としている二人の周囲では、次々と事件やトラブルが巻き起こっていく。本当は鉛中毒で亡くなった貴族を、その家に雇われ可愛がられていた画家の娘がお金欲しさに殺したのではないかと疑いがかけられたり、化粧品を盗まれたり、馬車で国外まで拉致されたり、無理難題を命じられて命の危機に瀕したり――。そのたびに琉花は、薬学などの理系知識を含む知力、持っていた《ヴィクトワール》の化粧品、化粧技術などを駆使し、レオナールとともに苦境を乗り越えていく。

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 現代においても、まだまだ「女性は化粧をして当然」「美しくある努力をすべき」といった風潮があるが、この時代はその比ではない。女性の美しさが家の将来や国家の権力に直結する世界で、顔にコンプレックスを抱える女性はどれだけ肩身の狭い思いをしていたことだろう? 中世ヨーロッパの貴族というと華やかな印象があるが、その裏では、たとえ貴族であっても多くの人が苦しんでいたのだと改めて感じさせられた。彼女らにとって、化粧という魔法は本当に「必要」なものだったのだ。

 琉花とレオナールは、最初こそ自分のメリットのために行動をともにしていたが、少しずつ互いにかけがえのない存在となっていく。琉花を唯一無二の存在として尊重し、心の底から一人の人間として大事に思ってくれるレオナールに、彼女は自分が本当に元いた世界に戻りたいのか、戻るべきなのか、疑問に感じ始めるのだった。また、2巻後半には誰もが知るマリー・アントワネットと思われる人物も登場して――!?

ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~ La maquilleuse

 激動の18世紀フランスという世界で、琉花が何を思い、どう動いていくのか。レオナールとの関係はどうなるのか、無事日本へ帰ることができるのか――。琉花の行方と成長を、ぜひ最後まで見守ってほしい。

文=月乃雫