元乃木坂46 中元日芽香さんインタビュー「誰だって悩むからこそ、メンタルケアの大切さを知ってもらいたい」2作目のエッセイに込めた思いを語る
PR 公開日:2024/1/30
元乃木坂46の一期生メンバーで、現在は心理カウンセラーとして活躍する中元日芽香さん。その異例の経歴を率直に綴ったエッセイ『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』(文藝春秋)は発売直後から話題を集めた。そこに書かれていたのは華々しい道程だけではなく、その裏にあった葛藤や苦しみ、痛みだった。
そんな中元さんが待望の2冊目を発表。それが『なんでも聴くよ。 中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(文藝春秋)だ。本作には一般の人たちから募集した38の悩みが収録されており、中元さんはそのひとつひとつに回答を寄せた。それはまるで、カウンセリングの様子を見ているようでもあり、本作は“カウンセリング・エッセイ”と謳われている。
読むだけで癒やされるような本作を、中元さんはどんな思いで執筆していったのか。その胸中をうかがった。
自分に自信を持てない人が多い時代に
――“カウンセリング・エッセイ”と謳われている本作を執筆するきっかけは何だったのでしょうか?
中元日芽香さん(以下、中元):1冊目である『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』には私自身の悩みや適応障害になってしまったことなどを赤裸々に書きましたが、それを読んだ方々から「自分も似たことで悩んでいて、この本がお守りになりました」「つらいときに読み返しています」といった感想をいただいて。私の実体験を書いた本が、誰かの支えになるのかと驚きました。それを踏まえてもしも2冊目を出せるならば、今度はもっと読者の方々へ寄り添った本にしたいと思いました。
――それで今回は広く募集した悩みに回答していく、というスタイルの一冊に仕上がったんですね。
中元:ただ、執筆をしていくなかで決して正しい回答を導き出せているわけではないなと実感して。私がやっているのは、いろんな方の悩みに耳を傾けることなんです。だからタイトルも『なんでも聴くよ。』としました。
――文章で相談された内容に対して文章で返していくのは、相当難しかったのではないかと想像します。
中元:すごく難しかったです。書籍の元となる質問をWEB上で募集したのですが相談者さんの顔も見えないので、文章からすべてを想像するしかない。どれくらい悩んでいるのか、どんな背景があるのか、文章からできる限り読み取ってお答えしていく。それはとても難しかったですし、より慎重に言葉を選びながら執筆を進めました。
――普段、運営されているオンラインカウンセリングに来られる方と、今回のWEB上で相談を寄せる方とで違いはありましたか?
中元:比較的若年層からの相談が多かったように感じます。学生さんはこういうことで悩んでいらっしゃるのかという発見がありました。一方で、普段カウンセリングをしている会社員の方々との間にも共通点があって。それは「自分に自信を持てない方が多い」ということ。これは個人的な想像でしかありませんが、SNSの普及がその一因だと思っています。
SNSを覗けば不特定多数のキラキラした人たちが目に入ってくる。あるいは、逆にものすごくしんどい思いを抱えている人たちの情報に触れることもある。そういった環境のなかで、自分自身を保ち続けるのは難しいことだと思っています。
だったら、SNSを見ない・お休みするという選択肢を選べたらいいのですが、みんなはどうしているのかと気になってしまいます。私もアイドル活動をしていたときは常にSNSを気にしていましたし、結果傷つくことも多かった。わかっているのに止められない。そして心が柔らかい人ほど、SNSの影響を受けてしまう。
――そういう人たちに対して、なんてアドバイスしてあげますか?
中元:事実と主観を切り分けることが大事かもしれません。たとえば、SNSを通して傷つくような言葉をぶつけられたとき、どこからどこまでが“事実”なのかを判断してみる。その言葉はあくまでも発信者の“主観”でしかなくて、“事実”は含まれていないならばそれを真に受ける必要もないですし。そうやって事実と主観を冷静に見極めることは、自分自身を守ることにつながっていくと思います。
これはアイドル時代の経験から導き出した考え方です。アイドル時代はどうしても評価がつきまとっていました。でも、評価というものは数字だけで計れるものではないし、ステージに立つメンバーに選ばれた回数がすべてでもないはずなのに、そこに選ばれないと自分には何の価値もないと思いこんでしまう。
――選ばれなかったのは“事実”だけど、ただそれだけであって、自分の価値が下がるわけではないですよね。
中元:会社員の方も学生さんでも、集団のなかにいると選ばれるかどうかという局面に立たされます。ただ、そこで選ばれなかったとしても、自分は駄目なのだと思わないでほしい。選ばれなかったことは“事実”だけど、そこに至るまでに努力してきたことも“事実”です。そうやって自分自身がやってきたことをちゃんと認めてあげてほしいです。
「心のケア」が当たり前になるように
――こうして2冊目を書き上げてみて、心理カウンセラーとして見えてきたことはありましたか?
中元:悩みに対する“答え”というものは、相談者さんひとりひとりのなかに存在しているとあらためて思いました。だからなるべく強い言葉は使わないようにしています。私が強い言葉を用いてズバッと回答めいたことを言ってしまったら、それが相談者さんの可能性や選択肢を閉ざしてしまうかもしれない。そうではなくて、お話に耳を傾けながら、いろんな引き出しを開けてあげることが大事なのかなと。そうして最終的には、相談者さんが自分自身で決断されるのだと思います。それが心理カウンセラーの役割なのだと実感しました。
同時に、私だからこそできる仕事があるのかもしれない、とも感じました。たとえば本のなかで、アイドル志望の方から寄せられた相談内容を紹介しているのですが、私が元アイドルという経歴だからその方は相談してくださったのかなと思いました。自分の経験してきたことを踏まえてより具体的なお話ができますし、もしかしたら他の心理カウンセラーさんよりも少しだけお役に立てるかもしれません。あるいは適応障害になった経験も、精神的に苦しい思いをしている方の相談にも乗りやすいかもしれない。今回、改めて自分の強みを発見でき嬉しかったです。
――そう考えると、これまでに経験してきたことすべてが心理カウンセラーの仕事につながっていますね。
中元:本当にそう思います。最初の頃は、アイドル経験や適応障害になったことなどは、プロの心理カウンセラーとして何の役にも立たないと思っていました。でも、私自身が過去にたくさん悩んだことで、いま悩んでいる誰かに「私もその道、通ったことがあるよ」と伝えられるのではないかなと考えられるようになりました。
――中元さんの言葉に救われる人は少なくないと思います。
中元:そうだと嬉しいです。同時に、心をメンテナンスすることの大事さを知ってほしいです。ここ最近、メンタルヘルスというものがメジャーになってきたことで、どんな人であっても悩むし、心が疲れてしまうことがあると知られてきました。それはすごく良いことなのですが、次の段階として心を整えることも意識してほしくて。たとえば、信頼できる友人に悩みを打ち明けてみることもそのひとつです。
ただ、友人に依存しすぎるのもトラブルにつながりかねません。LINEや電話などで相談しているうちにどんどん依存するようになっていくと、人間関係が壊れてしまうかもしれない。それを防ぐために存在するのが、私たちプロの心理カウンセラーです。だから、どんどん頼ってもらいたいです。
――健やかに生きていくためにも、中元さんのような心理カウンセラーの力を借りるわけですね。ただ一方で、「カウンセリングを受けること」に対するネガティブなイメージや色眼鏡はいまだに残っているようにも感じます。
中元:どんなに困っていても「カウンセリングだけは受けたくない」とか「メンタルクリニックは最後の砦だから、いまはまだ行きたくない」という声はよく聞きます。他人がカウンセリングに頼っていても構わないけれど、自分はお世話になりたくないと考えている人は、まだまだ少なくないようです。そして何より、私自身もそのひとりでした。適応障害になるまで「これくらいの心の不調なんて当たり前だ」「カウンセリングを受けるほどじゃない」と思っていました。
でも、カウンセリングは日頃からできるメンタルケアなのです。それで心を整えることを習慣づけておけば、最悪の状態が避けられる可能性も高まります。
みなさん、風邪気味かな?と思ったらすぐに病院に行くと思います。でも、心の不調は見逃されてしまう。そうではなくて、身体と同じように心だって消耗するし、そうしたときはプロに診てもらうということが当たり前になってほしい。
――今回の著書を読めば、そういった心のケアの大切さについても考えるきっかけがもらえるのではないかと思います。
中元:もしかしたら、カウンセリングの疑似体験ができるかもしれません。その結果、カウンセリングがもっともっと身近なものになってくれたらいいな、と思います。
――最後に、今後の目標を聞かせてください。
中元:心理カウンセラーになって6年目を迎えました。アイドルも6年やっていたので、カウンセリング業もそれなりに長くやってきたんだなぁと感慨深いです。これからも引き続き、ひとりの心理カウンセラーとして日々のお仕事と丁寧に向き合っていきたいですし、発信活動も頑張っていきたいです。それと、2冊目を書かせていただいて、あらためて執筆って楽しいと感じました。振り返ってみれば、アイドルの頃からブログを書くのが楽しかったんです。だから今後また題材が見つかったら、3冊目も書いてみたい。エッセイなのか、あるいは創作なのか、いまはまだわかりませんが自分がワクワクできることに挑戦したいです。そして、そんな私の姿を通して、自分もなにかにチャレンジしてみようと感じてもらえたら幸せです。
取材・文=イガラシダイ 写真=島本絵梨佳