森崎ウィンが江口拓也から受けたアドバイスとは?『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を通じて見せた、森崎ウィンのシリーズ作品に出演する声優への憧れ〈インタビュー〉

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/2

機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

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「ガンダム」の世界に触れて

――完成した作品をご覧になったばかりだとか。いかがでしたか?

森崎ウィン(以下、森崎):3DCGアクションの幅広さは、「本当にすごいな」と純粋に感じました。モビルスーツの動きだとか、非常に類を見ない、素敵な映像に仕上がっています。やっぱり自分の声が流れると、まだそういうことに慣れていないので、一瞬「うっ」となるんですけど、それはさておき(笑)。

 作品全体としても、ガンダムシリーズを初めて見る方であっても、「『ガンダム』は掘るとこういう深いメッセージがあるんだな」と感じられるものになっていました。まさに今の僕ら人類にとって必要な、強いメッセージ性のある作品になっているんじゃないかなと思います。

――森崎さんご自身はガンダムシリーズをこれまでもご覧になってきたわけで、そうした視点での今作のグッと来た映像上のポイントはありましたか?

森崎:戦艦ですね。今回の戦艦の大きさの描き方はとても魅力的でした。着水するシーンの水しぶきがいいんですよね。

――さすが、マニアックなところを。

森崎:いやいや、そんな。

――話は遡りますが、今回グリフィン・アルバレスト役でのご出演が発表されたとき、ファンのみなさんからの反応はいかがでしたか?

森崎:やっぱり「ついに『ガンダム』の声優をやることになったんだね!」というものが多かったです(笑)。ガンダムといえば、僕の人生を変えてくれたセリフの中にあった言葉ですから。

――「レディ・プレイヤー1」で森崎さんが演じられたダイトウの、「俺はガンダムで行く!」は本当にインパクトがありました。

森崎:それから長い年月が経ち、ようやく「本編」に登場することができる。そのことを僕のファンのみなさんは、純粋に喜んでくれていますね。僕にもみなさんのワクワクが伝わってくるくらいに。

――今回の『SEED FREEDOM』でも、森崎さんの演じる役には、本PVでも使われた「闇に落ちろ、キラ・ヤマト」というインパクトのあるセリフがありますね。

森崎:あれは今回の作品で、大きなキーワードになるセリフなんです。素敵なセリフをいただけたなと思って、感謝しています。

――グリフィンという役のご印象はいかがですか?

森崎:奥深いところまで描かれるシーンはないキャラクターなので、逆に考えれば役者の自由度が高く、その点では少し苦労しました。「俺たちは他の人とは違うんだぞ」という高みの見物をしているような、それでいて自分と仲間たちのいる場所しか知らない、世界の狭さ。でもそうした狭い世界の中で抱いている信念の強さは、かなりある人なのかなとは思いました。

――役を演じるまでには、どのような準備をされましたか?

森崎:まず台本をいただく前から、オファーをいただいた段階で、ガンダムの感覚……その世界観の中に出てくるセリフの言い回しだったり、用語だったり、独特なものに耳を慣らそうと考えて、シリーズの最初の『機動戦士ガンダム』を見返しました。そこでなぜ『SEED』を見なかったのかは、自分でも理由がよくわからないんですけど(笑)。

――あはは(笑)。

森崎:ほかにもいろいろ準備はしてみたんですが、ぶっちゃけ、僕みたいな声優に関してそんなに経験もない人間の準備してきたことが、実際のアフレコ現場でどれだけ役に立ったのか。正直、終わってみると、皆無のように感じられました。

――そうなんですか。

森崎:声だけで何か全てを表現するのは、本当に難しいんですよね。アフレコの段階では絵も完璧にできているわけではないですし、福田己津央監督をはじめ、その場にいるスタッフのみなさんから言われたリクエストに、自分の声の芝居の少ない引き出しで応じていくのに精一杯だった……というのが、正直な感想です。

 実はアフレコの前に偶然、「SPY×FAMILY」のロイド役を演じている(声優の)江口拓也さんとお話しできる機会があったんです。そこで声の芝居について相談したら、「俺たちもそうなんだけど、とにかく言われたことに素直に従って全力投球。それだけ!」とあのカッコいい低音ボイスで言われたので、もう「わかりました!」と。プロで、あれだけ第一線で活躍されている方でも、そういう初心のもとでみんなやっているんだなって思ったら、自分もそうするしかないな、と。

――福田監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

森崎:アフレコの途中の休憩時間に、僕がひとりでいたら近づいてきてくださって、「自分では強く、上からセリフを言っているつもりでも、一生懸命すぎると意外と逆に弱く感じたりするんだよ」みたいに、実写の芝居との声の聞こえ方の違いをアドバイスしてくださったんです。そこから喉の筋肉の使い方を意識して変えてみたりしました。

 アニメの現場では本当に当たり前のことかもしれないんですけど、それをさりげなく伝えてくださる姿が、すごく印象に残っていますね。ガンダムという歴史ある作品を手掛ける、キャリアの豊富な監督ということで、もっと「怖い」人なのかと勝手に思っていたんです。でも、全然そういうことじゃなかった。

――どう違ったのでしょう?

森崎:何か、僕の持つものを瞬時に見抜いて、ちょっとずつ引き立てていくっていう能力……比べるのもすごくおこがましいことなのですが、WOWOWの「アクターズ・ショート・フィルム4」という企画で、自分も演出という立場で物事を見る機会がありまして。それをやって思ったんですけど、役者の演出って結局、自分が持っていきたい芝居に辿り着かせるためには、やっぱその俳優を見抜くというか、俳優の持つもののどこに、どういうふうに、何をヒットさせたら、求める芝居が出てくるのか?を見極める必要があるんですよね。自分が演出したとき、そういうポイントの足りなさを感じたんです。福田監督とのやりとりには、まさに長くやってこられた監督ならではの技といいますか、自然に乗せられて芝居をしている自分がいるのかな? と感じることがありましたね。

――収録は他の方と一緒に?

森崎:いえ、残念なことに、僕だけだったんですよ。先に他のみなさんが録り終わっている状態で、錚々たる声優さんたちの声をその場で聞きながら演じました。

 あ、そうだ。福田監督の話に戻ってしまいますけど、収録前に「ガンガン行かないと(他の役者に)食われるよ」と言われたんです。その場では「えっ?」と思ったんですけど、ブースに入って他の方の声を聞いたら、納得でした。「うわぁー!なんじゃこりゃ!」と(笑)。絵がなくてもキャラクターの動きが勝手に見えてくるぐらいのセリフの運びなんです。昨日、今日では到底辿り着けない領域でしたね。

――改めてそこで凄さを感じられた。

森崎:ただ、慣れていない声の芝居の良さも多分あると思うんです。グリフィンはそこが活かせる役だったとは感じていて、福田監督はそれもあってキャスティングして、収録でも大事にしてくださったと感じています。

――ちなみに、共演者の方のお芝居で、特に印象的だったものは?

森崎:保志(総一朗)さん!ヤバいっすね!僕は初めて触れた「ガンダム」が『機動戦士ガンダムSEED』だったんです。そのとき聞いていた声が聞こえてくることにも興奮しましたけど、それだけじゃなくて……あまり上手く表現できているかわからないのですが、アニメの絵って、2次元じゃないですか。でも、保志さんの演じるキラの声は、3Dなんですよ。声の粒が。

――声の芝居に立体感がある。

森崎:もちろん、他のみなさんもすごいんですけど……抑揚の凄さ、感情的になるところとスッと気持ちを抑えるところの差、それから息遣い……何から何まで、すごいなと思いました。この作品では、声の芝居に合わせて絵を調整してくださることもあったそうなんですが、保志さんのあの芝居があったら、作画の人は多分、気持ちを絵に込めやすいと思うんですよね。多分。それくらいのお芝居をされていて、びっくりしました。

――声が絵を引っ張っていくぐらいの。

森崎:ああ!いい表現ですね。そう、そんなことを、強く感じました。あの芝居をするのは、今の僕には無理ですね。当たり前ですけど(笑)。

機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

作品から現実に届くもの

――キャラとして気になる存在はいますか?

森崎:トリィとブルーです。

――意外なところに。

森崎:特にキャンプのシーンでの描かれ方が好きなんです。超リアルなロボットの鳥じゃないですか。それが、桜が舞う中で羽ばたいている。そのカットがおもしろくて、なんだか「これが僕らの未来なのかもな?」と一瞬思ったんです。

『ザ・クリエイター/創造者』(2023年)もそうでしたけど、人間が作ったロボットが、新しい種族のようになり、それと人類が共存していく。モビルスーツだとか、他のロボットの描写よりも、そのシーンが僕としては、すごく今の時代と作品がリンクした瞬間に感じたんですよね。それを抜きにしても好きなキャラクターではあるんですけど、ますます好きになりました。

――キラとラクスの関係はどうご覧になりました?

森崎:この劇場版でのラクスの大事なセリフはストレートで、よく考えてみれば意外と当たり前のことを言っているのかもしれないと思えます。けれども、あえてそれを言葉に出すことって、普段の僕らはないと思うんですよね。それを全部、あえて代弁してくれている印象を受けたんです。

「必要だから愛するんじゃなく、愛しているから必要」なんだって、多分僕ら人間は、みんなわかっているはずだと思うんですよ。でもそれを改めて言葉で聞かされると、その重みがわかる。これからの僕ら人類が、あえて口に出し続けていかなきゃいけない言葉でもあるのかなって感じました。そのセリフと今回のテーマが大きく繋がっていて、キラとラクスのふたりの関係性は、ひとつの「理想郷」に近い関係性のように見えましたね。

――ただふたりの関係というより、人類が辿り着きたい場所のようなイメージですか。

森崎:あくまで僕の解釈ですけど、そうしたものでもあるのかな、と。言い方を変えると、アニメという、ある種の「ファンタジー」として作られる表現だからこそ、そうした理想を提示できる強みがあると思うんです。それを見せてもらった僕らは、多分、エンターテインメントを通して少し理想に近づく何かの行動ができたり、考え方ができたりするようになるんじゃないか。そんなことを、あらためて感じました。

――今回の仕事は、今後のご自身のキャリアにはどんな影響を与えてくれそうですか?

森崎:やっと自分の人生を変えてくれたガンダムの、本家本元、大本のところに携われて、少しでも恩返しができたのかなと勝手に感じています。でも、ここから何かが、どういうふうに展開していくのかは、率直なところ、ごめんなさい、わかりません。これから声優としていろいろやらせていただける機会が増えるのかどうかもわからないです。

 ただ、本当におもしろい現場だったので、何かまた挑戦できる場があればやらせていただきたいですね。でも僕はあくまでも実写の人で、そこの軸がそんなに変わらない中で声優のお仕事をするのは、長くやっている声優のみなさんにすごく失礼だとも思うんですよね。だから「これから声優です!イェイ!」みたいな気持ちはまったくないです。

――声の芝居を経験されたことが、他のお仕事に活かせそうなところは?

森崎:あ、それはあります。特に舞台では、声の芝居の技術がすごく役立つんですよね。繋がっているんですよ、やっぱり。小屋(劇場)がデカくなればなるほど、後ろの方だと動きも見えづらくなる。そのときに、声だけでもひとつ、何かを伝えることができる技って、大事なんですよね。

 実際、声優さんが舞台に出演されたときって、本当にすごく伝わる。やっぱり芝居は、伝わってナンボなんで、そういう意味では声優の仕事は、自分の芝居の技術の引き出しを増やしてくれる現場でもあります。だから僕としては、関わらせていただけるのは、本当にありがたいですね。

――役者業って以前よりもかなりボーダーレスにはなっている印象があります。声優さんがドラマにご出演されるのも珍しくなくなって。

森崎:めっちゃやられていますよね、幅広く。

――そういう意味では、森崎さんも積極的に声優業に取り組まれても。

森崎:ああ、もちろんです。ご縁があるなら、やりたいです。ただ、僕があくまでも言いたいこととしては、声優さんって、なるための専門的な学校があったりしますよね? 声の芝居をやる上での共通言語となる専門技術があって、それを身につけた人たちが関わる、特殊な業界だと思っているんです。もちろん中には、持って生まれたもので舞台俳優から声優業に主な活躍の場を移す方もいらっしゃって、業種は違っても同じ芝居として一脈通ずるものがすごくあるなと思います。

 でも、そういう意味では、専門技術に重きを置いて声優になろうとしている方々に対して、失礼がないようにしたいんです。「俳優になって、ちょっと有名になったからってやりやがって」みたいなふうに見られたくないし、自分自身としても、そういう気持ちで声優の仕事をやりたくはないので。でも、もちろん、お話をいただけるのであればぜひやりたいです。これまでできなかったこと、今回得た技術をまた活かしたいという気持ちは、強くありますね。

――こんなアニメに出てみたい、アニメでこんな役を演じてみたい、みたいなイメージはあります?

森崎:主役をやりたいです。

――おお。

森崎:先日、お仕事をご一緒した声優の方から、「以前出た作品の、5年ぶりの新シリーズに出演するんだ」と聞いたとき、うらやましかったんです。もちろんヒットしたからこそですけど、同じ役を長年ずっと演じ続けられるのは、実写にはない声優のお仕事の醍醐味のひとつじゃないかと思うんです。

 実写は見た目も変わっていくから、なかなか長年にわたってひとつの役を演じ続けるのは難しいところもある。主役というか、シリーズもので、長く演じ続けられる役の声を当てるのは経験してみたいですね。単発のゲストで、とかじゃなく。そして、できればテレビシリーズがいいですね。いわゆる声優のみなさんが行くような収録現場に通ってみたい。

――週1でスタジオに通うスケジュールを、長期間経験されてみたい。

森崎:そうそう、そうです。

――言われてみれば、声優業はドラマや舞台、映画ともまた違うサイクルでの芝居への取り組み方になるんですね。映像作品のように一定期間のスケジュールを拘束されるわけでもなく、舞台のように長い準備期間をかけて作り込んだものを何度も演じ続けるのでもなく。

森崎:そうなんですよ。しかもアニメ好きからすると、そういうふうに芝居をやってきた人はカッコよく見えるんです(笑)。僕、ミュージカルのデビュー作が「ウェスト・サイド・ストーリー」のSeason2という舞台だったんですけど、共演者に小野賢章さんがいらっしゃったんです。その前に「ヴィンランド・サガ」を見ていて、クヌート王子の役が賢ちゃんだって知らなくて。お会いしたあとで調べて、めっちゃ興奮して。その後、ドラマの仕事で津田健次郎さんとお会いしたときも、やっぱり興奮して。やっぱ……違うんですよね!

――でも森崎さんも、役者業での幅の広さはもちろん、歌手活動もあって、日本だけではなくグローバルな仕事もされていて、ボーダーレスな仕事ぶりは憧れられる立場だと思いますよ。ご自分の中では、将来のビジョンはお持ちなんですか?

森崎:「森崎さんって今、どこにいます?」って言われる人になりたいんですよね。「今、ちょっとフィリピンで撮影してて」「今、中国にいます」「今、アメリカ行ってます」……みたいな形で、いつもいるところが違う。どこにも属したくないんです。というか、属せない。それが逆にコンプレックスだった時期もあったんです。でも今は、集団だとか場所だとかに属すことができないからこそ、どんどんいろんなところに行きたいと考えています。

取材・文=前田久(前田Q)

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