本当に怖いのは幽霊じゃない、ヒトかもしれない!新宿ゴールデン街で語られるのは、ゾクッとする話ばかり
公開日:2024/2/22
小学生の頃、映画館で「学校の怪談」シリーズを観てからホラー好きになった僕。いまでもどんなジャンルのホラーも見漁ってはゾクゾク感を味わっている。といっても、たいていの作品は「面白い」寄りのゾクゾク感に着地するのだが、あるジャンルだけ「恐怖」の意味を含んだゾクゾク感を抱く。それは実際に生きている人、または実在するか不明だが確かに人の形をした何かが関わるものだ。昨今「ヒトコワ」という言葉でまとめられるそのジャンルは、いまだにホラー好きの僕を慣れさせてはくれない。
『ゴールデン街の悪夢~とあるBARに訪れる奇妙な客たち~』(鐘木ころも:漫画、インディ:原作/竹書房)は、そんな「ヒトコワ」を漫画形式で楽しめる作品だ。「人種のるつぼ」という名のもと、さまざまな人が混在し、アングラ芸術の発信地としても有名な新宿ゴールデン街でバーを営む原作者・インディさんが耳にした、奇妙かつゾクゾクする話が描かれている。
1巻に収録されている話は全部で7つ。バーを訪れる客層は、電車の運転手、アスベスト除去作業員、キャバクラ嬢、解体工事屋、営業職のサラリーマン、病院経営者、グラビア撮影のメイクアーティストなどさまざま。しかしホラー好きの勘とでも言うのだろうか……どの職業もホラーとかなり関わりが深いという意味では共通しているような気がする。事実、ホラードキュメンタリーの舞台や心霊スポットとして挙げられるのは、電車のホームや病院、解体工事が中止となった廃墟、夜の街などが多い。
そんなホラー要素満載の仕事を生業とする彼らから語られるのは、冒頭でも述べたように、がっつり幽霊モノというよりは生きているかどうかわからない人間や生き物とのエピソードだ。電車の運転手は駅のホームでの出来事を、アスベスト除去作業員は建物の最上階にいた“何か”に関する話を、キャバクラ嬢はたまたま見かけた熱帯金魚屋での出来事を怯えた表情で話し始める。個人的な感想だが、第5夜「歌声が聞こえる」で営業職のサラリーマンから語られる話は、まさに「ヒトコワ」だった。舞台は出張先でふらっと出向いたバーなのだが、彼はそこである男にこう話しかけられる。
「歌声が聞こえませんか⁉」
この時点ですでに「ヒトコワ」なのだが……彼はその歌声の正体を確かめるべく、男と一緒に店の外に出てしまう。不気味かつゾクゾクとする結末が待っているとも知らずに。サラリーマンがどんな体験をしたのかは、ぜひ本書を手にして確かめていただきたい。
ちなみに、表紙のタッチからはそこまで恐怖を感じない人は多いだろう。しかし、騙されてはいけない。読了したあとに再度表紙を見返してほしい。きっと主人公の上に描かれた男性の姿に「うわ……!」とするはずだ。本当に怖いのは幽霊ではなく、人なのだと、改めて実感させられた1冊だった。
文=トヤカン