美術館は「私語厳禁」「撮影不可」…じゃない!? 学芸員が教える美術館の裏事情で、アート鑑賞がもっと楽しくなる
PR 公開日:2024/2/7
美術館に行ったはいいものの、なんとなく消化不良に終わってしまうことってありませんか? 特に現代美術に関しては、知識がないと楽しめないのではと思ってしまいがちです。しかし、見方を変えれば美術館はもっと楽しくなるのです。
それを教えてくれるのが、『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』(産業編集センター)。著者は現役学芸員の「ちいさな美術館の学芸員」さん。美術館の舞台裏と美術鑑賞の楽しみ方をレクチャーしてくれます。超初心者にもわかりやすく書かれた本なので、「美術館の展示って、学芸員がやってたんだ」というレベルの人も安心の一冊です。
意外とシビアな美術館のお金事情
「絵画を楽しむための本」はたくさんありますが、その多くは、絵の見方を解説しています。一方この本はこれまでなかった角度からアプローチ 。「学芸員がどうやって展覧会を作っているのか」からスタートすることで、美術館に対する新しい視点を与えてくれます。
たとえば学芸員さんは、一つの展覧会を企画するのに短いもので数ヶ月、長いと2、3年かけて準備をします。
準備の具体的な内容としては、展覧会の企画を考え、関係各所から見積もりを取り、他館へ借用交渉……などなど。ほかにも、図録の準備や、展示品の解説文執筆、作品の搬送・搬入手配も学芸員さんの仕事。会場のレイアウトや照明の調整も、学芸員さんの腕にかかっています。
つまり我々は、展覧会で美しい絵画を見ていると同時に、その美術館の学芸員さんの汗と涙の結晶も一緒に鑑賞しているというわけです。絵画の順番にも、ちゃんと意味があると思うと、それだけで展覧会の歩き方が変わりそうですよね。
どんな展覧会の開催も予算あってこそですが、美術館のお金事情はシビアです。小規模美術館が、自前のコレクションだけを使った展覧会をするとしてもかかる費用は100万円前後。全国から作品を集めた企画展の場合は1000万円ぐらい。さらに複数館を巡回するような大規模展や、海外の有名美術館から多数の作品を借りる場合は億単位のお金がかかるとか……。しかし、この予算が潤沢にある美術館は、日本全国どこにもないのが現状なのだそうです。
学芸員が教える「美術館をもっと楽しむためのヒント」
第3章では『美術館をもっと楽しむためのヒント』について紹介しています。
美術館初心者にありがちなのが、「解説文をちゃんと読んで、1点ずつ順番に鑑賞していく」というもの。しかし、著者は「(解説文は)斜め読みで大丈夫です」とのこと。それよりも、まずは会場をぐるっと一周回ってみることを勧めています。全体像を把握することで企画の意図がわかり、自分の気になる作品も見つけやすくなるのです。
著者は楽しむポイントとして、次の2つを挙げています。
『一つ目は、揺れ動く自分の感情に身を任せること。』
『二つ目のポイントは、分からないという状態を楽しむことです。』
その作品が何を表しているか理解する必要はなく、ただ観て感じるだけでOK。現代人はすぐにネット検索して答えを探しがちですが、美術鑑賞で答え合わせをする必要はありません。分からないなら、分からないままにしておく。それが美術鑑賞の醍醐味だとか。
とは言うものの、作品の横に解説パネルがあると、まずその解説を読んでしまうという人は多いのではないでしょうか。
心のままに鑑賞してほしい一方で、来場者に新しい発見や気づきを与えるためには解説も必要です。すべての人が満足する展示 方法は、なかなか難しいようです。
最近の美術館事情
昨今の美術館では、撮影OKの文字も見かけるようになりました。ただし、撮影については、著作権や、ほかの鑑賞者の邪魔になるなどの問題も 。すべての美術館で撮影OKとならないのは、そうした理由からです。
また、「私語厳禁」と思われがちな美術館ですが、実際のところは各美術館のスタンスによって変わるのだとか。ちなみに著者は、「遠慮せずたくさん会話をしてほしい」という意見。一緒に美術館に行った人と、作品について語り合うことを勧めています。大声で話すのはもちろん禁止ですが、おしゃべりしながらの美術鑑賞も、新鮮で楽しそうですね。
本書はほかにも、学芸員のマストアイテムや学芸員のなり方、美術品の保存方法に搬送方法など、「知らなかった」という情報が満載。著者が厳選した美術館の一覧も収録しているので、読後は実際に美術館に足を運んでみたくなるはず。2024年はこの本を参考にアートな1年にしてみてはいかがでしょうか。
文=中村未来