TVアニメ放送中『魔女と野獣』。世界を揺るがす魔女と野獣の苛烈な戦いを描いた、魔女系復讐ダークファンタジーコミック
公開日:2024/2/8
“魔女の呪い”を解く方法をご存じだろうか。おとぎ話で聞いたことがあるかもしれない。一つは「白馬の王子様の愛の口づけ」。ロマンティックな解呪方法だ。そしてもう一つが「呪いをかけた憎き魔女の気まぐれ」。それはそうだ。では愛する人がおらず、呪いをかけた魔女が何者かもわからない場合は、どうすればいいのだろうか?
『魔女と野獣』(佐竹幸典/講談社)は現在大ヒット中のダークファンタジーコミック。舞台は現代に似てはいるものの、異能の力をもつ魔女が存在し、魔術や人外の化け物が跋扈している世界だ。そこで、魔女とその力をめぐってバトルが繰り広げられる。2023年12月時点で累計100万部突破が目前となっており、2024年1月からはTVアニメも放映中。原作コミックの緻密で美麗な作画と、迫力ある魔法やアクションシーンが見事に映像化されている。本記事では、原作コミック未読の人、またそもそも本作を知らなかった人に『魔女と野獣』のメインストーリーと魅力を紹介していく。
■美少女は呪われし野獣、狙いは……魔女!
世界にはかつて“オリジン”と呼ばれる17人の「起源の魔女」が存在していた。現在いる魔女は、その力を受け継いだ者たちであった。物語は、そんな魔女の一人が崇拝されていた町に、棺桶を背負う魔術師の男・アシャフと、獣の目をした美少女・ギドがやってくるところから始まる。彼らは、ある目的のために魔女を探していた。
この町で魔術を使った犯罪や魔獣から人々を救っていた魔女・イオーネに違和感を抱く二人。そんななか、彼らはイオーネがパーティを開くと聞き、彼女の屋敷に乗り込む。そこで目にしたのは、町の住人たちを鍵という名の生贄にする儀式であった。
120年前、町を襲った謎の業火から救ったにもかかわらず殺された魔女がいた。人々は禍はすべて魔女のせいだとし、その力を恐れたからだ。イオーネはその魔女の孫だった。住人を生贄に、封印された業火を解き放ち、町を滅ぼそうとしていたのである。この日まで長い時間をかけて画策していた復讐だったのだ。アシャフの魔術でもかなわない圧倒的なその力に、ギドは「これに見覚えがあるか!」と叫び、首の痣を見せつつ身一つで立ち向かっていく。イオーネは、それが自分のものではないが魔女による呪いの痕だと知っており、魔女の解呪は「愛あるキス」か「呪った魔女本人が解く」しかないと笑う。
だが、魔女の呪いをとくにはもう一つの方法があった。それは「魔女とのキス」であった。隙をついてイオーネの唇を奪うギド。その瞬間アシャフが背負っていた棺桶が開き、中から異形の大男が姿を現す。その体こそ、ギドが魔女の呪いにより奪われたものだった。“彼”こそがギドの本当の姿であり、魔女の唯一最大の“天敵”であった。
ギドはイオーネの魔術をものともせず、一撃で彼女を倒すと元の美少女の姿に戻る。この方法では、呪いは一時的にしか解けないのだ。二人はイオーネを捕縛、回収し「自分たちは魔術にかかわる問題を解決する組織“魔響教団”である」と言い残して去って行った。
復讐の鬼となったギドは、自分に呪いをかけた魔女を見つけ、倒すことができるのか。そもそもその魔女は何者なのか。ギドの力の秘密、“魔響教団”の真の目的、そしてこの世界に何が起ころうとしているのか――。物語が進むなかで、謎は少しずつ明らかになっていく。
■魅力的な復讐者たちの戦いの先に待つもの
本作は復讐の物語だ。ギドは、どこにいるかも何者かもわからない、自分に呪いをかけた魔女を探し出して倒し、復讐を遂行しようとしていた。物語は復讐に燃える魔女と、魔女へ復讐しようとするギドのバトルで幕を開ける。そして魔女とみられる者に大切な人を殺された女刑事、一族を皆殺しにされた最弱の魔女のエピソードなどが描かれていく。
呪いと復讐がテーマのダークファンタジーではあるものの、本作の登場人物たちには世界観に負けないパワフルさがある。血みどろの戦いのなかで、強いだけではないポジティブで元気なキャラクターたちも登場する。個人的に気に入っているのがヨハンとヘルガだ。ぜひ彼らの名前を覚えておいてほしい。
そしてもちろん、主人公のギドに注目だ。目つきと口が悪いだけではなくまさに粗暴。復讐のためなら手段を選ばないし、魔女や魔術師はもちろん、自分の邪魔をする者たちには容赦はしない。ときには相棒で彼女のお目付け役であるアシャフですら半殺しにしてしまう(女性の体のままで)。そんな野獣のギドが、人として成長していくところもポイントだ。
前述の女刑事は悩み「誰も復讐など望んでいない、たとえ復讐を終えたとしてもその先には何も残らない。それでもこの苦しみは…憎しみはどうしようもない」と述懐する。それを聞いてもギドはぶれない。
“ヤリてぇからヤんだろが復讐なんてのは
誰かの為もクソもねぇ!”
ギドは誰かを救いたいわけでもなければ、世界を守りたいわけでもない。身も蓋もないことを言っているようだが、魔女の呪いを解くためには復讐するしかないのだ。失ったものはおそらく体だけではなく、誇りなのだ。だからこそ戦い続ける。ただ……ギドはこうも言っている。
“復讐は楽しい”
アシャフも呆れる、狂気じみた飢えた野獣と、悪しき魔女との邂逅と戦いは、私たちの想像を絶するものになるだろう。重厚で複雑なストーリーと、ギドの復讐の顛末が気になる方は、ぜひ原作コミックをおすすめする。きっと、魔術に取り憑かれたように読む手が止まらなくなるはずだ。
文=古林恭