世界で読まれている「ソーシャルスキル」を学べる絵本。気分で色が変わるユニコーンのお話『かってもまけてもいいんだよ』

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/17

かってもまけてもいいんだよ
かってもまけてもいいんだよ』(オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ:著、垣内磯子:訳/主婦の友社)

「No.1にならなければ意味がない」と教えるビジネス書があれば、「無理はしなくていいし、むしろ逃げることが重要だ」と説く啓発本もあります。「皆違って、皆いい」と言われてもなお、現代人は「勝ち負け」に心も体も苦戦することが多い。

 ではそれは、子どもにとってはどうなのでしょうか。意外と子どもはそんなことは気にせずスクスクと育つのでしょうか。本記事で紹介する『かってもまけてもいいんだよ』(オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ:著、垣内磯子:訳/主婦の友社)は、どんな子どももやはりそこに苦労するし、大人がじっくり一緒になって話を聞いたり語りかけたりすることはいかに忍耐力と柔軟さが必要かを教えてくれます。

 著者はフランスで児童心理学に主眼をおいた情報とコミュニケーションに関する修士号を取得。10年間アニメ制作に携わったのち、児童書の作家としてガストンシリーズでデビューしました。本書は4歳向けで、テーマは「ソーシャルスキルを学ぶ」です。ちなみに2歳からのイヤイヤ期向け、3歳からのめばえ期向けのシリーズは「きぶんをととのえるえほん」と呼ばれていて、やきもち、ねむれない、はずかしい、おちつかない、はしゃぎたいといった感情が対象になっています。

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 主人公のガストンはユニコーンの子どもで、気分によってたてがみの色が変わります。ガストンは大人でもどうすればいいのか悩ましく思うような、こんな状況に対峙します。

ユージンは サッカーを やっている。
ガストンは サッカーは あまり すき じゃない。
でも なかなか おもいきって そう いえないんだ。
ガストンは おとこのこたちと いっしょに いたいので
なんとか やってみようと する。
ゴールしようと なんども ちょうせんしたのに
ぜんぶ しっぱいしてしまった。
ほかのこたちは それを みて わらうんだ。

 そんなガストンに、何と声をかければいいでしょうか。ここでママがガストンに声がけをします。ママの言葉は、もちろん読者である子どもに向けられていますが、同時に本書を子どもに読み聞かせて「どうだった?」と感想を子どもに尋ねる大人にも向けられていると筆者は感じました。

「ガストン、ゲームを したら
いつでも かてる はずが ないのは
わかるでしょう?
いちばん だいじなのはね
たのしんで ゲームを することよ」

 本書のテーマになっている「ソーシャルスキル」とは、より具体的に言うと「うまくいかないとき、イライラしないでやっていく方法」であると本書の公式の説明ではまとめられています。大人でもアンガーマネージメントやメンタルコントロールが仕事や生活において課題となることがしばしばありますが、かわいい絵本のタッチから、まずは大人が意見を形成し表明する術を知ることで、子どものそれも可能になるのだと襟を正してくれる一冊です。

「あせらず、あきらめず、いっぽいっぽすすもうね」という本書の優しい締めの一言はそれを最も単純かつ顕著に表しています。ぜひ、そこに至るまでにガストンが何回たてがみの色を変化させるのか、本書を手にとって確認してみてください。

文=神保慶政