ムロツヨシ主演で映画化『身代わり忠臣蔵』。かたき討ちしなければならないがしたくない! 家臣たちが繰り広げる、笑って泣ける忠臣蔵
公開日:2024/2/13
近年、時代劇のドラマが少なくなったと言われる。もちろん、NHKでは大河ドラマが通年放送していて、BSチャンネルでも時代劇が制作されている。しかし、「年末年始と言えば忠臣蔵」といったように、大型の時代劇が放送される時代ではなくなった。そんな中、数年前に公開され、日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞した『超高速!参勤交代』は、奇想天外な発想で時代劇映画としては異例の大ヒットを飛ばしていた。
『身代わり忠臣蔵』(土橋章宏/幻冬舎時代小説文庫)は、『超高速!参勤交代』の原作を書いた土橋章宏の最新映画化作品だ。ムロツヨシ主演で、偽物の吉良と、討ち入りしたくない大石内蔵助が描かれる。
忠臣蔵をやりたくない人たちの話
5代目将軍綱吉の治世。賄賂が大好きで底意地の悪い、嫌われている吉良上野介が幅を利かせていた。主人公はその弟・孝証(たかあき)。吉良家の末っ子で、身を持ち崩した貧しい僧であり、長兄である吉良の屋敷に居座っている。
ある日、吉良上野介が、江戸城で赤穂藩・浅野内匠頭に斬りつけられるという大事件が起きる。時代は「喧嘩両成敗」が基本。浅野内匠頭は切腹、赤穂藩は藩自体の取り潰しが決定と甚大な裁きを受けるが、本来何かしらあるはずの吉良家にはおとがめなし。大きな恨みを抱えた赤穂浪士たちは主君のために仇討ちせん、といきりたった。
しかし、実は肝心の吉良はその後間もなく死亡、弟の孝証が替え玉に据えられるはめに。一方、浅慮で短気な浅野内匠頭に振り回されてきた家老の大石内蔵助は、仇討ちに関して頭を痛めていた。ひょんなことで出会ったふたりは、「身代わりでの討ち入り」を企むことに……。というあらすじである。
端的に言うと、仇討ちをしなければならないが、したくない人たちの話であり、忠臣蔵を知っている人ならおなじみの人々・出来事が次々登場する。また、「なぜ吉良が替え玉を立てることになったのか」「大石はなぜ討ち入りをしたくないのか」という、理由付けが非常にわかりやすく、設定の面白さを補強している。
いつの世も、部下は偉い人に振り回されるもの
忠臣蔵では「松之廊下」と呼ばれる刃傷沙汰の当事者である吉良上野介・浅野内匠頭は、作中どちらも「暗愚」と評される何かと問題ある人々として描かれる。立場の弱い末弟である孝証と、家臣の大石内蔵助はどこまでも振り回されるはめになってしまうのだ。
赤穂藩家老である大石はカネもかかる、家臣たちの命を奪い、残された者の未来すら奪う仇討ちをしたくはない。孝証としては、急にカネは使えるようになり、跪かれるようになりはしたがやはり死にたくない。しかし、江戸城中の人々も、庶民たち世間も、太平の世に突如湧き出た仇討ちを野次馬として楽しみにしていてあとには引けない。
そんな苦しい最中、ふたりとも、全てを投げ出さず、きっちりと幕を引く。そのさまはとても鮮やかだ(といっても、このふたりにも問題がないかというとそうではない、特に孝証)。
「恨みなどを抱えていても、なんの足しにもなりません。前を向き、自らの生を豊かにしていくことが、むしろ一番の仕返しにござる」
大石が酒を酌み交わしながら言うせりふだ。文庫版解説にもあるが、「忠臣蔵」本筋がどんな話かを考えると、秀逸で、歌舞伎から連綿と続く忠臣蔵が今の時代なぜあまり放送されなくなってきたのかも透けて見えるような気がする
。
実写化でどう描かれるかも楽しみ!
セクシーな描写も多い作品だが、力を持たないものが、力を振りかざしてきた人々に対して、哀しみを抱えながら自分たちなりに戦うさまには勇気づけられる。『どうする家康』の秀吉役も記憶に新しいムロツヨシと、瑛太の大石内蔵助がどんな仇討ちをみせるのか。映画でどう描かれるのかも楽しみである。
文=宇野なおみ