いじめ、虐待、同性愛によるいじめなど思春期の辛い経験…。「どうやって乗り越えたのか?」エピソードを集めたマンガに涙が止まらない

マンガ

更新日:2024/3/1

10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました
10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』(しろやぎ秋吾/KADOKAWA)

 繊細で、傷つきやすい、多感な10代。人生経験も大人よりは少なく、辛い出来事に遭遇してもどう対処すればいいのかわからない。そんな時期を誰もが過ごしたのではないだろうか。もし、あのもがき苦しんでいた時、自分と同じ苦しみを持つ同世代がいたなら、少し心が軽くなっていたかもしれない。

 しろやぎ秋吾さんが描く『10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』(KADOKAWA)は、SNSで作者が「10代の時のつらかったことをどう乗り越えましたか?」とエピソードを募り、そこに集まったエピソードを漫画化しまとめたものである。

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10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました

 収録されているエピソードは、学校で友達から急に無視された出来事や、ゲイであることに悩んでいた話、先生と恋に落ちた話など、多岐にわたる。どれも当事者である彼らが、10代の頃に悩み、苦しんだ話だ。そして、その出来事を解決して乗り越えた人もいれば、いまだにあの時どうすればよかったのかわからないままの人もいる。

10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました

 この作品のスタンスは「こういう時はこうすれば解決しますよ」と提示するのではなく、一貫して「あなたはこの出来事をどう考えますか」と問いかけるものだ。だからエピソードをひとつ読むたびに、私の心の中ではたくさんの考えや疑問、感情が湧き起こる。私だったら、どうしただろうか。もし目の前に同じことで悩んでいる人がいたら、どうするだろうか。

 作中では、虐待やいじめ、差別など、見ているだけで辛い残酷な描写もある。ふんわりとした温かいタッチの作品の中でも、そのような場面は必ずゾッとするような露骨な表現で描かれており、そのギャップにも鳥肌が立つ。10代という多感な時期に遭遇した辛い出来事は、確かにこれだけの恐怖を持って迫ってくるものだろう。読んでいる側も当時の彼らの気持ちを追体験しているような感覚になり、より一層これらの物語が心を揺さぶってくる。

10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました

 10代の頃に経験したことは、きっと大人になった時にその人の糧になる。でも、解決しないままモヤモヤした気持ちを抱え、今も自分を責め立てたり、逃げ場のない恐怖におびえたりしている人達もいるかもしれない。そんな彼らや、彼らの周囲の人達にとって、この作品は考えを変えたり、乗り越えたりする一助になり得るのではないだろうか。誰かの痛みを想像し、自分事のように感じ、心を寄せることができる。そんなやさしさのきっかけになる一冊だと感じた。

文=園田もなか