『わたしの幸せな結婚』作者・顎木あくみによる新シリーズ始動! 帝都・東京を舞台とした顎木ワールド全開の純愛ファンタジー

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/2/6

人魚のあわ恋
人魚のあわ恋』(顎木あくみ/文藝春秋)

 2019年に始まったデビュー作「わたしの幸せな結婚」シリーズ(KADOKAWA)でいきなり累計800万部を記録し、一躍注目の若手作家となった顎木(あぎとぎ)あくみ氏。現在、中華後宮ロマンの「宮廷のまじない師」シリーズ(ポプラ社)も好評続刊中だが、さらに新シリーズがスタートすることになった。第1作『人魚のあわ恋』(文藝春秋)の舞台は、デビュー作と同じ帝都・東京。顎木氏自身が「書くのが好きな原点」という和風世界を舞台に、あらたな恋愛ファンタジーが幕を開ける!

 夜鶴女学院に通う16歳の少女・天水朝名は、8歳の頃に急に手首に浮かんだ赤い「痣」――「人魚の血」をひく証――のために家族から虐げられ、薬問屋を営む家業の金を生む「特別な道具」にされ、幸せを望むことは分不相応だと心を閉ざし生きていた。学校ではそんな心を周囲に悟られないように明るくは振る舞うが、女生徒たちが新しく赴任してくる国語教師・時雨咲弥の噂話に花を咲かせている中でもひとり距離を置いていた。ある日、そんな朝名に思いがけない縁談が舞い込む。拝金的な天水家に好都合な話で、相手は高額の結納金を持参する上に婿入りしてくれるというのだ。家の利益しか考えない父や兄に「私の縁談はさしずめ家畜の交配」と縁談相手にも期待せず自らの運命を諦めていた朝名だったが、いよいよ縁談相手と対面して心の底から驚く。相手が筆舌に尽くしがたいほどの美丈夫だっただけではない。かつて自らの運命に絶望して泣いていた幼い朝名は、ある男性に心からの言葉をかけられて救われたことがあった。縁談の相手は、朝名がずっと大切にしてきた思い出の「彼」にそっくりだったのだ……。

 主人公・天水朝名に流れる「人魚の血」は、人魚の肉を食したことで800年生きたとされる「八百比丘尼(やおびくに)」の末裔であることに由来するという。一族には時折「人魚の血」を受け継ぐ娘が生まれ、その娘は傷がすぐに治り、病にも罹らない異常な体質を持ち、その血には忌まわしい力があるという――実は「八百比丘尼」というのは実際に各地に伝わる伝説の存在で、そうした存在を巧みに物語に織り込むのも顎木ワールドの面白さだ。著者が「不老不死」というモチーフが好きなことから得た着想というが、和風な伝奇性がより濃厚な味わいをプラスする。

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 そしてなんといっても顎木ワールドの醍醐味は、そんな怪しく美しい世界をベースに、あくまでも「純真な愛」の世界が主軸となって繰り広げられることだろう。自分の本質的な魅力に気がついていない超絶マイナス思考のヒロインと絶対的なスター性を持つイケメンが、運命の糸に操られて出会い、「恋」(と言っていいかわからないもどかしさを含め)に落ちていく。ヒロインの胸のときめきに同調し、キュンキュンしたりドキドキしたり……この感覚はクセになるのではないだろうか。

 実は昨年、筆者はオンラインで顎木氏にお話を伺ったことがある。デビュー作でいきなり注目を浴びたことに戸惑いながらも、「これからも私の好きな世界を好きと言ってくれる人に物語を届けたい」と瞳を輝かせる姿が印象的だったが、すでにこんな新作も準備されていたとは! 顎木氏の今後に、ますます目が離せなくなる一冊だ。

文=荒井理恵